八十九話 閑話休題

簡単なあらすじ『ジェリアちゃんブチギレ……でしたが、漸く話を戻せそうです』




「……ハァ。まあ話も進まないし、分かったわよ。

それで?何か用事だったんでしょ?今度はちゃんと聞くから早く教えなさいよ」


コルリスのお陰で漸く落ち着きを取り戻したジェリアは俺に向けそう言った。


(ちなみに、彼女が落ち着いたのは『ここの払いは全部俺』と決定したのも要因の一つである……まあ別に良いけど)


ふぅ、やっと普通に会話出来そうだ。


というワケで俺とコルリスは、ジェリアに今回来てもらった理由、そしてそれに至るまでの経緯を彼女に説明したのだった。


……ここで一旦区切らせてもらおう。

ジェリアがまた怒り始めたからだ。『何よ!依頼と全く関係無いじゃないの!もう!貴方達緊急召集を何だと思ってるの!?』と言って。


……だよな。

そりゃあ怒るわな。




「まあ、まあ納得したわ。

貴方達が私をまたアレで呼んだ理由にはね。

何とか、ええ、何とか。やっとの事で、だけれど。


でもそれなら私の家に来れば良かったじゃない?わざわざ緊急召集なんかしなくても……」


また落ち着きを取り戻した後でジェリアはそう言った。非常に苦々しいような、そんな表情をしながら。


「「……あ〜、確かに」」


それを聞き、俺達はそんなアホっぽい声と顔をしながら彼女の意見に納得する。


「貴方達は本当に……」


すると俺達の顔を見、声を聞いたジェリアはテーブルに顔をうずめるのだった……『もう怒る気も失せてしまった』という気持ちを全身で表現しているかのように。


「しかしロフターの奴。貴方達にはまだ昇格した事すら伝えていなかったのね……まあ最近は真面目に鍛錬していたみたいだから、その暇が無かっただけかもしれないけれど」


だが、ジェリアは早々に復活してそう言った。

その言い方から察するに、どうやら彼女はロフターの昇格を知っていたらしい。


「……あれ?じゃあ、もしかしてジェリアちゃんはロフターが昇格していた事を知ってたの?」


「ええ勿論。少し前にアイツの方から大喜びで私に自慢しに来たのよ」


ジェリアはそう答えた。

その様子は容易に想像出来る……むしろ俺達の所にも急いで自慢しに来なかったのが不思議なくらいだ。


いや、それは多分ルーを驚かそうとしての事だったのだろう。結局、彼女はその場にはいなかったが……


「……なら、ジェリアちゃん。ロフター君の出場する大会の事も知ってたりしないかな?」


コルリスがやや前のめりになってからそう言った。彼女の膝の上にいたケロ太は少し苦しそうだったが、まあそれはどうでも良いか。


「いいえ、そこまでは分からないわ」


だが、ジェリアはそこまでの事は知らなかったようだ。


それを聞いたコルリスは肩を落とす……それによってまたケロ太が少し圧迫されているようだったが、まあ気にする必要はないであろう。


「結局……肝心な所は誰も分からないってワケね。

でもまあ、そういう事なら私から直接連絡しておくわよ。


せっかくここまで来たんだもの。それくらいはしてあげても良いわ……クボタさんとコルリスもそれで良い?」


すると、ジェリアはそんな事を言った。

俺はてっきり皆で小僧の家に行く事になるのだと思っていたが……まあそれならそれで、全く問題は無い。


それに、ジェリアの自宅にもあったのだからロフターの家にも必ず存在するであろう『金持ちの空気』は、俺にとっては毒となる……俺のような庶民にとっては。


……行かなくて済むならそれで良いか。

そう思った俺はコルリスにも自身の意見を話した上で、彼女の提案を受け入れたのだった。




意見もまとまったので今日は解散。

俺達とジェリアは集会所兼酒場の前で別れる……


かと思いきや、その前に彼女に呼び止められた。


「ねえクボタさん。一つ聞いても良いかしら?

ロフターの事なんだけれど……


貴方、少し前もあの子と一緒にいたわよね?

あれは私の家に来た時だったかしら。


しかも、今度は試合を見に来て欲しいだなんて……貴方達、いつの間に仲良くなったの?」


俺を呼び止めたのはそんな疑問が彼女の中にあったからなようだ。


というワケで俺はロフターが我が家に来る理由……彼がルーを好いている事を、ひっそりと彼女の耳元で伝えたのだった。「誰にも言っちゃダメだよ」と最後に付け加えた上で。


「えぇ!?そうだったの!?

意外だったわ……まさかルーをあの子が」


「ちょ!声が大きいって!」


「あ……ごめんなさい。

でも気になるわ!ねえクボタさん、もっと詳しく教えて頂戴!」


彼女が年頃の娘、だからなんだろうか。

ジェリアはこの手の話が大好物だったようだ。


と言うワケで……というか、何と言うか。

話をもっと詳しく聞きたくて仕方がないといった様子のジェリアは結局、俺達の家にまで付いて来た。


そして、俺はこれ以上少年のプライバシーを侵害してはならないと固く口を閉ざしていたのだが……ジェリアの『教えて攻撃』が夜遅くまで続いたため流石に疲れてしまい、その全てを彼女に打ち明けてしまったのであった。(ちなみに、ジェリアはそのまま家に泊まった)


「絶対誰にも言わないでよ?」ときつく注意しておいたが……彼女はそれをちゃんと守ってくれるだろうか。心配だ。

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