八十六話 暇潰しのクボタ
簡単なあらすじ『ロフター少年がまた応援しに来て欲しいと言っていました』
先日我が家を来訪したロフターの件もあり、今日俺達は街へと出向いていた。
しかしよくよく考えてみれば俺とコルリスはロフターの自宅を知らず、それに例え知っていたとしても、金持ちであろう彼の家に庶民二人が直接突撃などすれば追い返される可能性がある……
と、考えた俺達は俺が『集会所兼酒場に行き、ロフターの自宅を知っているであろうジェリアに緊急招集を掛ける』係、コルリスが『俺達もとある事情により(金欠)大会に出場しなければならなくなったため、それの参加申請を行う』係と仕事を分担し、二手に別れて与えられた任務をそれぞれがこなしていた。
まあ、俺は終わったのだが。
だから今は集会所兼酒場を離れ、ケロ太、プチ男と共に街をぶらぶらとしていた。
緊急招集は割とすぐに出す事が出来た。
『緊急』という二文字のせいか最初は緊張したが、店員に聞いてみた所俺達のようにそこまで緊急でもない用事で他者を呼び出す者はまあまあいるそうだったので、安心してかつスムーズにそれを完了させる事が出来たのだ。
ただし、『依頼と全く関係のない理由で呼び出す奴』は皆無のようだが……バレると今度こそ怒られてしまうかもしれないので、俺がそうであったという事実は墓場まで持参する事としよう。
ちなみに、コルリスとは今現在ケロ太郎が一緒にいて、それ以外の奴らは皆お留守番だ。
勿論声は掛けるつもりだったのだが……皆はエリマが自身の片翼で作り上げる滑り台やジャンプ台等々の無駄に種類の多い遊び道具をこれでもかと言う程楽しんだ後、その全員が眠ってしまっていたので放置して来たのだ。
(もう一つちなみに言うと、俺達について来た三匹は『触ると冷たくて気持ち良いから』という理由で俺とコルリスが自分達の部屋に呼んでいたため、遊び&おねんねタイムに参加していなかったのである。だから起きていたので連れて来たのだ)
まあ……そんなに沢山いても他の人々の迷惑になるかもしれないのでこれで良かったような気がする。
いや、むしろエリマと皆が仲良くやっているのを確認出来たのだから好都合だ。彼はこの調子で皆に溶け込んでいって欲しいと切に願っている……
と、そこまで考えた辺りで俺は、自身の両肩にいつの間にか二匹のスライムがいる事に気付いた。
恐らく、日差しで熱せられた石造りの道から逃れるためにそうしているのだろう。
しかし、気持ちは分かるのだが、これは……『ビッグサイズ肩パッド』みたいで少し恥ずかしいな。
肩パッドを装備したまま俺は散策を続けていた。
そして、気が付けば集会所兼酒場のある辺りにまで戻って来ていた。
だが、店内にコルリスの姿は見当たらない。
多分あちらはまだ終わっていないのだろうな。
そう思った俺は集会所兼酒場から徒歩3分程の場所にある、たまに行く武具屋にまで足を運んだ……
〝確認するのは本当にコルリスの姿だけで良かったのだろうか?〟と、心中にいるもう1人の自分が言っていたような気もしたが、それでも尚、とりあえず俺は武具屋にまで足を運んだ。
武具屋にはきっちり3分で到着した。
ここで暇を潰しながらコルリスを待つ事にしよう。
俺は店の扉を開け、中に入る。
そこにある十畳程の空間には武具と……そして、それ以上に多くの人々がいた。
俺はその人々をするりするりと避けつつ、物色にみせかけた冷やかしを開始した。
ここに沢山の人がいるのは何も珍しい事では無いので慣れていたのだ。ちなみに、街に武具屋はこの店以外にもいくつか存在するが、ここよりも人が多くて繁盛している店は見た事が無い。
その理由は簡単に推し量る事が出来る。
戦闘職の人間がしょっちゅう出入りする集会所兼酒場が近くにあるからだ。彼等は必ずといって良い程、こちらにも足を運ぶのだからな。
そうして物色を続ける事5分……
残念ながらもう飽きてしまった。
店の品物は売り切れている物が多く、見る物それ自体が少なかったせいだ。
流石人気店……今ここには両極端にも庶民の1〜2ヶ月分の給料くらいはするであろう高級な武具か、すぐに作れるらしい初心者向けの武具しか存在していなかった。
まあ品物があろうが無かろうが、俺は買わないのだから別に良いのだがな。魔物使いだし。そもそも冷やかしだし。例え買ったとしても防具くらいだ。
それに、何度も冷やかし目的でやって来る俺を追い返そうとはしないこの店にはいくら物が少なかろうと文句など無い。というか言えない。どころか言う権利すらも無い。
だから俺はとりあえず、今ある武具をひたすらに見つめ続けたり、何かの魔物の鱗で作られているであろう防具の、鱗の枚数を数えたりしていた。
71、72、73……おや?
そんな時だった。
背後に人の気配を感じたのは。
(……いや違う。店の中には人が沢山いるんだから気配もクソも無いだろうと思うだろうが、この気配には『俺の方に注目しているのでは?』というような感覚を覚えたのだ)
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