八十四話 居残りのクボタ
簡単なあらすじ『お勉強がダメダメなクボタさんは怒られてしまうのでしょうか』
「いや、な…………」
サチエは難しそうな顔をし、そこまで言って口を『への字』にしたまま黙り込んでしまった。
やっぱり怒られるのか?
やっぱり怒られてしまうのだろうか?
「……口にするのは忍びないが、大事な事だからはっきりと言おう。
恐らく今、私達の中で一番上達が遅いのは…………クボタ。君だ」
サチエは長い沈黙の後に言い辛そうにしながらも、ゆっくりとそう告げた。
実際、その通りだった。
俺を除いた三匹の受講生達は、俺よりも遥かに優秀な生徒だったのだから。
その中でも特に優れていたのはケロ太だった。
彼は持ち前の魔力の高さからすぐに内部で魔力を渦のように動かし、体内で発動させるタイプの魔法を習得していた。俺もその様子を見ていたから間違い無い。
次はプチ男、だろうか。
一応、奴は物凄く低レベルとは言え、以前一度魔法を使用していた事もあってかなかなか覚えが良かったのだ。
最後はルーだ。
彼女は最初、俺と同じで全く魔力、魔法を扱える気配がなかったが、勉強を始めて3、4日後には家よりも高い位置を跳ね回っているのを見た。恐らくあれはケロ太と同様のタイプ……それも身体強化方面の魔法を扱えていたという何よりの証拠だろう。
でも、俺にはそういう成果が全く表れていない。
そう、だからサチエの言った事は紛れも無いただの事実。にも関わらず彼はそれだけの時間を掛けて慎重に、出来るだけ傷付けぬよう言葉を選びながらそう言ってくれたのだ。劣等生であるこの俺に。
ならば多少ショックだったとは言え、俺が彼に対して怒りをぶつけたり、責めたりする事は出来ないだろう……元より、そんな事をするつもりは無いが。
「だ、だよね……ごめん」
と言うワケでそのような事を聞かされた俺は、素直にダメな生徒として彼に謝罪した。
「いや、謝らなくて良い。私だって最初はそんなものだったさ……
だからな。今から昼食が出来るまでの時間、二人で特訓をしようじゃないか!付きっ切りで私と特訓すれば、クボタもきっと皆に追い付けるだろうからな!」
するとサチエは怒るわけでもなく、そんな事を言った。
なるほど……つまり、俺だけ居残り授業か。
自宅の窓からちらりちらりと楽しげに揺れる誰かさんの頭の葉が顔を覗かせる。
そこから推察するに今、彼女はコルリスの調理を手伝って家中をウロチョロとしているのだろう。
そういえば。彼女は別の分野の教官と自身よりも強い(と思われる)エリマの登場があってか、最近ではあまり修行をさせてこないようになった気がする。
それを本人がどう思っているのかは定かでは無いが……俺としては体力的に余裕のある日が生まれ、ちょっと嬉しいと感じていた。
「では始めるぞ!クボタ、よく見ていろ!」
サチエは準備が出来たらしく、そう言った。
どうやら俺の居残り授業がスタートするようだ。そろそろ余計な事を考えるのはやめるとしよう。
「フゥ……」
サチエは大きく息を吐き出す。
するとその途端、彼の身体から光が漏れ出しているように見え……たのは一瞬だけで、それ以上は特に何の変化も無かった。見た目としては。
だがサチエが腰を落とし跳躍をすると、彼の身体は約2m程も浮き上がるではないか。
だからそう、見た目的には全く変化の無いものであったが、確実に彼の魔法は成功し、発動もされていたのだ……まあそのせいで見ただけでは全然コツが掴めないのだが。
「これは最も簡単な身体強化の魔法だ!
魔力を身体中全てに行き渡らせるようにして発動させる!さあクボタ、次は君の番だ!やってみろ!」
着地した後で、教官は俺にそう告げた。
そんな無茶な……とは思いつつも、俺も彼に倣いとりあえず息を吐く。
「ふぅ……」
その後すぐに体内に魔力を行き届け……られているかどうかは全く分からないが、そうしているつもりだ。
だから多分、これで出来るはず。
「てやっ!」
次に跳躍を行う!
そして、遂に俺は……俺の身体は。
高く宙に浮き上がる事は無く、『いつジャンプしようがまあそのくらいだろう』という位置で上昇は停止してしまっていた。
「…………も、もう一度やってみせよう!クボタ!よく見ていろ!」
こうして俺の居残り授業は続く……
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