八十三話 お勉強会

簡単なあらすじ『サチエがクボタさん宅を訪問しました』




あれからまた、数日が経過した……が。

今日もサチエが来ているので、絵面としてはあの時のままである。


そして、今回はちゃんと生徒達が家にいたので、午前中から皆はサチエを先生にして行われる、魔法のお勉強を開始する事が出来ていた。


勿論、俺も生徒としてその授業を受けている。


しかし、進捗はと言うと……

あまり芳しいものではなかった。




「頑張れクボタ!!後は自分の魔力が何と言うかこう、体内で〝ぐわ〜っとなって来る〟のを感じ取るんだ!!」


「……りょ、了解」


サチエ先生は俺に向けそう言う。

俺は苦笑いしながらも、とりあえず彼の言うそれがやって来るのを待ち続けていた。


その後サチエは他の生徒達の様子も見るため、俺の元を離れて行く。


彼の目はキラキラと輝いていた。

やる気に満ち溢れた新任教師。といった所だろうか。


だが……なぁ。


…………先程言った、芳しくない進捗状況。

それは、彼が本人にのみ分かるであろう感覚、そして指導用語共に乱発して来るのも原因の一つであった。


まあ、彼なりに頑張って指導してくれているのは分かるのだが……どうやらサチエは、『言語で相手に理解させる』という方向の指導者向きではない人物だったらしい。


ただ、一応先生は実演もしてくれるので完全に理解不能というワケでも無いのがせめてもの救いである……とは言え、一度も魔法とやらを使った事の無い俺は残念ながら、やっぱり何度それを見たとしても一向に魔法を発動させる事は愚か、感覚を掴む事すらも出来ずにいた。


……俺が、魔法を扱える日は来るのだろうか。

というかそもそも、俺の中に魔力はあるのだろうか?


出来るのかは分からないけど、コレ絶対確認しといた方が良いよなぁ。だってもし無いと判明したら、この勉強会が無駄になってしまうワケだし……


いやでも自称神様はこの身体で魔法を……いやいや、あれはアイツが持っていただけかもしれないし……


〝フフフ、クボタ。頑張ってね〟


俺が勉強にも苦戦し、こうして悩んでもいると言うのに、横からいかにも他人事と言った風で話しかけて来たのはエリマだった。


だがこれは今に始まった事ではなく、コイツはたまにこうしてちょっかいを出してきやがるので俺はそんなエリマに向けて不快感を露わにした視線を送り付ける。


彼は今やはり無関係を装いながら、木陰で俺達の様子をのんびりと観察していた。


そして、エリマの横ではアルワヒネとケロ太郎が、これまた無関係を装い眠りを決め込んでいる。


まあ……実際この事だけに関して言えば、コイツらは本当に無関係なのだが。


何しろケロ太郎とアルワヒネは魔力を持っておらず、エリマは既に炎として魔力、魔法を使いこなしているのでサチエから『勉強会の免除』を与えられているのだからな。勉強会不参加組である彼等には、いくら俺が魔力、魔法の事で悩んでいようとも何の関係も無いのである。


「うるさいなもう……頑張って使えるならもうとっくにやってるよ」


俺はエリマに文句を言ってやった。

しかし、片翼のドラゴンは反省する素振りすら見せずにクスクスと笑っている。


〝フフフ、ごめんごめん……でも、そんなに焦らなくて大丈夫だよ。クボタの中に魔力、ちゃんとあるから〟


すると、エリマはそんな事を言った。


何故分かるのだろうか……だが、コイツは嘘を言う人間、じゃなくて魔物ではないから信じても良いはずだ。


「え……そっか。そうなのか、それは良かった。


なら焦らず頑張ってみるから、お前はもう少し静かにしてろよ?分かったか?」


〝はーい。分かりましたよ。


そうしないとクボタ、いつまで経っても魔法使えないかもしれないもんね〟


「…………」


相変わらず口の減らない奴だ。

俺はエリマとの会話を無視という形で終了させた。


……それにしても。


エリマはこの数日で口数が物凄く増えた。それは出会った当初の2、3倍以上であると見て間違いは無いだろう。


その点から推察するに、彼が寡黙だったのは何かの事情があったのではなく、単にやや人見知りだったのだという事が窺える。


……はあ。これが配慮に欠けた発言(特に俺に対して)でなければ、もう少し喜べたのだがな。「やっと彼が俺に心を開いてくれた!」と。


まあ、『だからと言って心を開いていないワケではない』のは理解しているが。


「エリマく〜ん!ごめんね、また〝アレ〟お願いしても良いかな!?」


その時また声が聞こえた。

今度のそれはコルリスが発したものだった。


〝あ、コルリスさん。勿論良いよ〟


「わぁ!……フフ、いつもありがとう」


エリマは喋りながら近付いて来たコルリスにスキンシップである優しい頭突きをしてそう言った。


最初はコルリスの方がエリマに対してちょっとビビっていたが、それでも一人と一匹はどんどんと仲良くなっていったようで、今ではああして彼等だけで何かする事もあり、俺はそれを大変喜ばしい事だと感じている。


……のは本当なのだが、エリマが『さん付け』を彼女にはして俺にはやらないのだけは少し気に入らない。この差は一体なんなのだろうか?


そんな事を考え、眉根を寄せた俺を横目にドラゴンと少女は家へと入って行った。


ちなみに、それは〝アレ〟をするためで、〝アレ〟とは『家にある竈のようなものにエリマが火を付ける』事だ。そしてもう一つちなみに言うと、彼等が仲良くなった要因の一つがそれである。と思われる。


それから少ししてエリマが炎を吐く音が聞こえると、寝ていたはずのアルワヒネとケロ太郎が飛び起き、家の中へと消えて行くのが見えた。


エリマがこの家で炎を吐く。それこそが食事を作り始める合図であるからだ。


……だから食事の開始ではなく調理の開始なのだが、どうしても体が反応してしまうのか、魔物達はいつもその音で遊んでいようがそれをやめ、眠っていようが覚醒し、我が家へとすぐに戻って来る。


勿論、それは俺の魔物達も例外では無い。


……ほらな。

それを聞きつけたルーがソワソワし始め、更にそのルーを見たプチ男とケロ太も機械が連動するかのようにソワソワを開始した。


もうこれではお勉強が手に付かなくなる。

つまり、これは『午前の部終了の合図』でもあるのだ。


「おや、もうそんな時間か。皆今回も静かに聞いてくれてありがとう。さあ、私達も家に戻るとしよう」


するとそれを見たサチエは言い、家に戻るよう魔物達を促した。


それを聞いた魔物達は弾かれたように、吸い込まれるように、家へと入って行く……まだ彼等が楽しみにしているものは完成していないのだから、そこまで急ぐ必要は無いにも関わらず。


まあ良いか。

まだならまだでコルリスの手伝いをすれば良いのだからな。


では俺も家に。


「……クボタ。少し良いか?」


と思っていたらサチエに声を掛けられた。

まさか、なかなか成果を出さないから怒られる……のか?


「ど、どうしたの?」


「いや、な…………」


魔物達がいなくなったのを見計らったかのように辺りには沈黙が訪れ、俺とサチエはそれに包まれてゆく。


やっぱり怒られるのか?

やっぱり怒られてしまうのだろうか?

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