八十二話 それからそれから……
簡単なあらすじ『クボタさんはアルワヒネとお昼寝タイムです』
アルワヒネと俺がお昼寝をしていると、玄関の戸がドカドカと遠慮無く叩かれる音がした。
その音を聞いた俺は仕方なく寝床から起き上がり、自室を出てそちらへと向かう。
そして、扉を開けてみると……
そこにいたのはサチエだった。
「やあクボタ。元気にしていたか?
おや、今日はやけに静かだな」
アトラン族の青年はにこりと笑って当たり前のように挨拶してきた。なのでこちらも当たり前のようにそれを返した。
まあ、あれからと言うもの彼はたびたび俺の家へとやって来るので、今となっては本当にこれは当たり前の光景でしか無いのだがな。
一応言っておくと、そんな彼が我が家へとやって来る目的はほぼ毎回、特に無い。
強いて言えば、『一緒に勉強をする』とかそのくらいだが……それはあくまでも方便のようなもので、実際の所はやはり何の目的も無くやって来る。
まあ、その事にはアトラン族皆が賛同しており、サチエもまた楽しそうにして訪問して来るのだから俺は別にそれで良いと思っている。悪い気もしないし。
ちなみに、何故彼等はこの家に来る事を賛成し、サチエ自身も訳も無くここを訪れるのかと言うと……
アトラン族の者達は、現れた途端におザキ様を町へと連れて来た俺達……それを『生きるラッキーアイテム』か何かと勘違いしているからだ。
(ただしサチエを除いて。彼とはこうして我が家を訪れた時に幾度も話しており、その誤解は既に解けているのだ)
だからつまり、俺達を仲良くしておくべき相手だと判断した彼等一族が、その任務に最も適しているサチエを時折こうして送り込んでくるのである。
「そろそろ〇〇が無くなりそうだ。サチエ、街まで買いに行ってくれるかい?ああそれと、せっかくそちらにまで行くのだからあの人に挨拶して来なさい」
「サチエ、勉強の方は順調そうだな。なら、あの人にもそれを教えてやらなければ。さあ今日は一旦手を止めて、街の方まで行って来ると良い」などとサチエを言いくるめて……
彼に今日ここに来た目的を聞くと、やはり〝勉強〟を共にやろうとしての事だったらしい。
だがしかし、
多分、あれはアトラン族が編み出したものであるのだろう。全く見た事が無い……ちなみに、実際にやると開始数秒で負傷しそうだったので俺はパスした。
「……」
その様子を自室の窓から眺めていた俺の顔には、いつの間にか笑みが浮かんでいた。
ただ、その理由は分かっていた。
あれだけ魔法、魔力を拒絶していたサチエが再びそれを学び始め、しかもそのお陰で何やら吹っ切れたようなのだ。
今、あのように楽しげにしているのが何よりの証拠である……それは、友人としてはこれ以上なく喜ぶべき事であろう。
……そう。
〝勉強〟とは魔力、魔法についての事で、サチエはそれを俺にも教えるためと、ここへ足を運んでいるのだ。
それにしても……まだしてもいないあの時の約束を果たしてくれるとは。彼は本当に少し抜けていて、真面目で、良い友達である。
サチエは俺達がいなくなり、体調が回復するとすぐに何とダマレイに自ら願い出て魔法、魔力の勉強を再開したようだ。
(聞けばそれは、気を失う前に聞いたおザキ様の言葉がきっかけであるらしい。ただ、それがどういったものだったのかまでは教えてもらえなかった)
そして彼は元々才能があったらしくその成長は素晴らしいものであり、現時点で前よりも少し質は落ちるがその程度の御守りくらいならば作れるようになっているらしい。
ただ、魔法自体の扱いはまだ苦手なようで、今は『打ち出すタイプ』ではなく、『体内で発動させるタイプ』の方の魔法を重点的に練習しているそうだが。
だがしかし、それによって彼とダマレイは前よりも仲の良い親子となったそうで、そんな素晴らしい出来事があったという点を考慮すれば苦手な魔法がある事など些細な問題だと言えるだろう。
それに、彼の実力を見ればすぐに前者の魔法も使えるようになるはずなのは一目瞭然であり……
要するに、とにかくまだその事で悩む必要は、彼にはやっぱり全くないはずなのだ。
なので彼はゆっくりと、今まで背負うつもりであった悲しみから一歩踏み出す事が出来たという喜びを感じながら、学び続けてゆけばそれで良いと思う。
彼はまだ、『人生という長い時間』をしっかりとその手に掴んでいるのだから。
急に外がわちゃわちゃとし始めた事で俺の意識はそちらに向けられる事となった。
すると、窓から見える景色にはコルリス、プチ男、ルー、等々……見慣れたメンバーが加わっている。察するに、祝勝会を終え皆で帰って来たのだろう。そしてジェリア達とはそこで解散したようだ。
そして、俺は何故か皆がこちらを向いたり、指差したりしながら話し始めた事に気が付いた。
恐らく、また〝勉強〟か〝特訓〟のどちらかが始まるのだろう。どちらも教官が違うだけでまあまあ疲れるので、正直今はあまりやりたくないのだが。
……とか言うと頭に葉の生えた方の教官は不貞腐れるし、せっかくここまで来てくれた方の教官は『拒否=不調』と勘違いしてまた騒ぎ始めるだろうから、面倒だが俺も行くとしよう。
だが、何故だろう。
あの場所から帰還した事で『普通の生活』というものの喜びを再確認出来たせいか、悪い気はしない。
いや……
窓の向こうに一人の人物が増えた。
それが一番の理由かもしれないな。
そんな事を思いつつ、俺は腰を上げた。
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