八十話 さあ、帰りましょう!

簡単なあらすじ『やっとクボタさんとコルリス達の再開です』




地上へと降り立つおザキ様を、皆はぽかんと口を開けたまま凝視している。


そして、時を止められたかのようにしている彼女達の時間は、おザキ様が先にエリマと俺をゆっくりと地面に置くようにして降ろした後に漸く動き出す事となった。


「あ。クボタ、さん…………クボタさ〜ん!!」


一番に活動を再開したのはコルリスだった。

彼女はすぐに俺の元へと駆け寄って来る。


彼女は全く減速しようとはしなかったので、それを受け止めた俺とコルリスはかなり強めの抱擁をする事となってしまったが、恥ずかしさよりも申し訳なさと喜びが勝り、そこには一切の羞恥も無かった。


むしろ、その無いはずである『恥ずかしさ』のとばっちりを強く受けているのはジェリアであった。


彼女は「ちょコルリス……!そんな……」と言ったまま再び硬直してしまっている。ただし、今度は顔を赤くして。


が、あまり意識すると俺もそうなってしまいそうだったので、とりあえずそんな彼女には冷静な表情(多分そう見えているはずだ)で「ごめんね、ジェリアちゃん。君にも心配かけちゃったね」とだけ伝え、それが治まるまで放置しておく事にした。


すると、魔物達も俺の方へと向かって来た。

言葉こそ話せない彼等だが、その様子を見ればどれだけ心配してくれていたかなど容易に窺い知る事が出来る。


魔物達の中で最も早く、俺の元へとやって来てくれたのはルーであった。コルリスごと抱きついてきた彼女を俺もまたコルリスごと受け止め、その頭を撫でてやった。


いつの間にか元の形状に戻っているケロ太とプチ男はぷにぷにと動き、足並み(足無いけど)を揃えてこちらに近付いて来る。その後ろにはミドルスライムとチビちゃん、そしてケロ太郎の姿があった。


「お前達もありがとうな」


それを見た俺は彼等も受け止めようと両手を大きく広げるが。


奴等の殆どはエリマの前で動きを止めた。

どうやらコイツらはただ単に見慣れない存在である彼の事が気になっただけのようだ……この薄情スライム共め。


その〝殆ど〟に当てはまらないのはケロ太郎だけだった。彼は今コルリスの足元で頬をぶるぶると震わせている……コイツもコイツでご主人様の元へとやって来ただけのようだな。


そして、スライム達の歓迎(?)を受けたエリマは一匹一匹に目をやり、鼻先や手でそれらを軽くつついたりしている。


とりあえず第一印象は互いに悪くなさそうで安心だ……それにしても、スライム系の魔物はドラゴンが好きなのだろうか?


……いや、ウチのスライム比率が多いからたまたまこうなっているだけかもしれないな。


そう思い、俺は頭に浮かんだどうでも良過ぎるそんな考えを更に浮上させ、大空へと放り出した。つまり放棄した。




〝良い仲間達に恵まれたな。クボタ、彼等がそう思っているように、君も彼等を大切にした方が良い。これからも。


それでは、私は一足先に町へと向かう事にするよ。サチエの事は任せてくれ……


……と言いたい所だが、すまない。誰か一人で良いんだが、私と共に来てくれないか?


私が近付けば町の者達は再び気絶してしまうだろうからな……それでは彼の治療が遅れてしまう〟


俺が心配されたり、されなかったりしたのを見届けた後におザキ様はそう言った。


確かにその通りだ。

彼が町に行けばいくらアトラン族と言えど堪らず気を失ってしまい、サチエも治療を受けられなくなってしまうだろう……その途中で役目を交代する者が必要なのだ。


いやでも、町人達の中には気絶しなかった猛者達がいるんだったような?


「でも確か……あの町には尾崎さんが近付いても大丈夫な人達が何人かはいるんですよね?それなら」


〝いや違う。気絶していなかったのは彼女達だ。それも、アレのお陰でな〟


俺の言葉を遮り、おザキ様はそう言った。

コルリスとジェリア、その次にケロ太を指して……何だって?


「えっ!?」


〝そうなるのも分かるが、説明はまたの機会にしよう。さあ早く、誰か一人で良いんだ〟


そう言っておザキ様は催促する。

何やら色々と気になる事もあったが彼の言う通りなので一旦、それについての疑問は頭の隅に置いておく事とする。


では、その一人をどうしようか……とも言っていられない。ここは彼と一番長く時を共にした俺が行くべきだろうな。


そう思い、俺は口を開いた。

それに立候補しようとしているエリマを制止しながら。(ドラゴンが先に町に辿り着いたりしたらどうなるか……と思ったからだ)


「じゃあ僕が」


「わ、私が行くわ!

仕方なかったとは言え、サチエに一人で行くように勧めたのは私だもの。彼が怪我をした責任は私にあるわ」


また言葉を遮られた。

だが、今そうしたのはジェリアであった。


それを意外だと感じた俺は彼女を見やる。

その瞳には少しの恐怖と後悔の念が入り混じっているように見えた。


恐らく前者はおザキ様の存在からで、後者は先程彼女が話した事によって生じたものであるのだろう……


しかし、そこには決意も垣間見えた。

ならば彼女に任せるべきだと言える。事の成り行きまでは分からなかったとしても。


そのような考えに至った俺は静かに彼女を見、頷く。それに反応し、ジェリアはぎこちない笑みを浮かべた後におザキ様に歩み寄った。


「ジェリアちゃん……」


コルリスはジェリアを心配しているのか、彼女に声を掛ける。


「フフ、大丈夫よコルリス」


〝魔物に乗って友人が一人で行く……

それはとても不安だろうが、どうか私を信じて欲しい。必ず無事に送り届けよう。彼も、君の友人もな〟


するとジェリアだけでなくおザキ様までもがコルリスにそう言い、彼女の不安を和らげようとするのであった。


「……そう、ですね。

あの、どうか私からもよろしくお願いします。それと、色々とありがとうございます」


〝……優しい子だ。

ああ、任せてくれ〟


そう言うと、おザキ様はジェリアを背に乗せた。

あれ、俺の時は……まあ良いか。


〝ええと、ジェリア、だったかな?

さあ出発しよう。しっかり捕まっているんだぞ!〟


「ええ、そうしましょう。

じゃあクボタさん、コルリス、先に行ってる……


わぁあああああ!!」


飛び立ったおザキ様の上でジェリアは叫び続けていた。


馬鹿にするつもりは無い。

彼女の気持ちは痛い程分かるのだから。




「…………クボタさん!

さあ、帰りましょう!」


それから少しした後、コルリスが元気にそう言った。


そうだな。俺達も町に戻るとしようか。


「そうだね……というか、今気付いたけど何かボロボロじゃない!?大丈夫!?」


「ええ勿論!大丈夫です!無事勝利したんで!

あっ!そうそう、クボタさん聞いてください!私とジェリアちゃんと皆でオークを倒したんですよ!それも四匹!」


「え!?じゃあ、依頼はもう終わってるの!?

……そうか、だからボロボロだったのか。後で二人もゆっくり休まないとだね。


……でも、凄いね。どうやったの?」


「フフフ、それはですね…………」


そうして俺達は歩き始める。

またコルリスと、また皆と一緒に。それも、新たな仲間と共に。




ちなみにその間、ずっとコルリスは話し続けていたが……心配を掛けた事もあり、俺はそれをきちんと全て受け止めた。

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