七十九話 帰還 その2

簡単なあらすじ『クボタさん、サチエ、エリマはおザキ様に乗ってアトラン族の町に帰ります』




優雅な空の旅の途中でおザキ様は徐々に高度を下げ、低空を飛行してくれるようになった。


ただ、それは俺に気を遣ってでは無く、アトラン族の町が見えてきたからなのだが……まあそれがどんな理由であれ、俺の恐怖も少しずつ薄まってきたのでこれにはとても助かった。


しかし、隣にいるエリマは逆に少し不満げな様子だ。

空の飛べぬ彼は、この旅が終わって欲しく無いのだろうな……いやどの道終わるのだからそんな事言っても仕方ないが。


〝我慢してくれクボタ。あともう少しだ〟


その時、頭上から声が聞こえた。

当然その声の主はおザキ様である。


というか……彼の口からそんな言葉が出て来たという事は。もしかするとこの低空飛行はやはり俺のためにとやってくれていたのかもしれない。いや絶対そうだ。


「は、はい!……気遣って頂いてすみません」


〝気にするな。誰にでも苦手なものはある〟


俺が謝ると、おザキ様はそう返してくれた。


そして、その表情には余裕があるか無いかで言うと、余裕しか無いようであった。二人と一匹を乗せ、それなりの距離を移動しているにも関わらずだ。


力もそうだが、持久力もハンパじゃない。

色々な意味でも、やはり彼は凄い魔物だ……


そんな事はとうの昔から分かっていたが、改めて俺はそう思った。


……と、俺がそう考えながら頭上を眺めていると(本当はおザキ様の表情を盗み見ていたのだが)、エコノミークラス……じゃなくて、おザキ様の背中に乗せられいるサチエの顔がちらりと見えた。


相変わらずその顔色は悪いが、魔王城を出た時と比べてそこまでの変化は無かった。


良かった。これならば適切な治療さえ受ければ彼は必ず助かるだろう。俺は胸を撫で下ろした。


〝おや……?あれは……?〟


すると突然、おザキ様が言った。


その声に釣られて下を見てみると、そこには…………




そこには……コルリスがいた。

そしてジェリアと魔物達も彼女と一緒である。


しかし、皆は一体何故そんな……町から離れている荒野を歩いているのだろう?しかも一行は町と反対方向にトボトボと歩いている。


彼女等の様子はとても疲れているように見えた。それも全員がだ。全くワケが分からない。そうまでして何処に向かっているのだろうか?


そして、その方角は俺達が背にしている……分かった。魔王城だ。恐らくサチエと俺を迎えに来てくれたのだろう。


色々とあり過ぎて完全に失念していたが、コルリス……いや、皆そうか……


とにかく、皆に心配を掛けてしまったようだ。

それもかなり。


「すみません尾崎さん!急いでいるのは分かってるんですが、一旦止めて僕だけもここで降ろしてもらえませんか!?どうかお願いします!」


俺はおザキ様にそう懇願した。

ここから歩く事になったとしても、皆に自分達の存在を伝え、そして皆で一緒に帰りたかったからだ。


むしろそうしなければコルリス達は無駄足どころか、更なる危険に巻き込まれてしまうのだから。


〝そうか、思い出した。確かあの者達は君の知り合いだったな〟


「えっ……?何故それを?」


〝彼女から聞いたんだ。ほら、あそこにいる……とても心配している様子だったよ。


そうとなれば仕方ないな……さあ、降りるとしよう〟


おザキ様は俺の要求を聞き入れてくれ、また更に高度を落としてコルリス達に近付いて行った。


「皆……ごめん。でもありがとう」


その最中、俺は短くそう呟いた。





おーい!皆ー!


このくらいなら皆に声が聞こえるだろう。

そう思い、俺はそんな感じで声を掛けようとしたが出来なかった。


何故か突然カエルフォルムとなったケロ太がゲロゲロと叫びを上げた事によって皆は俺が声を掛ける前にこちらの存在に気が付き、とんでもない表情で頭上を見上げたからだ。


するとその時、彼女達が急にふらふらとして地面に倒れ込むのが見えた……が、唯一元気に叫び続けているケロ太のそれがやかましかったのか、皆はすぐに意識を取り戻す。


……これは多分、おザキ様の持つ〝例のアレ〟のせいなんだろうな。俺はずっと彼の近くにいたからか耐性(?)が出来たようだが。


しかし、この人の〝気のようなもの〟は人だけでなく魔物にも、しかもこれ程までに影響を与えるのか……ケロ太が元気な理由は全然分からないが。


俺は本日何度目となるだろう、おザキ様という存在の凄さを改めて実感する事となった。


…………そんな冷静にしてる場合じゃないか。


「み、皆!大丈夫!?」


俺はそう叫んだ。


しかし、それはあのカエルさんの声量に負けていたのか彼女達の耳には届いていなかったようで、皆が俺の存在を知るのはもう少し後となった。

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