六十五話 それぞれの役目
簡単なあらすじ『チビちゃんがデカ過ぎてオーク達に見つかってしまったようです』
〝ジェリアちゃん、この子これからも連れて行くの?ずっとこんな感じで……〟
少し前に〝彼〟がそう言っていたのを思い出す。
あれはもしかすると、『このような問題が起こる事への危惧』も含めた発言だったのかもしれない……
そのような回想をしたのはジェリアであった。
そして、それを終えた彼女はすぐにコルリスの耳元で何事かを囁く。
「ねえコルリス…………」
「…………そっか、そうだよね。ならジェリアちゃん、やろう!私達で!よし!私はやるぞ!やるぞ、やるぞ……出来る、出来る……大丈夫、大丈夫……うわー!!」
すると、突然そのような意味不明な発言を始めたコルリスとジェリアが立ち上がり、接近を続けているオーク達に何とその姿を現してみせた。
「なっ……二人共!?何をやっているんだ!?」
彼女等の行動には流石のサチエも驚きを隠せなかった。彼は混乱したまま、二人にその理由を、その真意を尋ねる。
「何って、チビちゃんが見つかってしまったんだもの、もう隠れる必要はないでしょう?それに、こうなったのはあの子を連れて来た私のせいでもある……だから戦うのよ。さあ貴方達!準備は良いかしら?」
ジェリアはそのように答えた後、魔物達へと呼びかける。
そして、それを受けたチビちゃんとミドルスライムはその声に呼応するかのように一度大きく、ぷるりと体を震わせた。
まるでそれは、本当にその声が聞こえているかのような動きだった。彼女も魔物使いとして日々成長しているのであろう……耳を持たぬ魔物達に、自身の意思をある程度理解させられるくらいには。
「ケロ太郎君は大丈夫……みたいだね!じゃあやろう!」
ジェリアに続き、コルリスも声を上げた。
すると、それを聞いたケロ太郎は怖気付くそぶりも見せずに、むしろ「そうするのが当たり前」とでも言うように、ゆっくりとした動作でそう叫んだ少女の一歩前に立った。
これから戦う事になるであろう相手が、自身よりも格上だと知っているにも関わらずだ……
魔物達の中では最も弱い存在であろう彼だが、どうやら『自分の主人を守りたい』という、胸に秘めた想いは他の者に引けを取らない程強いものであったようだ。
「それと皆!クボタさんじゃなくて嫌だろうけど……今は!今だけは私の言う事を聞いて欲しいの!どうかお願い!今だけは!!」
次にコルリスは『クボタの魔物達』にも呼びかける。
そうされたルー、プチ男、ケロ太は普段と違う状況と司令塔に少し戸惑っている様子であったが、「ひとまず彼女の言う事を聞くべきだろう」とでも考えたのか、常日頃クボタとの練習でしているような構えを取って見せた。
「だが、だが!クボタはどうするんだ!」
呆れたような顔でそれを見ていたサチエはまるで彼女達を罵倒するかのような声、口調でそう言った。
しかし、彼が〝怒号と間違いそうにもなるそれ〟を発した理由など容易く推し量る事が出来るはずだ。
そう、サチエが先程言っていたように、今あれらと戦っている暇などないのだから……
「大丈夫!勝てる!きっと勝てる!」
「……その事なんだけれど、貴方に任せたいの。これにはコルリスも賛成しているのよ」
興奮しているのかサチエの話を全く聞いていないコルリスに代わり、ジェリアが彼へと言葉を返した。
「……それは、何故なんだ?君達はクボタを助けるためと、あんなにも意気込んでいたと言うのに」
「〝だから〟よ。サチエは多分、私達よりも強い。しかも貴方はアトラン族で、この地方を知り尽くしている……それに、貴方ならもう気が付いているのでしょう?土地勘も無い、実力も無い。そんな私達はただの足手纏いだって事に。
なら、そんな私達が出来る事は一つだけ。最も強い者を支える役に回る事……例えば今みたいに、目の前の障害を引き受けてサチエを先に行かせたり、とかね……本当の事を言うと、ただのお荷物にはなりたくないのよ私達」
ジェリアは少し、悲しそうな表情をしてそう言った。
そして、彼女の言う事は真実であった。
皆にも分かるはずだ。オークという魔物との戦いでサチエは何の躊躇も見せずに切り掛かったのに対し、ジェリアとコルリスの二人は自身を、魔物を、自らの持つその全てを鼓舞しなければそれと対峙する事すら出来ないのだから。
正直な所、サチエにもそれは分かっていた。
だが彼は彼女達の想いの強さに心打たれ、その欠点とも言える部分に目を背けていたのだ。
「全てを任せてしまうようで申し訳ないけれど、これが私達に出来る精一杯なのよ。だからお願い、行って…………クボタさんのためにも」
「だが…………」
しかし、不安が残るこの状況で二人を置いて行くなど、彼女達を見捨てるようなもの……だが、行かなければクボタが……
サチエがそのような事を考え、決断しかねていた時。
「……サチエさん」
不意にサチエの話を聞いていないとばかり思っていたコルリスが口を開いた。
「私もジェリアちゃんの言う通りだと思ったんです。だから……クボタさんの事、よろしくお願いします。ここは私達に任せてください」
彼女はそう言うと、再び彼女なりの精神統一(?)のような状態へと戻った。恐らく、今の彼女にはそれだけを言う余裕しか無かったのであろう。
しかし、サチエの心を動かすには〝それだけ〟で、その一押しだけで充分だった。
「コルリス………………分かった。私のやるべき事も、君達の気持ちもな。また会おう二人共。必ずだぞ!」
こうして漸く決心の付いたサチエは、魔王城へと向け走り出すのだった。
二人の想いをその背に乗せて。
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