六十六話 人ならざる者の願い

簡単なあらすじ『サチエは一人で魔王城へと向かう事にしました……ここでクボタさんの視点に戻ります』




〝目覚めたかい?青年よ……いや、君はどうやら、そう呼ぶには歳を取り過ぎているようだ〟


誰かが話している。

その言葉は恐らく、俺に向けたものであるのだろう。


そして、それは何処かで聞いた事のあるような声色をしていた……頭がぼんやりとしていて、思い出す事は出来なかったが。


〝まあ良い。君、目覚めたかい?〟


また、その声が俺を呼ぶ。


俺はいつの間にか閉じられていた目を開け、それの主を見、言葉を返してやる事にした。


すると、何故なのだろう……?

俺が今いる場所はコルリス達と住んでいる家の自室、それも寝床の上であったのだ。先程までザキ地方にいたにも関わらず。


だが驚きはしなかった。

これは夢だとすぐに理解したからだ。そんな所で寝ているワケがないのだからな。


そう理解した後で夢の世界の自室をキョロキョロと見回すと、声の主を窓の外に発見した。


大きなドラゴン、だろうか。

多分、夢の住人とは言えこのようなサイズであったがために、彼はそこに配置されてしまったのだろう。


爬虫類に似たその顔は凛々しく、まるで鷲や鷹の持つそれのようにも見えてくる。


特にそう思わせるのは目だ。

それは結膜がやや黄色気味であり、『空の王』や『捕食者』という言葉が似合うようなしっかりとした光をそこに宿していたのだから。


体の方は大き過ぎてここからではよく見えないが、非常に逞しく、力強い〝なり〟をしているのは何となく察する事が出来た。その長い首に付いた筋肉のお陰で……


そんな屈強なドラゴンを目にしても、俺は不思議と恐怖を感じなかった。


まあ、これは夢であるのだし、何より彼は俺に呼びかけていた……つまり対話が可能であり、しかも俺に話しかけているのだから相手もそうする、いや、そうしたいと思っているはず……


そう、俺は言葉選びさえ間違えなければ今すぐに喰われたりする事は無いのだ。まだ多分としか言えないがな。


「はい。ところで、僕に何か用ですか?」


そこまで考えた後に、俺は漸くドラゴンへと返事をした。きちんと敬語で、それも年上であろう彼向けに一人称を『俺』から『僕』に変更してだ。(声で判断しただけだから確定ではないが)


〝ああ。だが、まず最初に礼を言わせてくれ。私を『還す』手助けをしてくれてありがとう、とね〟


ドラゴンは口元を歪めてそう言った。

もしかすると微笑んでいるのかもしれない。


そして俺は気付いた。いや、思い出した。

このドラゴンのものであろう名前を。


「……!!もしかして貴方はあの時のドラゴンゾンビ……アルヴァーク、さんですか?」


そう、アルヴァーク……

というか俺に礼を言うドラゴンなど、むしろそれくらいしか思い当たらない。


ただ、言われる程の事などしてはいない、いや、出来もしなかったのだが。


〝彼との会話……あの時に聞いていたのか。そうだ、私はアルヴァーク。現世に執着し、ドラゴンゾンビとなるまでに堕ちてしまった愚かな魔物だ〟


アルヴァークはやや自虐的な自己紹介をした。


だがそう言いつつも、彼の顔に悲哀の色は見当たらなかった。やはりそれは解放されたから、なのだろうか。


〝さて、突然言われても訳が分からないかもしれないが、『ここ』は長居出来る場所では無いんだ。君にとっても、私にとってもね。だから目覚めてすぐですまないが、手短にいこう……


早速だが君に頼みたい事があるんだ。聞いてくれるかな?〟


「は、はい」


とりあえず容認した。


だが、ドラゴンが人間の俺に一体何を頼むと言うのだろうか?

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