六十四話 ぷるり存在感

簡単なあらすじ『いざ、魔王城へ』




「……!待つんだコルリス!ルー!」


一行が魔王城へと歩き始めたまさにその時、サチエは視界の隅にあった人影のようなものに気が付き、先頭にいた一人と一匹を制する。


「きゃっ!サ、サチエさん急に何ですかっ!?」


「しっ!静かに」


その後すぐにサチエは彼女等を伏せさせて自らもそのような格好をし、その人影がある方角に向け目を凝らした。息を、潜めながら。


それを見たジェリアもサチエを真似、すぐさまかがみ込んだ……


直後、魔物達にもそうするよう指示を出そうとしたが、既に何もせずとも周囲の枯れ草に紛れる事が出来ている小柄な者達(プチ男、ケロ太、ケロ太郎)を見、自らの肉体をもってのし掛かり、その身を押し縮めるのはミドルスライムのみに留めた。


「あれは……」


それだけ言うと、サチエは顔を苦々しいものへと変えた。


人影の正体が五匹程の人型魔物……オークの群れである事を知ったからだ。


オーク達は秩序無い歩調で移動していた。

そうしながら鳥のような頭を持つ者は先程捕らえたのであろう獲物を貪り食い、犬のような顔をしているものはそれを奪おうとし、二匹の豚に似た顔のものと爬虫類顔のものがそれに不快感を覚えたのか、唸り声を上げ他のもの共を威嚇している。


ドラゴンゾンビと共にいたオークとは大変な違いだ。

全くもって統率がとれていない。どころか、群れを率いる者さえもがいないように見える……もしそうであればそれはまさしく、文字通りの烏合の衆だ。


「クソッ、こんな時に……」


サチエはそう言い、舌打ちする。


あれらに見つかり、戦闘にでもなれば魔王城への潜入が大幅に遅れてしまうのだ。そうするのも仕方がない事であろう。


「ねえコルリス。あれってもしかして……」


「そうだよね。アレ多分今回の討伐対象だよね……でも、今はクボタさんが先だよ」


「勿論分かっているわ。でも一応覚えておきましょ、オークがこの辺りにいるって。また来る事になるでしょうからね。今度は、クボタさんも一緒に……」


二人の元へと身を屈めながら近付いて来たジェリアとコルリスが何やら話している。


(ちなみに、その予想は的中していた。今回クボタ達の引き受けた討伐依頼、その対象のオークはドラゴンゾンビといた三匹のオークではなく、こちらの方のオークであったのだ……が、この二人も、当然ながらクボタも、それを知る事はないであろう)


どうやら、ここにやって来た目的である討伐依頼の話をしているようだ……だが今はそれどころではない。


そう二人も分かっているはずだろうと思い、サチエはそんな二人の会話に割り込み先を急ぐよう促す事にした。


「二人共、分かっているだろうが今はあれの相手などしている場合ではない。這い進む事になるだろうが……とにかく先を急ぐぞ。走り出すのは奴等との距離を充分に稼いだ後だ」


「その通りですね、ごめんなさい」


「ええ、分かっているわ。行きましょう」


そのようなやり取りを終え、一行は移動を再開した。


しかし、その少し後でジェリアが〝ある事〟に気が付き、静かに声を上げた。


「ねえ、何かアイツらこっちに向かって来てないかしら?気のせい?」


「何っ!?」

「えっ!?」


まさか、気付かれたのか……!

ジェリアがそう話すのを聞き、二人は再び進むべき方向からオークの群れへと視線を移した。それも、弾かれたかのように速く。


そうして見てみると、確かに魔人共はこちらへと一直線に向かって来ているようであった。


だが、何故なのだろう……?

まだ我々と奴等の距離は遠く離れており、身を隠している今の状態ならば発見される確率は僅かしかない。


だとすると我々の後方に何かが、オーク共を惹きつけるような何かが、そこにあるのだろうか?


そう思い、振り返った三人は同時に間の抜けたような声を出した。


「「「あっ」」」


そこには大きく、丸く、自身の存在を周囲に力強く、それでいて惜しげも無く曝け出すチビちゃんの姿があった。


そう、オーク達に見つけられてしまったのは三人……と一人のような一匹でも、小柄な三匹でもミドルスライムでもなく、チビちゃんであったのだ。


そんな分かり切った事、一々口に出す必要などないとは思うが……

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