六十一話 〝あのお方〟

簡単なあらすじ『怪鳥は行ってしまいました……クボタさんはどうなったのでしょう?』




「ん。ここ……は。ここは!?」


サチエが目を覚ました。


彼は今、自分の身が先程までいた荒野ではなく、族長宅にある事を酷く驚いているようだ。


「……!父さん!」


そして事の次第を確かめようと周囲を見回し始めたサチエは自身の側にこの家の家主であり、父でもあるダマレイがいた事に気が付き、再びその顔に驚きの表情を作り上げる。


それは一体、何故なのか?


その父親までもが寝床に横たわっていたからだ。


普段ならば日の沈まぬうちから眠る事などするはずのない、真面目な働き者で、なおかつ屈強な父親までもが……


「あっ!サチエさん、良かった……目を覚ましたんですね!」


その時、部屋に入って来る者の存在があった。


それはコルリスだった。

彼女は二人分の水が入った容器を手に持っている。恐らく、それはサチエとダマレイのためにと持って来てくれたのだろう。


「ごめんなさい、様子を見に来るのが遅れてしまって……でも、無事で良かったです。お怪我とかはありませんか?」


コルリスはそう言い、安堵したような表情を見せる。


しかし、彼女がそのような事を聞く訳も、自身がこうなっていた経緯も、父が眠る理由も……


そして、〝彼〟の安否も……サチエにはその何もかもが分からなかった。


「コルリス……すまないが私には、今こうなっている理由が全く分からないんだ。もしそれを知っているのなら教えてくれないか?」


そう思い、サチエはコルリスに説明を乞うのであった。




コルリスが説明を終えた頃、ジェリアと魔物達が族長宅へと戻って来た。


それを見たサチエは皆に礼の言葉を述べる。

コルリスに全てを聞き、彼女達がこの町のために尽力してくれた事を知っていたからだ。


その後、サチエは顎に手を置き、思案する。

先程聞いた事を脳内で整理、確認しているのだ。


まずコルリスとジェリア、それと魔物達……彼女等は〝あの出来事〟によって道端で倒れてしまった町民達、それとここまで連れて来られたサチエを今まで介抱してくれていたのだそうだ。


そして、最初に介抱したサチエとダマレイの様子を見に来た時、丁度彼が目を覚ましたのだと言う。


という訳でダマレイもその例に洩れず、外で気を失っている所を二人と魔物達に発見されてここへと運び込まれ、今のような状態となっているらしいのだが……


ただ彼だけはまるで『神に祈りを捧げている』かのように、地べたに両膝を付き、自身の指同士を絡ませたまま気絶していたようだ。


まあ、〝あの出来事〟というのが本当ならば無理も無い……むしろ自分でさえもそうするであろう……


そこまで考えて、サチエは眉根を寄せた。


だが……何故〝あのお方〟が?

今までこの町にやって来た事など、無いと言うのに。


それよりも。

コルリスの言っていた事が本当だとすれば、クボタは。


彼は恐らく、〝あのお方〟の手中にある…………


「あの、サチエさん。私も聞きたい事があったんです。その……貴方と一緒にいた、クボタさんは……」


「そうよ。クボタさんは大丈夫なの?何があったのか説明して頂戴」


考えを巡らせていたサチエに、コルリスとジェリアが質問を投げかける。


二人はそれを、その人物の安否を本当に心配している。それが一目で分かるような表情をしていた。


どうやらこの二人にとって彼は、この上なく大切な存在であるのだろう。


……勿論、サチエにとってもそうであった。


確かにこの二人と比べると、自身と〝彼〟との交流はそこまで深いものではないはず。


だがそんなものは関係なかった。

彼はサチエの命を救ったばかりではなく、彼が腫れ物扱いされている事を知った後でも寄り添い、共に悩んでくれたかけがえのない友人なのだから。


……そんな友人をいつまでも放っておくわけにはいかないな。


待っていろクボタ。今すぐ助けに行くぞ!


そう心に決めたサチエはすぐさま立ち上がり、二人へとこう言ってみせた。


「すまない二人共!その話はまた後にしてくれ!私は今すぐ行かなければならないんだ……友を、我が友を助けるために!」


それだけを告げ、サチエは駆け出した。


自身を救い、次は共に悩んでくれようとした友を、今度は自分が助けるために……

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