六十二話 〝あのお方〟 その2
簡単なあらすじ『サチエは駆け出しました。クボタさんを助けるために』
もうすぐ町の外、という所で足がもつれたサチエは大地に倒れ込んだ。
目覚めてから間もないにも関わらず走り出した事もそうだが、彼を転倒させた一番の原因は間違いなく〝焦燥〟であろう……
そう、『早くクボタの元へと行かねばならない』と考えたサチエは焦っていたのだ。
彼が一体、どうなってしまったのか……今のサチエにも、全く分からないのだから。
「待って!サチエさん!」
「待ちなさいよサチエ!」
痛みを堪えて立ち上がり、再び駆け出そうとするサチエの背にコルリスとジェリアが声を浴びせる。
彼女等と魔物達は急に族長宅を飛び出した彼を放ってはおけず、追いかけて来ていたのだ。
それを見ても尚走り出そうとするサチエの腕をルーが掴み、その動きを封じた。
彼女の力は凄まじいものであり、サチエにそれを振り解く事は到底不可能であった。
「むっ!」
「離してくれルー!私は行かなければならないんだ!」
そう言ってしばらくルーの手を振り払おうとしていたサチエだったが、コルリス達がすぐ側まで来ている事に気が付くと、仕方がないとでも言うかのようにその動きを止めた。
「とにかく、一度落ち着いてください!貴方はさっきまで気絶していたんですから、そんなに急いで走ったら身体が追い付かなくて当然です……まずは、訳を教えてくれませんか?」
「そうよ!私達に何も教えてくれないのは酷いんじゃないの!?それに、貴方がそんなに慌てているのはクボタさんの事で何かがあったからでしょ?なら、私達だって協力するわ。いや、させて頂戴。あの人が心配なのは貴方だけじゃないのよ?」
二人は口々にそう言う。
やはり彼女達もクボタの事が心配なようだ。
しかし、サチエには彼女等の心境など……そんな事などとうに分かっていた。むしろそれ故に、急がねばならないと躍起になっていたのだから。
「そうしたいが今は話している暇など……!」
そこまで言ってサチエは気が付いた。
コルリスとジェリアだけではなく、何とルーまでもが瞳に強い、光を宿している事を。
それは覚悟の意を持った輝きであった。
恐らく、今の彼女は主人のためならばどんな事でもやって退けるに違いない。
クボタは……彼は。
一匹の〝魔の物〟に……いや、この場にいる者達全てに、ここまでの表情をさせる程慕われているのか。
そう感じたサチエは自身が冷静さを欠いていた事、彼女等に何も話そうとはせずに飛び出した事を反省し、深く息を吸った後、静かに話し始めた。
「……君達の気持ちを蔑ろにしてすまなかった。今漸くそれが分かったよ。だが、急がねばならない事には変わりがないんだ……そうなると、君達も付いて来なければならなくなるのだが」
「勿論!」
「行きます!」
「…………そうか、では急ごう」
そうくるであろうとはサチエ自身も予想していたが……やはり彼の問いに対してほぼ同時に、それも被せ気味に、二人はそう答えた。
サチエを先頭にしてやや足早に一行は荒野を前進する。全てはクボタを取り戻すために。
そんな彼等は今、サチエが〝あの出来事〟によって町まで連れて来られる事となった経緯を彼から聞いている所だった。
とは言っても、サチエ自身には気絶する以前までの事しか分からなかったので『ドラゴンゾンビとの戦闘中、クボタを置き去りにしてしまった可能性が高い』との情報を最後に聞かされた皆の不安は余計増していたのだが……
「本当にすまないと思ってる……だが、何故あの時気絶したのかが私にもよく分からないんだ。少なくともドラゴンゾンビに何かされた訳ではないようなんだが」
サチエは皆に謝罪した後、後頭部を摩る。
だが、そこに痛みはないようである。
なら私はあの時本当に、一体どうなったのだろうか?
彼はそのような事を考えているように見えた。
「で……でも!〝あの魔物〟がサチエさんを町まで運んで来てくれたって事はですよ!?クボタさんも〝あの魔物〟に助けてもらって、何処か安全な場所にいるんじゃないですか?
で、ドラゴンゾンビもその魔物が倒してくれたのかも……でもそうだとしたら、何故クボタさんだけ別の場所に……?」
「確かに、コルリスの言う事も有り得なくはないわね。まずその場所から人を一人、運び出せるって事はドラゴンゾンビをどうにかした……もしくは出来る程の魔物って事だもの。ドラゴンゾンビを倒して、二人を移動させている可能性だって充分にあるわ……
それに、〝あの魔物はああ言っていた〟んだし、間違いないはずよ……というか、〝あの魔物〟って一体何者なのかしら?サチエは知っているの?」
コルリスとジェリアはそれぞれの予測、意見を口に出して述べる。
その最中にジェリアからの質問を受けたサチエは〝あの魔物〟について話し始めた……
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