六十話 約束……その少し前 その2
簡単なあらすじ『アトラン族の町をこんな風にしたのは……?』
〝男性らしきもの〟が発した、何処か毅然としているかのような声。
それを聞いたケロ太はますます声を大きくし、鳴きしきる。
それはもう、吠えると呼んでも良い程のものとなっていた。
「ダメ!!ケロ太君!!」
だが、コルリスはすぐさまケロ太の口を手で塞いだ。
〝この町にここまでの影響を与えた〟者が近くにいるのだとすれば、見つかってしまえば今度こそ……彼女はそう、考えたのだろう。
しかし、それは遅過ぎたようだ。
〝見ない顔だ……ん?ソレは……!そうか、原因はソレだったのか。しかし、参ったな……〟
そう言って、その声の主であろう『巨大な怪鳥』が上空から音も無く、二人と魔物達の前に降り立ったのだから……
そう、見つかってしまったのだ。
目の前に現れた巨大な怪鳥のような姿をしたその魔物は、見た者、声を聞いた者が卒倒するのは道理だと思える程の奇妙で醜悪な姿と、それでいて毅然かつ悠然とした態度を……まるで歴戦の勇士のような雰囲気を、その身に併せ持つ生物であった。
その姿は〝首から下〟までは全身が黒く染まっているというだけで、〝そこまでは〟ただの鳥となんら違いは無いのだが……その顔が、人の持つものと酷似していたのだ。
両の目は他の鳥類と比べて間隔が狭く、鼻や唇のような部分までもがはっきりとそこにはあり、耳は左右に、それも貝のような形で存在している……これが人の持つもの以外の何物であろうか。
そしてその顔は間違いなく、人で言えば男性のものだった。
そのように恐ろしく、風変わりな姿をしている魔物ではあったが、その目の奥には信念を持つもののそれであるかのような一筋の光を宿しており、口を一文字に閉じてしっかりとそこに佇んでいる……つまりは堂々としているのだ。
やはりあの時感じた〝あの声への印象〟、それは勘違いではなかったようだ。
しかし……その圧倒的な存在感と、目の前にいるだけで絶望感を与えられるかのような姿形、それの持つ雰囲気に二人は完全に呑まれてしまっていた。
魔物が、『もしかすると人に仇なす存在ではないのかもしれない』と二人は感じつつも、彼女らはそれに恐怖するという選択しか出来なかったのだ。
その魔物は現れた時既に二人へと、印象とそして、畏怖の念をも与えていたのだから……
突如として現れ、二人をそんな状態にしてしまった、この見た事もない魔物は一体何者なのであろうか?
コルリスは自身の口内に乾きを感じていた。
今そこにいる正体不明の魔物を前にして、口をぽかんと開け続けていたからだ。
いや、正確に言えば……『開け続けるしかなかった』のだが。
ジェリアもまた、コルリスと似たような表情をしていた。そしてその様子から察するに、彼女もこの魔物が何なのかは分からないのであろう。
魔物達は目にしているものに圧倒され、その全てが石像と化していた……またもや、ケロ太を除いて。
勿論、この中で最も実力のあるチビちゃん、ルーまでもがそうなっている。
分かり切っていた事だがこの魔物は恐らく、彼等と比較にならない程の戦闘能力をも有しているのだろう。それも、例え束になったとしても覆る事のない程のだ。
そして唯一、ケロ太だけが魔物の影響を受けず、まだ動こうと、まだ鳴こうとし、コルリスの腕の中でもぞもぞとしている……
が、彼女は動く事もままならないのだ。
よって、彼が自由になる事もまたないのであろう。
少なくとも、この魔物がここを立ち去るまでは……
〝いや、むしろ好都合だったのかもしれないな。君達、すまないがこの人間の事を頼めるか?〟
不意に、魔物が二人へと語りかけてきた。
魔物はそう言った後で、背に乗せていたある一人の人間を傷付けぬよう口で掴み上げ、地に降ろす。
それはサチエだった。
そう、サチエを安全な場所にまで移動させるため、クボタから気絶した彼を奪い去ったのはこの魔物だったのだ。
「サチエ……さん……!」
コルリスはかすれ声で何とかそう言った。
普段とは違い、乾いて響くその声は目の前のものがいかに強大かを表しているようである。
〝大丈夫だ、息はある〟
魔物はそう言った。
やはり、この魔物は人に害をなす存在ではない。
そして多分、彼の事も知っているはず……サチエをこうして、ここまで連れて来たのだから。
そう考えたのだろう。
それがそう言った後でコルリスは勇気を振り絞り、サチエと共にいなくなった『彼』の所在を、怪鳥へと尋ねたのだった。
「あの、この人の他にクボタさん……男の人が近くにいませんでしたか?」
〝そうか、君達は彼の連れか。
彼は、そうだな、とりあえず大丈夫だ。そのうちに戻る。
すまないが、今はそれしか言えない〟
だがそう言って、怪鳥のような魔物は飛び去ってゆくのだった……
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