〜異世界魔物大図鑑〜転生したら魔物使いとかいう職業になってしまった俺…とりあえずこの世界の事は何にも知らないので魔物を育てながら図鑑的なモノを作る事にしました
二十九話 対決!先遣隊ゴブリン!(前編)
二十九話 対決!先遣隊ゴブリン!(前編)
既に会場入りし、控え室で試合を待つ俺達に一人の来客があった。
「クボタさ〜ん、お久しぶりですねぇ」
それはなんと本日の対戦相手でもあるサンディさんだ。本人いわく試合前にどうしても挨拶がしておきたかったらしい。
「サンディさん……!お久しぶりです」
「いやはや、お元気そうでなによりです。奥様もどうも、ご無沙汰しております」
……どうやら豊満な紳士は弟子と同じ勘違いをしているようだ。
「あの、サンディさん?一ついいたい事が……」
「おや?ああ成る程、クボタさんのいわんとしている事は分かりますよ。確かに私がここに長々と居座っていては、八百長を疑われかねませんな。それではクボタさん、本日はお手合わせよろしくお願い致します」
「いや違……」
「あ、あの!」
俺を遮ってサンディさんに声を掛けたのはコルリスだ。
「呼び止めてしまってすみません、でも……どうしてもお聞きしたい事があります!」
「構いませんよ、どうぞなんなりと」
サンディさんは相変わらずニコニコとしながらコルリスの質問を待っている。試合前によくここまでのんびりとした態度でいられるものだ。この人の辞書には緊張の二文字が存在しないのだろうか?
「サンディさん、最近の貴方は滅多に魔物使いとしての活動はしていなかったようですが……どうして今になって大会に出場する気になったんですか?」
おお、俺もそれは聞きたかった。サイロ君のいっていた通り、観客がいた方が盛り上がるからかな?
「ああ、その質問ですか。実はですね……クボタさんの快進撃を見ていたら私惚れ惚れしてしまいまして、こんな期待の新人が行う昇格試合には歓声や応援……つまり演出があった方が良いと考えたんですよ!で、それを他人に悟られぬように実行するとなると、私がクボタさんと同じ大会に出場するのが一番手っ取り早いでしょう?」
「そ、そうですか」
「それだけの事ですよ!あっはっはっはっは!」
サンディさんは楽しげに予想通りの持論を展開した後、控え室を出て行った。
「……だそうですよ」
「とりあえず、サイロ君のいってた事は本当だったんだと分かったよ。ていうか、コルリスちゃんのせいでまたいいそびれたじゃん!」
とにかく、これでサンディさんは好戦的で喧しいのが大好きだったと確定した。あの見た目で某戦闘民族のような性格をしていたとは驚きだ。
まあいい、俺は相手が戦闘民族だろうが人造人間だろうが負けるつもりはない……が、それを確固たるものにするため、試合前に軽くスパーリングでもしておくとしよう。
試合直前、会場へと姿を現したサンディさんは笑顔こそそのままであるものの、身に宿す雰囲気が先程とはまるで別人のようになっていた。
何とも表現し辛いが、確実にいえるのは強者の持つそれだという事だ……
多分この人は普段穏やかではあるが、試合となると豹変するタイプだと思われる。もしかするとこうなってしまうからこそ事前に挨拶を済ませておいたのかも知れない。
5割ほどいる観客達も今日は森閑としている。本来傍観者であるはずの彼等もこのピリピリとした空気を感じ取り、まるで自分にも危機が迫っているかのような心境にさせられているのだろう。
「クボタさん!必ず勝ちなさいよ!」
その時、たった一人でその静寂を見事に破って見せた者がいた。
ジェリアだ。彼女は俺の勝利を願い、そして自らの成し遂げられなかった願いまでもを乗せてそう叫んだのだろう。全く、隙あらば俺をこき使うな、この子は。
俺はジェリアに向けて『ありがとう』という思いを顔だけで表現して見せた。すまんがこれで精一杯だ。彼女のように会場全体に声を響かせる勇気はない。
「ルー、頼んだぞ」
俺はルーの頭を撫で、彼女を闘技場の中央へと送り出した。
それを見たサンディさんの顔に疑問の表情が浮かび、観客は恐怖よりも珍妙なものを見ている驚きが勝ったのか、沈黙をやめて囁き合いを始めた。
俺が自作メガホンを片手に、セコンド位置よりも遥か前にいる事がそんなにもおかしいのだろうか?
「あの……待機場所までお戻りになった方が良いかと……」
観衆と似たような目をしている審判が俺に向けてそういってきた。
「いえ、ここで良いです。無理ならやめますけど、規則違反ではないですよね?」
昨日少し大会のルールブック的な物を読んでみたのだが、魔物使いが指示を出す位置というのは明言されていなかった。ならばこれはアリなはずだ。
「ええ、ただその場所にいた事で事故や……最悪命を落とすような事になったとしても全て自己責任というだけですよ。」
「はい、勿論知ってます」
「それでは…………始め‼︎」
異様な雰囲気のまま、戦いが幕を開けた。
ゴブリンは俺を全く意識する事なく、その視線はルーへと注がれている。
相変わらずの堂々たる仁王立ちだ。確かにこれでは観戦する者、戦う者共まとめて萎縮してしまうのも頷ける。
しかしルーはやはりというべきか、いつもの涼しい表情を維持している。
なら、大丈夫だ。何も問題はない。
ルーは俺の教えた通りに足を肩幅に開き、左足を一歩踏み出してから、肘を折り曲げファインティングポーズを取った。
「行くぞルー!まずは〝連撃〟だ!」
指示通り、まずルーは左のジャブ、その次に右のストレートを繰り出す。
ゴブリンはその攻撃をいとも簡単に両手で受け止めた……が、ストレートの直後に放たれた右のハイキックには反応できず、小気味良い音を響かせて蹴りは脇腹へと直撃した。
直後、サンディさんの眉がわずかに動き、それと同時に会場が色めき立つのがはっきりと分かった。
……どうせお前らゴブリンが勝つと思ってたんだろ、よく見てろ、もっと驚かせてやる。俺達が優勝するまでの光景でな!
勿論ゴブリンを過小評価しているワケじゃないさ。ただ人型でいくらデカいといっても人間くらいで、こちらの戦法はキックボクシング……
これなら俺のコーチングが活きる範囲内……いや、むしろド範疇だ!
な?俺が勝算はあるっていったの、嘘じゃなかっただろ?
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