〜異世界魔物大図鑑〜転生したら魔物使いとかいう職業になってしまった俺…とりあえずこの世界の事は何にも知らないので魔物を育てながら図鑑的なモノを作る事にしました

二十四話 苺の花

俺達は運び、戦い、引っこ抜いた（なんとなくいってみただけで戦闘はしていない）流れ落ちる汗など苦にもならなかった…ワケでもないが、それなりに頑張った。

そしてあらゆるマンドラゴラを両手いっぱいに抱え、ミドルスライムに付き添うジェリアの待つお屋敷へと舞い戻った。

しかし、そこで放たれた彼女の発言に、俺達は耳を疑う事となる。

「あぁ…そ、その事なんだけど…も、もう治ったみたいなのよ」

「ええぇー！？」

「だから…その、皆を無駄に働かせちゃったお詫びに、今日の夜私の家でちょっとした食事会をしようと思うんだけど、それにしょ…招待しても良いかしら？」

それを聞いて唖然とするばかりの俺とコルリスに、訳知り顔をしたロフターが囁いた。

「ふ〜ん…クボタさんコルリスさん、おめでとうございます。こんな回りくどい方法を取るのはジェリアの友好の証です。普通に誘うのが照れ臭いんですよ。だからそんなに落ち込まないで下さい」

「う、うるさいわよロフター‼︎」

へぇ、意外とカワイイ所があるんだな。ただ…俺達への欺瞞工作はせめて、せめてもう少し楽なものにして欲しかった…

少しばかりの徒労感に苛まれながら、俺とコルリスは身なりを整えるため一時帰宅する事にした。

ロフターがズルをして財力でマンドラゴラを集めた事が発覚したが…市場に流通している品種改良されたものは栄養はあるが薬草には向かないという。なのでそれは今夜の料理でふんだんに使われるそうだ。

俺とコルリスの集めたものはプチ男とケロ太、それとジェリア家のミドルスライム、プチスライム軍団達の薬膳兼晩ごはんとなった。まあ無駄にされなかっただけ採ってきた甲斐があったといえるだろう。

…あとこれはジェリアから聞き出したのだが、ミドルスライムは単に口実として使われたわけではなく、体調が悪いのは事実だったようだ。

なんでも最近プチ男の真似をしているのかヘンなものを食べている事が多いらしく、どうやらそれが原因で人でいう所の軽い食あたりになってしまったようだ。

スライムが腹を壊すのにも驚きだが、プチ男が何を食ってもピンピンしているのにも改めて驚かされる。

そんなミドルスライムも今ではすっかり回復し、パーティ会場（といっても彼女の家の食堂だ、ただし勿論デカい）で着席している俺の後ろで珍しく仲良くしているプチ男&ケロ太の二匹と肩を寄せ合いぷるぷる震えている。

…その横で主催者であるジェリアが脊椎動物達の会合を羨ましそうに眺めているのでなかなかパーティが始まらない。まあ、それがあったお陰で俺はこうしてゆっくりと解説できたワケだが。

「あの、ジェリアちゃん？」

「あぁ、プチ男様、素敵…それに、新入り君も改めて見るとなかなかイイわね…」

いつまでやってるんだ…この子は普段クールなのに試合に負けて騒いだりスライムを前にすると人が変わったようになったり…あとデレるし、結構騒がしい性格をしているな。

「クボタさん…ジェリアはもう諦めて、僕らだけで始めちゃいましょう、さ、乾杯！」

「…まいっか、乾杯！」

ロフターが音頭をとり、なんとか会は始まりを告げた。やれやれ、こんなご馳走様を前にして一般人が『待て』をするのはなかなか苦労したぞ…

「あ！何私に断りもなく始めてるのよ！」

しばらく飲み食いしていると、ようやくジェリアが〝こちら〟に帰ってきた。

「おかえり。忙しそうだったから先始めてたよ」

「おかえり…？まあいい…いえ良くないわ！今日の主役は私とミドルスライムなんだからね！勝手は困るのよ！」

「しゅ、主役…？」

その迫力に思わず謝りそうになったが絶対に謝罪はしないぞ。パンピーを待たせるとこうなるんだ、よく覚えておくといい。しかも主役だなんて聞いてないし。

「そうそう。今日はジェリアが無事Fランクに昇格したお祝いですから、勝手に始めるのは良くないですよクボタさん」

見ればこいつは一切箸をつけてない…！裏切ったなロフター！

というかクソガキの片鱗が垣間見えているぞ！？やっぱりこっちが本来の姿なのか！？

「…………ってソレ、マジ？」

「マジ…？とにかく本当よ。私はクボタさんと違ってこまめに依頼をこなしていたからね」

「いや俺達も頑張ってるよ！？ねえコルリスちゃん！？」

「えぇ、ただ私達がまともに動き出したのは最近でしたから…でも驚いた、おめでとうジェリアちゃん！」

「ひとまず、昇格おめでとうジェリアちゃん。でも俺達も大会で優勝したりしてるのにな…」

「貴方達ももうそろそろだとは思うわよ。あぁ、それとクボタさん、今回は知らなかったみたいだから仕方ないけど、昇格が近づいている時はあまり大会に出ない方がいいわよ」

「え？なんで？」

「そうなのジェリアちゃん？」

Gランクの魔物使い及び見習いの頭上に浮かんだハテナマークを振り払うかのように、ジェリアは身振り手振りを用いて解説を始めた。

「だって昇格試合の相手に戦法を知られてしまうもの…いえ、それよりもFランクになった後が大変だわ。しかもクボタさんは大会を軸に活動してるから、情報も多くて対策も容易…上の奴らからしたらいいカモが来た、って感じかしらね」

「えぇ…もっと早く聞きたかったな…」

「クボタさんがここまで強いと知ってたらもっと早く教えてたわよ…今の所無敗でしょ？貴方ちょっと目立ち過ぎね」

「まあ、そうと分かれば今度からもっと依頼も受けるようにするよ。それで？昇格試合はやったんでしょ？相手ってどんな人なの？」

「それは…他の人、特にこれから挑戦するであろう立場の者には教えてはいけない決まりなの…でも私を負かした貴方ならきっと勝てると思うわ」

「貴方ならって…ジェリアちゃんも勝ったんだから昇格できたんだろうに」

「私は……勝てなかったの。実力が一定水準には達していたから昇格できたってだけよ…昇格試合は勝ち負けではなく実力を測るのを目的としているらしいから…」

彼女はその敗北がかなり悔しかったのだろう。いつもの堂々とした雰囲気は影を潜め、僅かながら悲嘆の表情が窺える。

（嫌な事聞いちゃったかな…？）

「…そうなんだ。ま、まあ実力は認められたんだから良かったじゃん！ほら、ジェリアちゃんも食べなよ！いっぱいあるよ？」

「用意したのは私よ…」

その後、ジェリアは皆に気を遣わせまいとしてか気丈に振る舞っていたが、俺達の力では彼女の曇った顔を晴らす事はできなかった。

「今日はありがとう。大会期間中なのに悪かったわね…」

「いや、いいんだ。楽しかったよ」

「僕はもう終わりましたけどね…」

「あっ…」

今度はロフターが憂鬱モードか、まあコイツはいいや。

「………ジェリアちゃん。悪いけど俺達が敷地内から出るまでそこで見ててくれないかな？」

「…？別に良いけど」

トーバスさんが迎えにくるというロフターを残し、俺とコルリスはジェリアに見守られながら屋敷に背を向けた。

そして充分な距離が取れたであろう場所で立ち止まり…

〝ジェリアの笑顔を取り戻せ〟作戦を開始した！

…ふむ、我ながら安直過ぎるネーミングである。

「…何してるの貴方達？」

「すぐ終わるよ！ちょっと待っててね！」

俺は彼女がちゃんとこちらを見ている事を確認し、今回の作戦の要であるケロ太に耳打ちした。

「ケロ太…頼むぞ…」

そういうとケロ太は多分頷き、自らの肉体をカエルフォルムへと変化させてゆく。

「新入り君…！？そ、その姿は！？」

ケロ太の変身が完成に近付くにつれ、ジェリアの顔がみるみるうちに光を取り戻してゆくのがここからでも分かった。

そうだ、お前が探し求めていたUMAガエルはコイツなのだ。

どうだ？さぞ嬉しいだろう、なんたってUMAでありキミの愛するスライムでもあるんだもの。

「ジェリアちゃん！もう元気出たみたいだね！良かったよ。これからも辛い事があったらウチに遊びにくるなり、呼ぶなりするんだよ！俺達は大歓迎だし、プチ男もケロ太も喜ぶと思うからさ！それじゃあまたね！」

「ま、待ちなさい！今日は泊まって！泊まりなさい！ちょっと、止まって！」

それはできない相談だ。1日も冷却期間を置かずにケロ太とジェリアが接触なんてしたら、弄くり回されてコイツが死んでしまう。