十六話 仲間を求め…

「ハァ…」


「今日のクボタさんはため息ばっかりですね。何か悩み事でもあるんですか?」


「いやね、昨日思っちゃったんだ。もう一匹くらい仲間の魔物が欲しいな〜って」


昨日の試合でストラ君と不戦の対戦を行った俺の心は、『俺も新しい魔物が欲しい!』という単語で埋め尽くされていた。


「ねえコルリスちゃん、魔物ってどうやって仲間にするの?やっぱり普通に捕まえるの?」


「ええと…罠とかでアレするとか…戦闘中にお肉を与えるとか…弱ってからボールを…」


コルリスは目を泳がせ、ボソボソと喋り出した。恐らくテキトーにいっているのだろうがそれ以上は危険だ。もう泳ぐのはやめておいた方がいい。


「ストップ!ストップ!……コルリスちゃん、もしかして知らない?」


「うっ…ハイ、スミマセン。一般的な魔物使いは両親や師匠から魔物の卵、もしくは子供を受け継ぐのが大半らしくてそこらへんはよく分からないんですよ。でも勿論、野生の魔物をどうにかして捕まえてくる人も中にはいるようですね」


「いいよ謝らなくて。そっか、普通はそうなんだね…ストラ君はどうやってユニタウルスを仲間にしたんだろ。それでいうとジェリアちゃんもか」


「あ!ジェリアちゃんがいましたね!なんだったら聞いてきましょうか?今日は予定も特にないですし」


「いや、多分何かと理由を付けてプチ男に会いにくると思うから、それだったら呼んじゃった方が彼女にとっても良いんじゃない?」


「それもそうですね、じゃあ私アライアンス用の緊急招集を出しに行ってきます、アレならお昼くらいには届くでしょうから」


「それはやり過ぎじゃない…?」


「大丈夫ですよ、使えるものは使わないと!じゃあお留守番お願いしますね!」


そういうとコルリスは出かけて行った。


それから約20分後、玄関扉をノックする者が現れた。


「郵便で〜す」


なんだ郵便か、もうコルリスが帰ってきたかと…コルリスはノックしないか。


「はいはい、どうも〜」


「……………」


どうでもよさそうなチラシ数枚を受け取ったが、配達員らしき兄ちゃんが帰ろうとしない。


「あの〜、クボタさんですよね?」


「…あ、はい。そっスけど」


俺はぶっきらぼうに答えた、何なんだコイツは、何か用でもあるのか?


「やっぱり!俺ファンなんですよ!いやぁ本物に会えるなんて嬉しいなぁ…ここがクボタさんの家なのは知ってたんですけど、俺が配達の時はいつもあのちっこいお嬢さんが出てこられるんで」


「俺のファン?…失礼ですけど、誰かと間違えてるんじゃないですか?」


「いやいやクボタさん。貴方この辺りじゃ有名人ですよ?あのワガママボウズのギガントトロールに、これまたちっこいトロールで挑んで勝ったじゃないですか!あの時俺も客席から見てたんですよ!」


「あ、あぁ…それはそれは、ドーモ」


ファン…悪くない響きだ。しかし面と向かっていわれると少し照れる。


「そうだクボタさん。よかったらウチの牧場見学しに来て下さいよ。渡したチラシにも入ってるんですけど、今旅行者や行人向けに特売とかやってるんでお得ですよ。それに親方も喜びますし!」


「え…親方?牧場?でも君…」


「お〜!噂通り何にも知らないんですね!ウチは簡単にいうと牧場兼郵便屋なんですよ!これは何でかっていうとこの辺りが田舎なもんで、郵便物がなかなか届かずに困ってる人達を見た親方が心を痛めて『どうせミルクも配達するんだからそのついでに全部届けてしまおう!』っていい出したのが始まりなんです!」


分かりやすい説明ありがとう。でも青年よ、ちょっと今の発言にはトゲがあったぞ。


「おま…まあいいや。その親方さんはすごく優しい人なんだね」


気付かぬうちに友達口調になってしまっていたが彼の問題発言と相殺という事にさせてもらおう。


「クボタさんも知ってると思いますよ。会った事あるって話してましたし」


「お、俺と!?ん〜、親方、親方…」


俺の男性の知り合いで親方…


ストラ君は…そもそも年齢的に違うだろうし、知り合いじゃないし。


キングさん…は講師以外何やってるか分からないし。


後は…トーバスさん?いや違う。執事の仕事で忙しいはずだ。


「サンディって人ご存知ないですか?」


青年の口からその名前が出た瞬間、俺は豊満な腹部を揺らして笑うあのサンタクロースのような男をはっきりと思い出した。


「あーあの人か!」


「やっと思い出してくれましたか!」


俺の言葉を聞いた青年はにっこりと笑った。


…青年、君ちょっとトゲトゲしてるぞ。性格じゃなくて所々口調がね、悪気はないんだろうけど。


ブルルルル…


その時、木陰から獣の鼻息らしき音が聞こえ、なんとそこからユニタウルスが現れた。


野生のユニタウルスは存在しないはずだがこれはどういう事だ…?まあそれはいい。急いでルーとプチ男を起こさなければ。俺達だけでは太刀打ちできない。


「あっ!きちゃったのか。まあ結構話してたからな、ごめんな」


緊張が走った俺とは対照的に、目の前の青年は朗らかな表情でユニタウルスの元へと駆けて行った。


「もしかして、君の?」


「はい!今日は少し離れた所で待たせてたんですけど、俺が戻ってこないもんだから心配してこっちにきちゃったんですね」


「…ああ、なるほど。ユニタウルスに乗って配達してるんだね」


考えてみればこの鼻息には聞き覚えがある、少し前にこの音と共に郵便を届けにきた者がいたはずだ。


「ええ、いつもは目の前までくるんですけど、昨日の雨でできたこの辺のぬかるみにコイツが足を取られちゃうと一人では起こせないんで」


雨もそうだが、土をここまで柔らかくしたのは俺達のスパーリングが原因だ。ちょっと申し訳ない。


それよりもだ…ユニタウルスがいるという事は…


「あのさ、もしかしてストラ君にユニタウルスをあげたのってサンディさん?」


「ん?ストラを知ってるんですか?」


「まあ、何回か試合した事あるからね」


戦った事はないけど…


「あ〜、じゃあストラに昨日勝った相手はクボタさんなんですね…あいつ色々あって親方に助けられてからウチの仕事をたまに手伝うようになったんですよ。そしたら親方がすっかり気に入っちゃって、子供のユニタウルスを金も貰わずにあげちまったんです。まあ試合は全然ダメみたいですけど」


「そ、そうなんだ……」


「…それじゃ俺、そろそろ配達に戻ります。長々とすいませんでした」


「いや、いいんだ。気を付けてね」


青年と別れた俺はすぐにルーとプチ男を叩き起こし、身支度を整えた。


「ただいま帰り…クボタさん、お出掛けですか?」


ちょうどコルリスが帰ってきた。ベストタイミングである。


「おかえりコルリスちゃん!さあ行こう!」


「えぇ…私帰ってきたばかりなんですけど…ちなみにどこへ行くんですか?」


「サンディさんの牧場だよ。俺ももしかするとユニタウルスを…じゃなくて、みんなでお出掛けってのもたまにはいいでしょ?」


「本音が漏れてますよ…」


決してサンディさんの優しさにつけ込もうとしているワケではない。もし貰えたら嬉しいな〜、という淡い期待をしているだけだ。


俺は自分にそう言い聞かせ、皆を強引に家から引きずり出した。目指すは牧場だ。


「…クボタさん。何か忘れてる気がしません?」


「ん〜…そうかな?」

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