十五話 無用の〝長物〟

No.12 ユニタウルス

魔獣類ヒトツノウシ科


これは体高が2mで体重は1トン以上にもなる牛の魔物だ。


この魔物の最大の特徴は額から突出したこれまた大きな一本角であろう。その長さは70cmにも達し、大抵の魔物はこれによって一撃で葬り去る事ができる。


遥か昔、この世界にも二本角の…姿形だけでいえばよく見かける普通の牛のような魔物も存在していた事が確認されてはいるが、彼等は全てユニタウルスとの縄張り争いに敗れ、絶滅へと追いやられてしまったらしい。


そうして牛系統の魔物の頂点となったユニタウルスだったが…まさに三日天下。思いもよらない悲劇が待っていたのだ。


それは…『人類』との接触である。


人はユニタウルスを恐れたが、それと同時に食料としての価値を見出した。


そして両者の戦いが始まり、それに勝利したのは人間だった…まあいくら個々でも強力なユニタウルスとはいえど、武器や作戦をあの手この手で用いて戦う人間どもには到底敵わなかっただろう。


その後彼等は人間の管理下に置かれ、今は家畜として生存を許可されるのみとなっている。


だが一度は最強(牛系統の中では)の名を欲しいままにしたユニタウルスだ。そんな肉を取られるためだけの生涯に甘んじるはずが…ない事もなく、現存するユニタウルスの性格は皆穏やかになりつつある。


…というわけで彼等には最早生息地などはない。しかしどうしてもその姿を見たいという者がいれば、各地にある農場や牧場を見学しに行くといい。


ついでにその場所で取れた農作物があれば一通り購入しておくのがベストだ。勿論肉やミルクなどの畜産物もウマいが、ユニタウルスは餌の少ない場所では自慢の一本角を使い、地面を掘って小型の昆虫や草木の根を食べる習性があり、それを利用して耕された畑からは一級品の野菜が育つという。


さて、突然だがここで問題だ。


実はユニタウルスを飼育できるのはある職業に該当する人物のみに限られているのだ。


この中から正解を考えて欲しい。


①酪農家

②獣医師

③剣士

④魔術士

⑤魔物使い


簡単だったかな?正解は………






⑤の魔物使いだ。まあ魔物だからね。

酪農家だと思った人、気にするな。俺もそう思った。


酪農家的な仕事は勿論存在するけれども、魔物使いでない限りは『魔物の飼育』だけは絶対にできないのだ。逆にいえば魔物使いならば知識と環境さえ整っていればほぼ全ての農畜産物を作り、育て、売る事ができるし、ワンルームでユニタウルスと共に生活する事だってできる。


ちなみにコレ、意外と知られていない。覚えておけば友達に自慢できるぞ。披露する機会があればの話だが。






俺にとって二回目の出場となる大会、カムラ杯のGランク大会がスタートした。


初戦の相手はストラ君。そう、前回と同じだ。


そしてなんと彼は新たな魔物を引き連れてやってきた。その名はユニタウルス。調べてみると大型の牛のような魔物らしい。


…羨ましい。他の魔物使いはどうやって仲間を増やしているのだろうか?


羨ましい、実に羨ましい…


と、妬ましく思っていたのだが、案外そうでもないかもしれない。


「痛い痛い!やめろって!」


既に会場入りし、もうすぐ試合という状況の俺達。今回も二匹共にエントリーして今日戦わせるのはルーだ。


しかし、事実上の初顔合わせとなるストラ君。彼が今ユニタウルスにボコられているのだ。


しかもそのユニタウルスの体高はストラ君の腰ほどしかない。間違いなく子供だ。


「いっったぁ‼︎」


何度も幼いユニタウルスにどつかれていたストラ君が叫び声を上げた。


「うわぁ…太ももに角いっちゃったよ…アレは痛いだろうな…」


唯一の救いはユニタウルスの角もまた未成熟であり、丸みを帯びていた事くらいだろうか。いや、鈍器で叩かれたみたいになるからどっちもどっちか。


「〜〜〜〜!」


ストラ君は端正な顔を歪ませて地面を転げ回っている。


「お…おい君、大丈夫かい?」


「は、はい…」


「……その様子だと試合なんてとても無理だろう。棄権するかい?」


「……………はい」


戦わずして敗北者となった彼は、審判に付き添われながら会場を後にした。


…ストラ君。君と戦える日は来るんだろうか。


「なんか、勝ったみたいだね…帰ろっか」


皆にそう問いかけると、なぜかコルリスが青い顔をしているのに気付いた。


やはり昨日の夕食のプチスライムがマズかったのだろうか(味は勿論のこと不味かった)若干赤みがかった色だったからやめとこうって俺はいったのに…


「コルリスちゃんどうしたの?やっぱり昨日の夕食が…」


「あ、いえ。全然違います」


「そ、そう。じゃあどうしたっていうんだい?顔色悪いよ?」


「…今の一部始終を見ていて、私と同じなんだなぁと思ったらちょっと可哀想になってきただけです。あのストラさんって人は大会に出場するほどやる気があるみたいなので余計に…」


「…ん?」


「ほら、前にいったじゃないですか、魔物使いには二種類あるって。アレを見ればすぐに分かります、あの人も間違いなく私と同じモンパシストです。裏を返せば私もああなるって事ですよ…」


「え!?でも、プチ男とルーは…」


「それはこの子達の、いわば親代わりなのがクボタさんだからですよ。私は仲良くする事はできても、指示を出す事はまだできません。まあ…そうやって私は徐々に魔物の『扱い方』を学んでいくワケですが」


「…そっか。すっかり忘れてたけど確かコルリスちゃんは見習いの魔物使いだったね」


「えぇ、そもそも駆け出しの魔物使い…特にモンパシストは私のように別タイプの魔物使い『マモマスター』に弟子入りするのが常識であり、身を守る術を学ぶ大切な過程なんです…あの人にも早く師匠が見つかってくれればいいんですが…」


そこは普通に『モンスターマスター』であってくれた方がカッコよかったんだよなぁ…とは口に出さなかった。


「コルリスちゃんは本当に良い子だね。他人をそこまで心配できるなんて…大丈夫、君をあんな風にはさせない、必ず一人前の魔物使いにしてみせるよ、約束する」


「クボタさん…」


「だから、今日はひとまず帰ろう。コルリスちゃんは今日休んでていいよ、家事は俺達でやるから」


「…フフッ、みんなに任せると大変な事になりそうなんで、私も手伝います」


ストラ君をダシにしてしまったような気もするが、コルリスがやっと笑ってくれたので勝手だがよしとする。

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