〜異世界魔物大図鑑〜転生したら魔物使いとかいう職業になってしまった俺…とりあえずこの世界の事は何にも知らないので魔物を育てながら図鑑的なモノを作る事にしました

十七話 仲間を求め… （2）

緑の海原はそよ風に吹かれ、本物の海のように寄せては返す。牧場はもうすぐだ。

「待って〜」

駆け出したルーとその頭に乗っているプチ男をコルリスが追いかける。こうして見ているとまるで姉妹のようだ。さながらルーはお転婆な妹で、コルリスはしっかり者の姉といった所だろうか。

「クボタさんも早く行きましょ！」

あれ…何か姉の方も浮かれてるな。まあ可愛いからいっか。

コルリスに急かされながら俺は緩やかな上り坂を歩いた。この場所では弾む息すらも心地良い。

不意に元いた世界のコンクリートジャングルを懐かしく感じたが、戻りたいとは思わなかった。

よし、到着だ。まずは挨拶しないと…

全員できょろきょろと周囲を見回していると、母家らしき建物からさっきの兄ちゃんが出てきた。

「お！いらっしゃ…クボタさんじゃないですか！？もうきたんですか！？」

「だって、きてくださいっていわれたし」

「いやいいましたけど…クボタさんって行動力ある人なんすねぇ…」

「あっ！この人は…」

「へへ、お嬢さんとは郵便届けに行くとたまにお会いしますよね。俺サイロっていいます」

へぇ、知らなかった。彼はサイロ君というのだそうだ。素晴らしく牧場にぴったりな名前である。

「それとねサイロ君。見学の前にサンディさんにもご挨拶しておきたいんだけ…どっ！」

話している最中にコルリスが俺の上膊をつねった。『貴様まさか、本当にユニタウルスを俺にもくれ！とかいうんじゃないだろうな？』とでもいいたげな顔をしている。

安心してくれ、いきなりそんな事がいえるほど俺は厚かましいタイプではない。

でも徐々に仲良くなったら…という可能性も捨て切れないだろう？いや、むしろこのままの勢いで頼み込んでみようか…

「あ〜、すいません。親方はさっき大会運営がどうとかいって出かけちゃって…でもココの案内は俺がやらせてもらうんで大丈夫ですよ！」

「あらら、それは残念です。ね？クボタさん？」

コルリスちゃん。何なんだその目は…分かった、もうこの作戦は中止にする。だから頼む、そんな目で俺を見ないでくれ…

「…………あぁ、もしかしてお二人ってご夫婦ですか？」

「えっ」

「えっ」

サイロ君は突拍子もない事をいい始めた、そのせいで俺達は「えっ」をハモらせるくらいしか反応できなかった。

「違いました？さっきからイチャついてるんで…まあいいや！俺準備してくるんでちょっと待っててください！」

「あっ、待っ、違…行っちゃったよ…」

「まあ誤解を解くのは後でいいんじゃないですか？間違われても困る事じゃないですし」

コルリスは俺から顔を背けてそういった。俺なんかと夫婦に間違われて困るのはキミだと思うんだがな。

…こうして、俺の計画は無事に頓挫してしまったのだった。ちなみにいうとこのまま忘れてしまったのでこの計画が今後再浮上する事もなかった。

「クボタさーん！またきてくださいねー！」

夕暮れに染まった牧場と青年を背にし、二人と二匹は帰路に就く。

実に良い一日を過ごさせてもらった。牧場とは意外にもエンターテイメント性のあるものだ、我々にとっての非日常を与えてくれたこの場所に感謝しなければならない。

俺達は乳搾り、餌やり、家畜の移動などなどを体験（というかもうほぼ手伝いだったような気が…）し、その礼として特別にコルリスとルーはユニタウルスの背中に乗せてもらい、乗馬ならぬ乗牛を楽しんでいた。

そこにいた従業員？であるデカいゴブリンには少々ビビったが皆心優しく、プチ男なんかは何度か彼らの頭によじ登っていた…じゃあ俺以外みんな何かに乗っかってたって事だな。

そして最後にそこで取れた野菜をこれでもかと購入したので、帰宅後には皆で料理する予定だ。

帰った後にまで楽しみが持続するとは…俺にとってこの場所は日本3大テーマパークにも劣らないレジャー施設となった。

「あっ！そういえばサイロ君にいうの忘れてたな…」

「アレの事ですか？また今度でいいですよ」

「いや、俺はいいんだけど誤解されたままだとコルリスちゃんが嫌じゃないかなぁ…って」

「…私は別に、クボタさんは嫌じゃないんですか？」

「全然。俺達基本いつも一緒にいるんだからもう家族みたいなものだし、そんな事気にしないよ…あ、でも家族と夫婦とはまたちょっと違うか」

「…フフフ」

「ん？何で笑ったの？」

「何でもないですよ」

なんて他愛もない話をしていたらもう家が見えてきた。今日は割と身体を動かしたからぐっすり眠れそ……

俺は自宅の窓からこちらに向けられる、強い怒りの込められた眼差しに気付いた。

「クボタさん、何突っ立ってるんですか？晩御飯の準備してますからね〜」

「ダメだコルリスちゃん！」

「え？…あっ」

遅かった。玄関扉を開いたコルリスの手首を何者かががっしりと掴む。

俺はすかさずルーに野菜を持たせ、残された体力を削って全力で走り出した。

「ク！クボタさん！？家族を見捨てるんですか！？」

背後からコルリスの悲痛な叫びが聞こえる。あんなに可愛らしい娘を見捨てるのはどこのどいつなんだろう、断じて許すわけにはいかないな。

「逃がさないわ！」

その時、コルリスではない女性の声がしたかと思うと、俺の頭上からミドルスライムが降ってきた。

「ぐあああああ！」

「あんた達どこ行ってたのよ！全く…それに、クボタさん？」

声の主が近付いてくる。どうやら俺はここまでのようだ…

「な、なんだいジェリアちゃん？」

「クボタさん？さっき『ダメだコルリスちゃん！』っていったわよね？ねえ、一体何がダメなのか、私に分かるように説明してもらえない？」

この後、俺はジェリアから約二時間の説教を受けたが（首謀者は俺だったためコルリスは三十分程度で済んだ）身に覚えしかなかったのでそれを甘んじて受け入れた。