外伝 クボタのスライムメモ

俺とプチ男以外はみんな寝ていたスライム講座だったがかなりタメになった、忘れる前にメモしておこう。


よし。まずはスライムの基本であるプチスライムについてだ…


No.3 プチスライム

不定形魔水類のミズタマモドキ科だ。


『不定形』という単語が登場したが、これについても解説しておく。


これは元々、文字通りにぶよぶよとした見た目で姿を自由に伸縮、変化させるミズタマモドキ科の魔物と通常の生物に近い見た目をしている魔物を区別するため、スライム達の学術的名称の先頭に付けられた言葉だった。


しかし新種の魔物が次々と発見されてゆくにつれ、この言葉は次第に『一見しただけでは生物であるかどうか判断する事が難しい魔物』の総称となったらしい。例を挙げるとゴーレムやアンデッドなどの生物とは言い難いような魔物も不定形〇〇類となるのだ。俺自身はまだ見た事はないが…


プチスライムの記述に戻ろう。体長は30〜40cm、重さは5〜8kgと大きさの割には重い。余談だがプチ男は俺の肩や頭に乗るとラグビーボールのような形をとるので荷重が多少は分散されるのかそこまで重いと感じた事はない。恐らく5キロあるかないかくらいだろう。


ミズタマモドキ科の中では最小であり最弱クラスであるプチスライムだが侮ってはいけない。なぜならその他のスライム達は皆こいつから進化を遂げた魔物だからだ。いわばこいつはスライムの始祖、ルーツなのだ。


俺も『プチ』がいるのだから普通のスライムもおり、またそれらとは違う特徴や外見をした別のスライムが存在する事もなんとなく予想していたが、スライムはスライムのみと、プチスライムはプチスライムとのみ繁殖行動を行う、というようにそれぞれ全く異なった生物なのだと勘違いをしていたのでこれには正直驚いた。


そもそもスライムには繁殖という概念がない。あるのは分裂だけだ。大きく成長した個体がある日突然、磁石が反発するように二つに分かれるのだという。


しかし、全てのプチスライムが分裂を選ぶ訳ではない。成長の限界に達した個体には稀に外皮や体内に変化が起こるものが出現する。これが進化だ。


…この進化だが、個体差がかなり激しい。岩のように硬い外膜を手に入れるものや、全身を鱗で覆われたもの、果ては翼や手足が生えるものまで存在する。


そしてなぜここまでスライムの進化は多様性に富んでいるのかという点についてだが、やはり彼らは『この世界に存在する物ならばほとんど食べる事ができる』というとてつもない食欲と胃袋(胃袋はあるのかは分からないが)を有しているのが最も大きな理由だろう。


ここからはまだ研究が進んでいないらしく推測の域を出ないのだが…恐らくスライムは食事の際に咀嚼をしない。というか不可能なので食べた物質が体内に留まりやすく、それが最終的に飽和状態となると肉体に影響を及ぼすのだろう。とキングさんは語っていた。


ちなみに上記の理由からも分かる通り、スライムは基本的に食用には向かず一般流通もほぼしていない。毒物を溜めこんでいる危険があるからだ。現実の世界でいうとフグみたいなものだろう。俺は昨日のコルリスの衝撃発言で毎日食べている事が発覚したが…


しかし、そのお陰で彼らは天敵が少ない。そのため生息域はかなり広く、今ではこの国のほぼ全域でその姿を確認する事ができる…と。


ふぅ、結構書いたな。今日はこのくらいに…


…ぼとり


その音と共に頭上からプチ男が現れ、書いたばかりのメモの上に乗って俺の頬にひんやりとした肉体を押し付けてきた。


「何だ?眠いのか?」


そういうとプチ男はぷるりと頷く。


そういえばこいつは耳もないのに俺の言葉が聞こえてるよな…?常日頃ヘンな物を食っているせいなのか?


ヘンな進化したら嫌だなぁ…


またキングさんに会ったら聞いてみようかな…さて、明日に備えて今日はもう寝るか…

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る