第27話 ブルータル・ハニー

 周囲の安全も考えて、ブルータル・ビーの巨大な巣はすべて解体することにした。


 通常、はちみつを採取する際は、次回もまた同じ場所で採取するために、蜜が作られる巣の下層部のみを切り取って採取する。


 しかし、ブルータル・ビーの巣を放置してしまうと、色々とまずいだろうという結論に至ったのだった。


 マーヤがバトルアックスで巣をバラバラにする。


 巣の中に残っていたブルータル・ビーの成虫や幼虫は、すべてテオの魔法によって氷漬けにされていた。


 カチコチになったブルータル・ビーを一匹ひょいと摘み上げ、マーヤはポツリと呟く。


「なぁテオ、蜂って食えるのかな?」


 マーヤの飽くなき食への執着に若干引きつつ、テオはその問いに答える。


「どうでしょうかね……虫を食べる文化があるという話を聞いたことがありますが……調理法もわかりませんし、私はおすすめしません」


「そうかぁ。まあ、次の機会かな」


 そう言ってマーヤはしぶしぶといった風にブルータル・ビーをぽいと捨てる。


 解体した巣をあさっていると、お目当ての部分を見つけた。


 たっぷりと蜜の詰まった、巣の下層部。先ほどの攻撃で少し凍っているものの、実にうまそうだ。


 マーヤは持参した大きな袋に、蜜の詰まった巣を適当な大きさに切り分けて詰め込む。


 大き目の袋を用意してきたつもりだったが、巣が巨大だったこともあり、すべてを詰め込むのは無理そうだった。


 しかしせっかく入手したというのにもったいないことだ。


 そう考えたマーヤは、食べきれる分はいっそこの場で食べてしまおうと決意した。


「テオ、焚火の準備だ!この場で食っちまおうぜ」










 パチパチと楽し気に炎が揺れる。


 日はすっかり暮れ、夜の闇が森を包み込んだ。


 マーヤは持参した調理用の壺に、蜜の詰まった巣を入れて、直火から少し離れた場所に置く。


 せっかくのブルータル・ハニーを焦がしてしまわないようにじっくりとあたためると、やがて凍っていた蜜がじっくりと溶け出してきた。


 とろりと溶け出した黄金色のブルータル・ハニーを、壺から二人分の木製の深皿に移す。


 一つをテオに渡し、残る一つを自分の前に置いた。


 焚火の光に照らされて、黄金の蜜は少し赤みを帯びた神秘的な色に輝いて見える。


 まずは味見。


 木製のスプーンでブルータル・ハニーをすくい、そのまま口に運んだ。


 ねっとりとした濃い甘みが口中に広がる。


 圧倒的な濃度の甘み。普通のはちみつより雑味が強いが、それがまた味わい深く、野性的なうま味を醸し出している。


 うまい……しかしこれ単体では、少し味が強すぎるようだった。


 顔を上げると、テオも同じことを考えていたようで、彼は自分の荷袋から何かを取り出してマーヤに放り投げる。


 宙でそれをキャッチして確認すると、それは柔らかな白パンだった。


「メイドのカナラがお弁当にと持たせてくれたものです。きっとブルータル・ハニーに合いますよ」


「カナラさんが……そりゃあうれしいね」


 マーヤは白パンを小枝で作った串に突き刺して焚火で軽くあぶる。


 小麦の良い匂いが香ってきたところで火から外し、香ばしく焼けた白パンにたっぷりとブルータル・ハニーをかけた。


 蜜に塗れた白パンを一口。


 先ほどは濃すぎると感じた甘みは、あぶった小麦の香りと見事に調和して完璧な味に仕上がっていた。


 目を閉じてゆっくりと味わう。


 トーサの爽やかな甘みとはまた違ったワイルドな甘さが、疲れ切った体にガツンと活力を与えてくれるようだった。


「美味しいですね……食べたことのない味です」


 テオの言葉に、マーヤは嬉しそうにニッコリとほほ笑んだ。


「だろ? 苦労した後の飯ってのは極上なんだ」


 未知なる美食のための死闘、そして焚火の前に座って食事をとる……生きる喜び。


 テオは納得したようにうなずいた。


「なるほど……これが、アナタの選んだ人生なのですね」







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