第22話 宮廷魔法師
コンコンと、控えめにドアをノックする音が聞こえる。
寝不足で霞む目をこすり、宮廷魔術師のテオはノックの主に入室を許可した。
ゆっくりとドアが開き、入ってきたのは年を取ったメイド、名前はカナラ。
人付き合いが苦手なテオが、唯一心を許しているのが彼女だ。
「テオ様朝食の用意ができましたよ」
朝食?
訝しげに眉をひそめ、チラリと窓の外を見ると、いつの間にか朝日が登っていた。
またやってしまったとため息を付く。
研究に夢中になってしまい、寝ずに夜を明かしてしまったようだ。
高位の魔術師は皆短命だ。
魔術師とはみな研究の徒であり、優秀であればあるほど魔術の深淵に魅せられている。
そして、今のテオのように自分の身など顧みず、研究に没頭して不摂生な生活を送り、やがてポックリと死んでしまう。
研究は好きだ。
しかし、せっかく命をかけて魔王を屠ったというのに、研究のために死ぬつもりもなかった。
「また夜更かしされたようですねテオ様」
少し呆れた様子のカナラに、テオは申し訳なさそうに小さく笑った。
「すまないね。私も気をつけてはいるんだけど……どうにも研究に熱が入ると寝ることを忘れてしまう」
「テオ様は本当に研究がお好きですからねぇ」
そう言いながら、カナラはお盆に載せた朝食を運んできてくれた。
柔らかな白パンに、野菜のスープ。燻製肉の薄切りをサッと炙ったもの。飲み物は水で薄めた葡萄酒。
テオが礼を言うと、カナラはニコリと微笑んで一礼し、部屋から出ていく。
葡萄酒を口に含む。
集中しすぎて水分摂取も忘れていたようで、カラカラに乾いた体に、薄い葡萄酒が染み入るようだった。
白パンを一口大に千切って食べる。香ばしい小麦の香り、柔らかな食感。
魔王討伐の道中で食べていた、カビの匂いがする保存食とは雲泥の差だ。
皆は元気でやっているだろうか?
ふと、そんな事を考える。
カインは貴族になり、フローは変わらずに教会にいる。
この二人は会いに行こうと思えばいつでも会える、しかしマーヤは今どこにいるかすらわからない……。
生きているのか、死んでいるのかすらも。
野菜のスープを飲む。
ホロホロになるまでじっくりと煮込まれた野菜の甘みがスープによく出ている。
塩味は必要最低限。優しい味が身にしみた。
燻製肉を齧っていると、ドアをノックする音。
食器を片付けに来たにしては少し早い。何か厄介事だろうか?
入室の許可を出すと、カナラが部屋に入ってくる(この屋敷にはテオとカナラしかいないのだから、当たり前だが)。
「どうしたカナラ、何かあったか?」
テオの問に、カナラは嬉しそうに微笑みながら返答する。
「テオ様にお客様が見えております」
「客?……誰だろう、魔術協会のやつらかな」
「いえいえ、協会の方ではありませんよ」
すると、巨大な影がドアの向こうからひょっこりと顔をだす。
「よぉテオ!久しぶりだな」
「アナタは……マーヤですか!?」
◇
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