彼について考える。(詩音視点)
「…………あれ?」
私が景品を貰い、ステージを降りた時にはさっきまでそこに居た弥登君が居なくなっていました。
「佐々木さん、弥登君はどちらへ?」
『社長のことかい?社長ならいきなりの電話に対応する為に外に行ったよ。』
「ありがとうございます。」
60歳超えたベテラン社員、佐々木さんに聞けば外にいるらしい。その事に少しがっかりしながらも、近くのテーブルに乗っている唐揚げを取る。唐揚げをお皿に移しながら、弥登君について少し考える。
『詩音さんチケットいいなー』『詩音さん何に使うんだろう。』『それを今考えてるんじゃないかしら?』
弥登君とこのような関係を築けたのはあの日、雨の中で彼を助けたからだろう。
前とは違った印象だったからきずけなかったが、弥登君は優しかった。クラスの人には避けてると言うか冷めた反応をしていますが、友達や社員には優しく接している。
他にも、彼が誰かから助けて貰う時には何か恩返しとした、いわゆるお節介をしていました。
私がそれを出来るか?と考えればきっと無理でしょう。助けようとしたら逆に難癖つけられる可能性もありますし、話した事も無い人に話しかけるのはとても勇気がいると思います。だけど、私が今特殊な環境なのに楽しく過ごせているのは彼、弥登君のおかげです。
困っていたストーカー問題を恩返しで返してくるし、怪我してもおかしくないって分かっていたはずなのに助けに来たり。抱きついてしまった時も何度も殴られて骨まで折れてたのに頭をなでなでしてくれたり。七海さんが来た時も弥登君は振り回されてたけど仕方が無いなって顔をしてたり………女装姿、可愛かったなぁ。
『詩音さんめっちゃニヤッてしてるけど……何だろう?』『近くによったら聞けないかな?』『喋ってる訳じゃないから聞こえるわけないだろう!?ってか盗み聞きとかキモ。』『冗談に決まってるだろう!?』『うるさい!バレたら困るから黙って!』
『『すんません。』』
クラスの女子は時々、男子についても話す時があります。その時の弥登君によるみんなの様子は毎日のように遅刻するだらしのない人である話していました。実際私もそれが聞こえた時は同じようにそう思いました。しかし今の弥登君の知らなかったから思った事。
「………………」
『詩音さんとても真剣ですね。』『作戦考えてるんじゃない?断られないようにとか。』『あなた達の中での詩音さんはなんなのよ?』
『小悪魔』『女王』『そんな目で見るな!』
認めるしかないのでしょう。
私、春川詩音は、音野弥登が気になっている。
これがクラスの男子の方々だったら、きっとここまで考える事も無かっただろう。だからこそ、ここまで考えている弥登君が気になっている、そこまで考えれば思ってしまう疑問。今時の女子が盛り上がる話題。顔が赤いのが分かる。
「……私は彼に恋している?」
『詩音さんの顔か赤いんだけど!?』『あってもおかしくないでしょ。彼女もちゃんとした女の子なんだから、私達みたいに歪んで無いのよ。』
『そ、そうですね………うん?』『私達もってこと……は?』
『…………私は、恋バナが大好き過ぎて、逃したわ。』『『!?』』
テーブルに載ってる水を入れ、飲み干す。今の自分にひんやりしたのが通るのが分かります。再び、考える。
これが、恋なのか?この回答を持ち合わせていません。そして、それを知ってしまえば、戻れない。もう、誰も止められない。それに、
「弥登君は、何か隠している………」
『私が詩音さんぐらいの時もね、恋バナとかがみんな好きだったのよ。』『『そ、それで?』』『私は特段それが好きでね、沢山の人のお話を聞いたり、相談に乗ったりしてたらね。……………逃してしまったのよ。婚期』『『…………』』
弥登君が抱えているのが何かは私にも分かりません。だけど、感じてしまった。あの日の言葉。
『詩音は今の仕事は楽しい?』
人の気配に敏感な私は、その時に気づいた。気づいてしまった。
そう言った彼の言葉には、後悔や自分への失態、羨望や嫉妬、そして━━大量の憎悪が込められていた事に。
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