料理を作る活力

「七海、詩音さんみてない?今日まだ挨拶してないからしておきたいのだけど。」

「詩音ちゃん?アッチにいるけど今は行かないほうがいいかも……あそこには入りずらいと思うよ。」


 そう言いながら七海が指した方向を見れば沢山の料理を前にしてどれから食べようか悩んでる詩音さんの姿。そして、それを周りから見守る高齢者社員達の姿が追加されて詩音の周りの空気がほんわかしている。さっき見た社員達戦争地帯と違い過ぎて、一瞬理解が追いつかなかった。


「オーケー理解した。あれに凸る勇気は無いわ」「だよねぇ……詩音ちゃんと話したかったんだけど、詩音ちゃんの制服姿初めて見るし。」

「七海は珍しいか、詩音さんの制服姿」


 今回の忘年会はかしこまったものでは無いのだが詩音さんは制服姿で参加している。詩音さんには、

『自分にとって、楽な服装でいいよ。』と言っておいたのだが……きっと詩音さんなりに事情があるのだろう。それに、彼女がいつもクラスで遊びのお誘いを断ってるのを見てるから、この場に制服姿の詩音さんがいると少しばかり優越感があるとは口が裂けても七海と詩音さんには言えない……


 知らぬ間に兄弟のネタにされている詩音さんは悩みに悩んで選んだのは唐揚げだった。

 様々な調味料の中に醤油を少し多めにしたタレを1日前に鶏肉に漬けた手間のかかった料理で、忘年会の始まる5分前に揚げた出来たての自信作なのだが……お口にあうだろうか?


 先程までなかった緊張感、弥登が行方を見守っている中、唐揚げが口に運ばれて━━詩音さんの顔が変わったのを見て周りの空気がほんわかしたのを感じとった弥登は安堵の息をついた。……唐揚げは詩音さんの口にあったようだ。そう思いながら横を向くと七海がこっちを向いていた。……みた?


「美味しそうに食べてくれて良かったね?」

「………否定はしないよ。何か適当に料理持ってきて。」


 顔が赤くなるのを自覚しつつ、七海に言えば何も言わず料理を取りに行ってくれた。今はその気遣いがありがたいと感じながら手に持った水を飲み、顔の火照りを冷やすのだった。



「料理撮る前に聞いておきたいんだけど。」

「なんだ?」

「南先生には挨拶したの?」

「南先生の状態見た?」

「……なるほど。」

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