風の噂は優秀です。

「もしもし、どうした弥登。会社が不景気にでもなったのか?」

「そんなことはないよ。ただ、少し話したいと思っただけだから。」


 忘年会の会場へ向かう途中、弥登はある人へと電話を繋げていた。相手は会社カエリアの取引先の社長であり、カエリアが初めて取引した場所であり、弥登がお世話になった人だ。


「そうか、ならいいんだ。不景気じゃないって事はちゃんと会社を経営出来ている証拠だからな。それで、何話したいんだ?」

「風の噂とかどうだろう。社員が失態を犯したせいで、会社が書類に追われているってのを聞いて。」


「なんだそりゃ、本当に風の噂なのか?」

「風の噂だ。」


 ある社員が重要な取引の場所でやらかし、両者の間に深い亀裂が入ってしまったらしい。その為、損害等の書類に追われているらしい。それを食らったのがこの会社だったと。ここまでわかる風の噂は優秀だな………


「噂なら仕方ねえな、隠しても意味ねえしな……そいつはすぐにクビにしたよ。何で重要な取引の場所で、相手の社員を誘ってるんだ?お陰で大事な取引先が1つ消えた。書類だけ見て判断した俺も悪かったが……」


 取引先が1つ消えるだけで最悪の場合100万以上も飛ぶ事を考えると……ゾッとする。こんな身なりの社長でも、感覚は庶民よりなのだ。


「コッチでそれとなく印象を変えて、好感度戻しときますよ。……もうすぐ会場に着きますので、切りますね。仕事頑張れー」

「忘年会か。楽しんでこいよ――って今お前印象戻しとくって」


 電話を切り、車から降りる準備をする。実は、その話を聞いた時から、弥登はすぐにコンタクトをとり、取引を持ちかけていた。今の所、関係は良好である。


 代理で行ってくれた南先生の話によると、お誘いをかけられた被害者の人は社長の娘さんであり、娘さんから社長に伝わった感じらしい。それで社長さんが激怒になったと。


 その話を聞いた時は頭を悩ませ、社長に同情した。重要な取引の場で、下心丸出しな相手社員が実の娘を誘ってるんもんな……そりゃ怒るよ。


 今度新規社員を雇う時は、外側だけじゃなく、内面も確認しょうと思いながら、会場に入るのだった。

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