勝負とツマミと忘年会

酒のつまみを掛けた、社員のWスピード対決!

 お話を整理しよう。

 高校1年生、音野弥登は会社の部下達に勝負を吹っ掛けられた。内容はトランプのWスピード。


 スピードとは、2つのトランプを赤と黒で分けて、場に4枚セット。合図と共にカードを出す。この時に出したカードと場にセットした4枚の数字が並びになっているものをどんどん出していき、先に手札を無くした方が勝ちのゲーム。


 どれだけ速く出して、どれだけ速く手札を無くせるか。常に速さが求められる遊びからWスピードという名前がついたとも言える。本当かは知らないし、それは然程重要じゃない。問題は何故、部下に勝負を吹っ掛けられたのか、でもなく。


「言葉の通り、勝負してください!そして酒のつまみを作ってください!」


「……一応聞くが、どうしてその話になった?何故僕が酒のつまみを作れると知った?」


 何故、料理を作れると知っているか?しかも高校生のうち作る事なんてまずない筈のつまみを。


「それは………南さんです。」

「…………」


 最近、社員に自分のプライベートが筒抜けです。社員の透が喋る。


「前に、皆で休憩で話てる時に一人暮らしの話題になったんですよ。」



 ―――――――――――――――――――――――


『皆さんって普段弁当って作ります?』

 自分は一人暮らしで、朝に弱く、凝った弁当を作るのが出来なかったんです。その時に他の人達はどうなんだろうって思って聞いていたんですよ。その時に、南さんにもきいたんですけど、


『私ですか?……私は社長に作って貰ったりしてますので!社長ってつまみも作れるんですよ!イカフライとか、鶏皮とか!他にもですね………』


 南さんと別れたのはその話から10分たった後でした。その時に言われた、『社長はつまみも作れる』が頭の中で羨ましかったんです。あの時はとても辛かったんです。


 ―――――――――――――――――――――――


 だから透は僕に酒のつまみを作ってくれと……、成程成程。


「だから、そんなに自慢するなら是非食べてみたいって思いました。さあ、勝負を」

「断る。やらないといけないこともあるし、時間が無いからな。」

「えっ」


 無論、時間がある場合もやる気は無い。

 そもそもとして、何故やらないといけないのか。その際の自分のメリットがないと判断し、社長室に戻ることにした。


「怖いんですか?」


 それは、弥登がドアノブに手をかけたときだった。

 社員である透からの煽り言葉、いつもだったら軽く受け流すが、今日は違った。


「あ?」


 室内の温度が下ったと錯覚するほどの声の変化、それでも透は続ける。


「僕には、負けるのが怖くて、勝負したくないだけに聞こえたのですが、違いますか?」

「……………はぁ、分かった。」


 数秒にも満たない沈黙、そして、了承。


 このとき、ある社員は安堵し、あるものは歓喜し、ある少数の社員は諦念した。何故かというと、


「誰からでもいいぞ。かかってこい。」


 弥登社長は、トランプにおいて最強であることを知っていたからだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る