第4話 元おじさん、勉強する。

「はぁ〜……とりあえず、就職は決まったな。」


面接らしい面接は一切していないが、いい社長みたいで安心した。

だが、次の問題はそんなに簡単には行かないだろう。

なにより……


「篠山さん……」


次の問題は、この会社に就職するには絶対に必要な知識だ。


「どうしたんですか?」

「……VTuberってなんですか?」


パソコンの使い方は後輩に貰った教本を見れば何とかなるし、マネージャーの仕事もなんとなくはわかる。

でも、VTuberに関しては全く分からない。


「あ〜……。」


いやごめんね? 俺今まで仕事一筋人間だったからさ、

若い子たちの間でハンドスピナーが流行っているので知識が止まってるのよ。


「……分かりました。私が責任持って一から教えましょう、VTuberを!」


そう意気込んだ篠山さんは、俺を連れてとある部屋に連れて行った。


「篠山さん、この部屋は?」


部屋の中は普通の会社みたいで、机とパソコンが並んでいて、何人かが仕事をしていた。

一つ気になるのは、皆女性であるということだ。


「ここは私たちの仕事場です。基本的には自宅で配信するんですけど、ここで仕事をすることもあります。」


篠山さんはそのまま自分のデスクについて、パソコンの電源を入れた。


「志田さん、最初の仕事です。VTuberについて勉強してください。」


そういって動画配信サイトWeTubeを開いた。

ちなみに、WeTubeくらいは俺でも知っている。後輩たちにめちゃくちゃ教えられたなぁ。


「私は、少し準備するものがあるので少し席を外しますね。」


俺は篠山さんを見送って、VTuberについて勉強することにした。しかし、最近の技術は凄いな。絵がこんなになめらかに動くなんてな。絵が動くなんて、俺の中ではパワポしか思いつかない。


「おっさんには難しいなぁ。」


この絵がどうやって動いているのかすらわからん。

でも、こんなにワクワクしたのは久しぶりだな……。俺も会社に入りたての時は、全部が楽しかったなぁ。


「ねぇ、あんた誰。」


俺が昔に入り浸っていると、隣から声をかけられた。


「あ?」


おっとしまった。50歳のノリでいってしまった。

俺に声をかけてきたのは、ツインテールのチビだ。

というか、初対面の人にそんなタメ口使う? 最近の若い子は怖いな。


「質問に答えなさいよ。あんた誰?」


イラッ。

いや落ち着け。見た感じ相手は20歳以上歳が離れている子供だ。これということは無い。


「俺は志田 響也。篠山さんのマネージャーだ。」

「は? 嘘つかないでくれる?」


えぇ……嘘つくなって言われても本当なんだな……。

というか、この子はなんでずっと怒ってるんだ?


「涼子ちゃんにマネージャーはいないのよ知らないの? 嘘をつくならもっとマシな嘘つきなさいよ。」


落ち着け俺、最近の若い子なんてみんなこんなもんだよ。うん。

というか、涼子って誰だ? 篠山さんって、由奈だったよな。


「なぁ、涼子って誰だ?」


俺が聞くと、ツインテちびは信じられなものを見たような顔をしていた。


「はぁ?! あんた……マジで言ってるの?」


いやそんなこと言われても知らんもんは知らん。

というかこの子、感情豊かだな。


「あんた、星降 涼子を本当に知らないの?」


星降 涼子? 随分珍しい苗字をした子だな……。

てか、なんで今その子の話を?


「もういいわ。あんたと話しても時間の無駄だわ。早く帰りなさい。」


そう言い残して、部屋から出て行ってしまった。

あのツインテちびが出ていった数分後に、篠山さんが帰ってきた。


「志田さん、VTuberについて、少しはわかりましたか?」

「なぁ篠山さん、星降 涼子って誰なんですか?」


あのツインテちびもここの社員だろう。また会う機会もあるかもしれないし、話を合わせるためにも学んでおこう。


「……えーと、その〜。」


何故か篠山さんは顔を赤くしていた。なんか今にも煙を出しそうなんだが……。


「篠山さん?」

「えっと、それ、私……です。」


あ〜なるほどね。そりゃ、俺がマネージャーって言っても信じない訳ですわ……。


まずは名前を覚えることから始めよう。そう思った俺であった……。

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