16:道場をやぶろう(特級編)

俺、前世はニッポン人、名前はロック!(転生者あいさつ)





道場生上段者のオッサン2人が、警戒レベルMAXという険しい顔で、剣を構え直す。



(よし、ガンバれ、ガンバれっ)



それを、生温なまぬるい目で見る、俺。


今の攻防で解った。

コイツら上段者3人ですら、リアちゃんよりずいぶん剣術レベルが低い。

足運びも悪いし、構えも頼りないし、多分、剣術Lv35前後。


果たして、リアちゃんが天才!カワイイ!最強!なだけなのか。

それとも、コイツらの剣の修練が足りんのか。



(この道場、赤毛ニアン以外は誰もマジメに剣術をってねえのかな……

 でもジジイが、魔剣士の昇格試験には『かた』練習が必須ひっすって、言ってたよな……?)



・問題: 素人がいきなり強化魔法を使うとどうなるか?



・正解: 自分のひざから下を斬り飛ばす!



慣れない人間が強化魔法を使うと、急なスピードアップに神経や感覚がついていかない。

さらにパワーアップした腕力を抑える事ができなくて、剣の振り終わりの減速ブレーキを失敗し、自分の足とか斬っちゃう訳だ。


他にも、『強化の全力で走っている最中に足がからまって、超スピードで転倒し、地面で顔面粉砕』とか割とヒドい事になる。



(ジジイいわく)そのため、魔剣士の昇格には必ず『かた』の試験がある!


魔法でパワー&スピードアップしてもケガしないため重要な事だ。

正しい動作フォームがきちんと身につき、指導者から合格をもらうまでは、強力な上位の強化魔法は使わせてもらえない訳である。



なお、魔法は全般的に、初級~特級の5段階に分かれている。

上位の身体強化 ── 上級や特級は非常に強力で、それをあつえる上段の魔剣士となると並の人間の3~5倍強い。

ライオンかクマかゴリラか、そんな猛獣じみたパワーとスピードになってくる。


可憐な妹弟子アゼリアでも【上級・身体強化】を使えば、筋肉ムキムキの軍人(身体強化は未使用状態)くらいボコボコにできる、と言えばそのスゴさが解るだろう。


『魔法を使う人食いの怪物 = 魔物』と戦うためには、そのくらい超人的な能力が必要だという事でもある。




── しかし、その超人的な身体能力を使い・・こなせるか・・・・・となれば、また別問題。


地味で根気のいる稽古けいこを延々と繰り返し、武術の練度を上げる必要がある。

これがまた『ナメクジがエベレストの頂上を目指す』くらい焦れったいのだが、絶え間なく精進しょうじんするほかない。



── ところで、世の中には、1番目・・・の初級・・・すら合格しなかった無能ナマクラな魔剣士がいるらしいんですよぉ。

身体強化魔法の腕輪を、師匠から1個も・・・授けられ・・・・なかった・・・・っていう、ガチのポンコツ野郎なんですよぉ。

ソイツ、ロック・・・って名前なんですけどねぇ?



(……で、目の前に、そんな無能な俺ポンコツにも負ける貧弱カスが2匹居ると……)



リアちゃん、どうしよう!

兄ちゃん、会う魔剣士、会う魔剣士、みんな俺より貧弱カスで、自分が強いって錯覚しちゃいそう!



── 『精進しょうじんが足りん、出直せ!』とか言ってやりてぇー!





▲ ▽ ▲ ▽



なんか『実は俺って強いんじゃない?』という慢心が湧き上がりそうで、内心ソワソワする。



(── 慢心ダメ、絶対っ!

 調子乗ってると、また脚とか食い千切ちぎられるぞ!?

 下手シタを見て調子にのるなイキるな上手ウエを見て歯を食いしばれ!)



そんなバカな事を考えていると、魔力の気配を感じて構え直す。

頭をってるのか、見事なハゲ頭の中年が、<正剣>フォーマル柄頭つかがしらを操作していた。



(── おぉ、攻撃魔法か……?)



この異世界の真剣は、大抵はつばの所が車輪型で、攻撃魔法の術式が刻まれている<魔導具>マジックアイテム内蔵型だ。

つかの底を押し込むと、魔法が起動する仕組みになっている。



── あ、もちろん俺の愛剣・ラセツ丸には、そんな仕掛けギミックはないよ。


どうしても<魔導具>マジックアイテム内蔵型になると、強度や耐久性が落ちるからね。

ラセツ丸コイツはあくまで、素振り鍛錬用の模造剣ナマクラ

不殺ナマクラの剣士な俺には、ぴったりの相棒エモノだろ?



── され、それはさておき。

ハゲ中年の<正剣>フォーマルの車輪型のつばに魔力の光がともると、<法輪リング>が回転して『カン!』と起動音。

同時に、ビン……ッと衝撃波が生み出され、剣身が震えた。


俺は、剣先の方向を読んで、射程20m強の衝撃波を軽く避ける。



(相変わらず、微妙……)



この世界で一番、俺の『魔法剣』のイメージに近い攻撃手段だ。

だが、見れば見るほど、欠点が目立つ。



剣内蔵の<魔導具>マジックアイテムは、突きの構えでないと撃てないし。

反動を押さえるためにも、両手で握らないといけないし。

衝撃波の威力も大した事がないし、威力上げると剣にダメージがいくし。

そもそも<魔導具>マジックアイテムの発動自体に2秒くらいのタイムラグがあるから、10人くらい揃えて一斉発射しないと、素早い魔物なんかには当たりもしない。


そして、そもそも見た目がハデじゃない!(最重要事項!)

これって『理想の魔法剣になりきれなかった魔法が発動マジック・できる装備アイテム』だよな。



(── あ、でも、敵の魔法を相殺そうさいするのに使えるんだったけ?

 この【撃衝角アタックラム】とかいう魔法)



なんか、魔導の手引き書に、攻防一体の術みたいな事が書いてあった気がする。


上段者2人が意地になったみたいに、『カン!』『カン!』『カン!』『カン!』……と魔法を撃ってくるので、俺もちょっとマネしてみる。


えっと、こうか?

ヒゲ親父の次の魔法に合わせて、よし今!

見て覚えた術式の<法輪リング>が高速回転して『チリン!』と鳴ると、ボンッと手に反動。



(お、ちゃんと衝撃波同士で相殺したっ

 これ、盾代わりに使えるじゃん、いい魔法を覚えた!)



ちょっと面白かったので、もうちょっと新魔法の試し撃ち。

撃衝角アタックラム】の<法輪リング>を5・6個並べて、愛剣・ラセツ丸の剣身40cmで串刺し状態に形成。



「お、おいおい……ありかよ、それっ」「く、くそ、ハッタリだ!」



俺が攻撃態勢に入ったのが解ったのか、上段者2人は、ちょっと顔を強ばらせる。



(あー、いけませんよ、いけません。

 剣士がそんな簡単に表情に出しちゃ、内心読まれちゃいけません!

 いつも『余裕っち!』な顔で、魔物だって人間の表情くらい読むんだからっ)



そんな内心ダメ出しつつ、【序の二段目:し】を起動チリン!



「いざ尋常に、二本目、勝負!」



そう叫びながら、オリジナル魔法で身体強化スピードアップして、一気に突っ込む。



「だ、弾幕で突進を止めるっ」「おう、つるべ打ちだな!」



上段者道場生2人が衝撃波【撃衝角アタックラム】を『カン!』『カン!』『カン!』と交互に連続で撃ってくる。


俺も『チリン!』『チリン!』『チリン!』と、ナマクラ剣を振って【撃衝角アタックラム】撃ちながら、片っ端から相殺そうさい

ジグザグに間合いを詰めていく。



「── な、なにぃっ」「この手練てだれ、帝室の密偵みっていか……っ」



なんか、変な事言ったな、ヒゲ親父の方。

よく分からんが、バカにした訳じゃないので、よしとしよう!


そのヒゲ親父の方に一直線に突っ込み、走った勢いのまま腹部へ剣突。

なんの工夫すらない、大振り見え見えの突きなんで、カァンッと当たり前に受けられた。


── こ、これは、あくまで余り物処理なんだから、か、勘違いしないでよね!!

と、ツンデレというよりツンギレ気味に、ナマクラ剣に残った<法輪リング>を全弾発射フルファイア



「── グハァ……!?」



── ズドオオォォォン……! 3発同時発動で威力アップした衝撃波で、ヒゲ親父が気持ちいいくらいハデに吹っ飛んだ。


そして、ビィン……ビィン……ビィン……と、いつまでも震えが取れない、俺のナマクラ剣。



(うん、これアレだな……

 あんまり多重発動すると、愛剣ラセツ丸が傷むかもしれん。

 ほどほどにしておこう)





▲ ▽ ▲ ▽



「── 最終戦っ!!

 いざ尋常じんじょうに、三本目、勝負ッ!!」



色んな意味でラスト1人の、ハゲ中年に狙いを定める。


右手の薬指指を伸ばす。

指輪に偽装した待機状態スタンバイの魔法を解放リリース

魔法の術式<法輪リング>が、腕輪の大きさに広がって高速回転、『チリン!』と鳴る。



「【秘剣・速翼はやぶさ】 ──」


「くっ……なにぃ……っ」



横カーブしながらの超低空飛行から、急上昇する必殺技。

それを、敵背後の上空に回る事だけに使用。



── 格闘ゲームでいうところの『めくり』だ。

ジャンプ攻撃や移動技で背後に回る事で、対戦相手の堅実なカタい防御をくずすテクニック。



ハゲ中年が慌てて振り向くと、俺は既に空中で狙いを定めている。



「── からの、【秘剣・木枯こがらし】!」



続けざまに、右手の中指の魔法の術式<法輪リング>が、『チリン!』と鳴る。

あ、これは『途中変更キャンセル発動』じゃないよ、連続・・発動だよ。


そもそも【秘剣・速翼はやぶさ】は、敵に接近するついで・・・に斬りつけるという、高速移動と攪乱かくらん主目的メインの技だし。

(※ 格闘ゲームなら ↙→ + [P]または[K] 、の[K]の方がこれ)



斜め上空から振り下ろされる、秒間20発の連続突き。

まるで土砂降りの雨か、ゴウゴウと流れ落ちる滝の水か。



「うおぉぉっ ── グハァ……!?」



上半身の滅多打ちに耐えきれず、膝から崩れ落ちるハゲ中年。


3発くらいはガンバって防いだので、敢闘賞かんとうしょうにしてあげよう。



(まあでも、ウチの超天才児リアちゃんの本気モード(身体強化の【五行剣ごぎょうけん】使用)とか、秒間20連撃これくらいなら7~8割を防いだり避けたりするんだけどなっ(妹ちゃんの手柄でドヤ顔ッ))



「……ば、バケモノめ……っ」


「── フン……ッ!!

 単に、お前らが弱いだけじゃねえか……」



最後の最後に余計な事言いやがったので、思いっ切りぶん殴って気絶させる。



(── 結局、両手に待機状態スタンバイしてた『必殺技』10個中6個しか使ってない上に、親指と小指は使わずじまいか。

 マジで、貧弱カスばっかりか、この魔剣士道場……

 そりゃあ、あんなアホ2人が調子に乗って、好き勝手するよなぁ……)



俺がそんな事を考えつつ、倒れた連中のケガの容体を見て回っていると、道場に切羽詰まった叫びを上げるデカい人影が飛び込んでくる。



「── ロックぅっ

 はやまるでない、はやまるでないぞぉ!!」



妹弟子アゼリアに付き添われ、痛そうに腰を押さえる身長2m級の総白髪ジジイ。

ウチの『剣帝』さまが、死屍累々ししるいるいの剣術道場の様子に、頭を抱えて、激怒する。



俺、もれなく正座してお説教タイム。

リアちゃん、道場入口のテーブルに座り、周りを気にせずおやつタイム。



── なお、いつまでも道場の様子を見に来ない初老の道場主は、門下生の赤毛少年ニアンがケガして担ぎ込まれたと連絡があったので、俺の宿から最寄りの治療院に迎えに行ってたらしい。

つまり、俺と入れ替わりになってしまった訳だ。


連れ立って戻ってきた道場主と赤毛の2人が、道場のあまりの惨状に呆然と立ち尽くすのは、さらに5分くらい後だった。





今日、俺がしでかした『道場やぶり』の経緯は、だいたいこんな感じだった。


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