09:ナンパは決闘の始まり(様式美)

俺、前世はニッポン人、名前はロック!(転生者あいさつ)



荷車に乗って中核都市<翡翠領グリンストン>に付いたのは、門限ギリギリだった。

本当に、日暮れの閉門にすべりこみ。


冒険者パーティの人達が魔物素材集めを、いつまでも粘っていたせいだ。



「せっかくの機会なんだから、元をとらなきゃっ」



食べ放題の店バイキングに来た男子高校生か。


もちろん、カネにがめつい冒険者パーティは、門番のおっちゃんにこってり叱られてた。

どうも常習犯らしい。

次はないよ、とか言われてる。


もちろん、冒険者ギルドも、営業時間外。

報酬を受け取るためにひと晩宿泊だ。

流石に申し訳ない、と冒険者パーティから宿泊料は出してくれた。



(── だが、これがダメだったなぁ……)



賢明なる読者諸兄なら、事情をご拝察いただけるだろう。


俺いま15歳。

若さが常にハイパー状態。

がはは、グッドだ! ── な状態。

身体の奥底から、たぎるマグマが悶々としている。


そりゃあもう、お布団の中でゴソゴソしたい夜もある。



事情をご拝察いただけない方には、何かしらの特別なトレーニング中だと思っていただければ幸いです。


『いっしょにトレーニング』ではなく『ひとりでトレーニング』モードな訳だが。



「はぁ……はぁ……はぁ……っ」


「うぅ~ん……おにぃしゃま~……」


「なにぃ……っ! ちょ、おま……っ!?」



兄ちゃん、大困惑っ!


── ででっでっでっでっ・でぇ~ん!

── ちょうHereせんしゃComes A  NewあらわるっChallenger!?


枕が変わって寝付けない、さびしがり屋さんが、布団に潜り込んでくる!



やめろ、妹ちゃん!

いまホンマ兄ちゃんアカンねん!

少年的に色々あってアカン時なんだってばYO!


兄の平和なオ◎ニー村を、突如として荒らしにこんでくれ!(混乱中)

お前、エロフにグヘヘヘなってるドスケベオークか、妹弟子!!(錯乱中)



(── ヤめろ止めろ、マジで! ヤぁ・メぇ・ロぉ!)



最近、栄養ばっちりで発育よくなった、玉のようなお肌を押しつけたらイカン!


耳元で、ささやくような寝言で、「おにいさまぁ」とか甘えるように言うなよ!


いいところ(?)だったお兄ちゃんに、すらっとした美脚とか巻き付けるなぁ!!


なんだ今のその、ぷにんっ、とした謎物体はぁ!?



(俺は一体を背中の上の方に、ナニ当てられてんですかねぇええええっ!?)



あぁ!

あああぁぁ!

冗談ぬきで、マジやめて!

わりとギリギリ限界MAXなの!

このままじゃ、お兄ちゃんの性癖、ねじ曲がっちゃう!

妹弟子じゃないとダメな、サイテーお兄ちゃんになっちゃう!!



(── お、俺はぁ! 俺は『お兄ちゃん』なんだぁあ!!!)



守るべき妹弟子アゼリア=ミラーをけがすマネなど、出来る訳がない!

俺はこの、ふた親に愛されず育った不憫な妹弟子に、何でもしてやると誓ったのだ!


そういう決意と共に、気合いを入れる。



(──兄弟子おにいちゃんは、何者だれにも負けないっ!)



── 結論。



(ダメでした……ぁぁ……っ)



くやしい!ビクッビクッ(謎ケイレン)



『── 負けました。

 いやー、完敗です。

 世界の広さを思い知らされましたよ。

 この経験を、次に活かしていきたいと思います。

 でも『お兄ちゃん自身』をあんよでスリスリとか、禁じ手でしょう?

 運営には次の大会までに、絞め技禁止のルール改訂を求めていく所存です』



── そんな、よく分からん悪夢まで見た。



なお、<翡翠領グリンストン>の宿屋に、朝早くパンツ洗ってる恥ずかしい男子が居た事だけ、申し添えておきます。


現場からは以上です。





▲ ▽ ▲ ▽



昨夜は『絶対に負けられない闘い』(負けた)があったため、寝不足だった俺。


朝、明けて一番に、依頼主の冒険者パーティと冒険者ギルドに行って、諸々手続き。

ようやく山岳ガイド料をいただき、生活雑貨を買い込んだら、もう昼前。


せっかく都会に来たからには、飯くらい食っていくかと、妹ちゃんとお昼を済ませる。



「ねむい……めっちゃ眠い……っ」



お腹が膨れると、睡魔がスゲー。

大通りをフラフラ歩いていると危ないので、リアに引っ張られ、噴水そばのベンチに。


リアは俺に荷物を預けると、屋台に何かデザートを買いに行った。

甘い物は別腹としても、相変わらずよく食べる子だ。


ここ、みんなの憩いの場というか、休憩スポットらしい。

彫刻とか緑とか花壇とかあって、景観もいいし。

平和そのものの光景に、さらにウトウトしてくる。


ちょっとの間、目をつぶっていると、何か耳障りな声が聞こえてきた。



「いま何してんの?」「え、買い物中?」「きみ名前は?」「どこから来たかんじ?」「へ~……知らないな」「いやいや、まってまって」「女の子だけじゃ大変だろっ」「いいじゃんっ」「手伝うって!」「ね、男手が居た方が楽だってっ!」



ナンパしている男の声。

必死さなのか、徐々に声がヒートアップしている。



(──ちっ……長いな。

 ウザいよ、お前。

 嫌われてるんだよ、きっと……)



そう思って、薄目を開ける。


ナンパしているのは、背の高い赤毛のそばかす男。


ナンパされているのは、すらっとした銀髪の美人な女子。

話しかけられても、アイス食べるのを止めない、買い食いっ子。

若干食い意地張ってるのが残念な美少女、マイ妹弟子・アゼリアだった。





▲ ▽ ▲ ▽



「── おいアゼリア、行くぞっ」



俺はゴホンとやってから、なるべく低い声を出す。

せいいっぱいの男らしさアピールだ。


しかし、それでも



「え、何、妹さん? それとも友だち?」


「え、こっちマジかわいいんだけど!」


「俺も、この黒髪の子の方がタイプ!」



赤毛男のみならず、少し遠巻きにいた友人らしき連中まで、何か盛り上がってくる。


やめろやめろ、女に間違われた上、男どもにキャーキャー言われて嬉しい訳あるかぁ!

寝不足の不機嫌と、そんなイラっとポイントが、合算。


さらに、昨日さんざん冒険者パーティの連中に、「えー、こんなにカワイイのにー」とか言われ頭をポンポンされた事も尾を引いている。


── 年頃の男に「カワイイ」、ダメ絶対!



「うっせーー! 俺は男じゃあぁぁ!

 相手見てナンパしろ、ポンコツ野郎ども!!」



思わず、甲高い叫びを上げてしまった。

怒りを制御できないなんて、剣術家としてのみならず、男としても未熟極まりない。


眠い頭の片隅で後悔するが、まだ半分以上は苛立ちが占めていたりもする。



「え、マジ……」「お、おとこ……アレが?」「ありえねー」「うっそだろ」「なしよりの、アリだな……」「うっそだろ、お前……」



やたらと注目を集めてしまった。

あと、何かヤバイ事口走ったヤツ誰だよ、コエーよ。


アゼリアに買い物の大袋を投げ渡すと、手を引いて去ろうとする。



「いくぞ。

 リアもこんなヤツら相手にしてんな、バカ女じゃねえんだから」



眠かったので、頭が回ってなかったのも認める。

イラッとしていて、気分がささくれていたのも認める。

だから、この時の俺の言葉が汚かったのも、やはり認めざるを得ない。



「── おい、待てよ。

 今の『こんなヤツら相手にしてんな、バカ女じゃねえんだから』ってのは、どういう意味だ?」


「ハンっ

 だから『誰でもついていくバカ女』じゃないと、相手にしてもらえないだろ、お前?」


「おいっ

 美人の彼女がいるからって、ちょっと調子に乗りすぎじゃねえか、女装ヤロウ!」


「誰が、女装ヤロウだ!

 これは魔導師の<式服しきふく>ってヤツ、いわゆる魔法付与エンチャント装備っ

 あと俺は、この子の兄貴だ!」


「── そうですわ、リアのお兄様です!

 でも別に、恋人扱いでもかまいませんの!

 お山で、いっしょに住んでますの!」



アイス食べ終わった、食いしん坊アゼリアがようやく口を開いた。

うん、君は余計な事を口走らず、ほっぺた拭こうね?



「……なあ、リアちゃんのお兄さん。

 女を守れない男に、価値はないと思わないか?」


「ああん?

 なんだ、まだ寝言ほざいてたのか、空気読めないナンパ野郎だな」


「俺はな、そこの轟剣ユニチェリー流の門弟だ。

 この前、双環許そうかんゆるしになった」



赤毛が、両手首につけた腕輪型<魔導具>マジックアイテムを自慢げに見せつける。



双環そうかんゆるし?」



俺が首をひねると、横のアゼリアから補足が入る。



「魔剣士見習いから正式弟子への昇進ですわ、お兄様」


「へー……」



魔剣士か、コイツ。

確かに、足運びや体幹は、素人じゃなさそうだ。



「つまり、俺は一人前の魔剣士!

 女の子を魔物からだって守ってやれる、一人前の男だ!

 お前みたいな、カビ臭い部屋に閉じこもってる魔導師のモヤシ野郎が、肝心な時に妹守れるのか?」


「お、ヤる気か?

 俺には、魔剣士の才能はなかったが ── 剣術の腕だけはそこそこ自信があるぜ?」



魔剣士の夢には破れてしまった。

だが、毎日毎日、1日たりとも休まず、剣の素振りだけは続けている。



「おいおい、お前みたいなチビが剣術って……!?

 冗談は見た目だけにしとけよ、この女装モヤシ野郎!」


「よし、そのケンカ買ったぁ!

 赤毛ゴリラめ、ぶちのめしちゃるっ」



売り言葉に、買い言葉。


俺 V.S.ヴァーサス 赤毛。

男の意地をかけた、1対1の決闘が成立した。



── いま思い返すと、これ半分俺が悪いな。

うん、反省。

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