08:わたくし出来ましてよ?

俺、前世はニッポン人、名前はロック!(転生者あいさつ)





今ちょうど、冒険者の人達に、山岳さんがくガイドとして同行してる訳だが。

なんか一匹、魔物ちもらしてるみたいなんだよな。


さて、どうしよう。


そんな事を迷っていると、隣からバシュンと何か飛んでいった。



(……うん、俺の隣にソワソワしてる子がいると思ってた。

 兄ちゃん、リアちゃんが剣をブンブンしたくてたまんないって、気づいてた……)



さっきから「わたくしも、あのくらい出来ましてよ?」とか、ブツブツ言ってたからな。



妹弟子は、<魔導具>マジックアイテムで【五行剣ごぎょうけん】を発動させたらしい。

ジジイの流派の秘伝にして、門外不出の特殊な身体強化魔法だ。

さっきの、冒険者パーティが使ってた、一般的なヤツとはひと味違う。


五行剣ごぎょうけん】の特徴は、爆発的な突進力。

ほぼ垂直な巨大樹のみきを、平道を走るように駆け上がる。

背中の魔法陣が、赤い残像の光を引いている。

見た目はまるで、打ち上げ花火か、ロケット噴射か。



必死に逃げる<毒尾蜥蜴ポイズンテイル>を間合いに捕らえると、さらに加速。


── 魔物は反射的に、毒棘どくとげ付き尻尾の一撃!


だが、アゼリアは、紙一重で回避!


さらに、通り抜けざまに、ザクッと尻尾を根元から斬り落とす!



「ハァッ……!」



さらに、転身して垂直落下しながら、魔物の頭へと横薙ぎ一閃。


── バッシュっと返り血。


それを避けるように、アゼリアは巨大樹のみきっては、横っ飛び。

そんな横ジャンプ移動を繰り返しながら、徐々に下りてくる。



(う~ん……。

 最近ウチの妹ちゃんがニンジャな件について……)



「おお」「あっという間に、あんな高さまで」「スゲー」「斬首くび、一撃かよ」「さすが剣帝けんていのお弟子さん」「ウチのパーティに欲しいわね」



腕利うでききな冒険者パーティとしても、感心するレベルだったらしい。



(スゲーだろ、ウチの妹弟子!

 それでは皆さん、音頭おんどに合わせてご唱和しょうわお願いします!

 せーの、『ウルトラスーパー天才美少女魔剣士リアちゃん、マジ半端ッパねえ!』

 ── どうもぉ、ありがとうございまぁしたぁー!)



さてさて、えんもたけなわ。

お説教の時間である。





▲ ▽ ▲ ▽



「アゼリア、ちょっとそこの岩に座りなさいっ」


「ハイですの、岩に座りましたの!

 でも、お兄様が遠いので、リアをナデナデしにくいと思いますの!」


「ナデナデは……しないっ!」


「ど、どうしてですの!?」



なんでショック受けてるんだ、妹ちゃん。

君が俺の注意を守ってないから、説教しているというのに。


── ちょっと甘やかしすぎたかな?、と思わないでもない。



たまにチョコとかクッキーとかやると、「コレですわ」「バクバクですわ」「手が止まりませんわ」とか、ハムスターみたいに一心不乱に食べる。

すごい幸せそうに食べるので、どうしても甘やかしてしまう。


幼少期が不憫すぎるので、いよいよだ。



(でも、これじゃあいけない。

 甘やかしすぎると、アゼリアのためにならん……!)



という訳で、兄弟子の俺が心を鬼にするしかない。



「……リア、俺が最初に何て言ったか、思い出せ」



声変わりしても高い声を何とか渋くして、重厚感じゅうこうかんを演出する。

兄ちゃん、怒ってるんだぞアピールな訳だ。



「お兄様の言った事……言ってた事……

 ── ああ、そうです『山歩くだけで現金収入とか、マジでチョロいな』ですの!

 あとは、『この山のまわり危険地帯扱いだからって、こんなにもらえんの! お散歩だけでガッポガッポ、最高だな山岳さんがくガイドっ』でしたの!!」


「── 違う、そこじゃねえっ」



止めろヤメろ、このポンコツ妹め。

こっちの内情ないじょうポロッとバラすなよ!

お客が横で聞いてんだぞ!


次から値切られたら、どうしてくれる!


俺は慌てて修正を入れる



「── きょ、きょ今日のお客さまはな、この冒険者の人達はな!

 魔物を退治しにきたんじゃないのっ

 魔物素材をとりにきたのっ

 解る、この違い?」


「解りますわ!

 魔物をいっぱい狩ると喜ばれるんですの!」


「── そこが大間違い!

 下手に魔物を狩ると、貴重な部位ぶいが壊れちゃうの!

 勝手に手を出しちゃダメなんだってば、解る?」


「で、では、リアはどこを斬ればよかったのですの!?」


「だから、斬ったらダメなのぉー!

 ちゃんと指示を聞こうな、妹ちゃんっ」



たまに思うが、なんでこの子、こんなに血の気が多いのかな。

戦闘となると、一番に突っ込んで行っちゃう感じ。


兄弟子として、すごい心配です。


すると、さすがに見かねたのか、冒険者パーティの女性陣が口を出してくる。



「あ、あの、お姉さん?

 そんなに、妹さんをしからないであげて?」


「ん、『お姉さん』……?」



誰がお姉さん?

今のこれって、誰に言ってんの?


あ、もしかして、リアの方がちょっと背が高いから、俺が年下に思われて ──

── いや、違うな。

『妹さんをしからないで』とか言われたし……。



ん?

んん~~?

もしかして、これって……?



「あのさ。もしかして俺の事、おん ──」



と、しゃべりかけた瞬間、背後から魔力の気配。

ぱっと見た感じからして『伸縮しんしゅく』と、『高速化』と、『強化』と、『硬質化こうしつか』か?


まだ<毒尾蜥蜴ポイズンテイル>の生き残りがいたのか……



「── ち……っ」



俺は舌打ちしつつ、オリジナル魔術の【じょの三段目・め】を起動。

身体強化の要素の一部、【剛力ごうりき】と【精緻せいち】を組み合わせた、防御用の特殊技だ。


── ガァァン! と警鐘けいしょうでもたたいたような、大きな音が響く。

もちろん、毒棘どくとげ付き尻尾の一撃を、ナマクラ剣で防いだ音だ。



(なめんなよっ

 俺の素振り用剣の『愛剣・ラセツ丸』 は、ナマクラな代わりに重量級。

 その分、並の盾より丈夫だからなっ)



そう思いながら、背後からの強襲を4~5回防いだか。



(座ってるリアにかすりそうだから、防いでいたけど ──)



「── コイツ、いい加減、ウゼぇ……っ!」



【序の三段目・ね】でバックジャンプして間合いをめ、毒棘どくとげの尻尾をかわす。


後ろを見れば、巨大樹に逆さまに張り付いた毒持ちオオトカゲ。

俺は、振り返りざまで、トカゲの顔面に左手を伸ばす。

すると魔物は、反射的にみついてくる。



(── 狙い通り!

 お前ら魔物は、本能に忠実すぎんだよっ)



獲物が口の前に出されたら、まずにいられない。

その習性を利用する。


素手の左手と、剣を持つ右手を、一瞬で入れ替えた。

そして、ナマクラ剣の厚い剣身に噛み付かせると、巨大樹のみきり、一気に魔物を投げ飛ばす。


変則的な投げ技が、見事にきまった。



「うそ」「あの子、<毒尾蜥蜴ポイズンテイル>をぶん投げた」「今、どうやったんだ」「ねえ強化魔法の<魔導具>マジックアイテムどこ?」「まさか、自力?」「さすがは剣帝けんてい様のところの子」「女の子2人とも、半端なく強いな」



冒険者パーティは、そんな風にわーわー騒いでいる。

しかし、しゃべりながらも、投げ出された魔物をきっちり退治するあたり、流石は腕利うでききだ。


しかし、俺には一言、彼らに言わねばならない事がある。



「── 俺、女じゃなくて男だっ

 髪伸ばしてるからって間違えるなよっ」



── 『えええ!!!』



今日一番くらい驚かれた気がする。

つーか、どいつもこいつも身体からださわろうとすんな、ウゼー。



(悪かったな!?

 発育悪くて、同年代女子に身長負けてる男で!!)



そんなこんなで、山岳ガイドは無事終了。


このパーティの人達といっしょに下山し、そのまま冒険者ギルドのある大きな都市まで同行して、依頼の料金清算せいさんする事になった。



ひさしぶりに、街まで向かう ──


── そう、今回の騒動の発端ほったん

『道場破り』の切っ掛けが、すぐそこまで近づいていた。

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