05:ひと晩で妹できた

俺、前世はニッポン人、名前はロック!(転生者あいさつ)



オッサンと連れの女児が泊まっていった、翌朝。

夜明けも早々に、オッサンが帰宅の準備を整え、玄関で深々と頭を下げる。



「それでは、わたしはこれで失礼します。

 当主への報告が有ります故。

 あとで人をやって、荷物は運ばせます」


「荷物は最小限でよいぞ。

 帝都から送るより、麓の村で買いそろえた方が早い」



ジジイが肯いて、そう答えた。


俺は、目をぱちくり。



「え、何? どういう事?」



俺の一番の疑問は、オッサンのれの女児(美人さん)が、帰る気なさそうな事。


彼女、早起きして自主訓練中。

さっきから、ずっと鞘をつけた<中剣ミドル>を振り回している。

立てると自分の肩くらいの長さの剣を振り回せるあたり、中々バランス感覚がいい。

身体能力も、かなり半端ッパない。



ジジイがその目線に気づいて、簡潔な一言。



「その娘、お主の妹弟子になった。

 歳も近い事だし、面倒をみてやれ」


「……師匠、一体どういう事?」



いきなりすぎて、意味が分からん。

ってか、ジジイ、弟子の育成やめて下山する話は、どうなった?


俺がそう問い詰めても、ジジイの返答はのらりくらり。



「思いがけず、才能があるのでな。

 少しだけ指南しようみてやろう、と思っただけじゃ」



すまんな、ジジイ!

一番弟子の俺が、才能なしで!


育成放棄された弟子としては、イラッとしないでもない。

だからといって、新入りの女の子に八つ当たりするのも、男としてみっともない。


しかし、あっさり割り切れるほど、俺も大人でも淡白でもない訳で。

ジジイに鍛えられ始めた頃に『お主は、天下にその名をとどろかす剣豪けんごうになるであろう』とか言われて、いい気になってたりしたプライドとか諸々ある訳で。


いくら前世で人生経験あるとは言えど、そんなにすぐに気持ちの整理がつかない訳だ。


あと、一緒に住んでるのも、問題だ。

ジジイが手取り足取り、懇切丁寧こんせつていねいに、基礎から指導。

何だか俺の時より念入りで、その辺りもイラッとポイントが高い。


それを横目に、俺は自己流訓練とか、我流剣術の開発とかしている訳だ。

もちろん、我流剣術とか聞こえはいいが、結局は格闘ゲームのモノマネ必殺技。


アホじゃねえ、俺って?



── この状況を、現代ニッポン流に例えるならば、こう。

ちょっと、以下のとおり想像して欲しい。



グランドの片方では、名コーチと全国大会目指して猛練習するスポーツ強豪校のレギュラー部員。

(=妹弟子)


グランドのもう片方に、「タイガー■ュートだ!」とか「消える■球!」とか『ごっこ遊び』で時間を潰す、猛練習についていけなかった落ちこぼれ。

(=兄弟子の俺)



── 生き地獄かな?

── これなんて拷問?



そんな、精神がゴリゴリとヤスリがけの毎日だ。

ハハハ、才能の差は残酷だぜ、コンチクショー!


俺の必殺技開発への熱中度合いが、むしろ現実逃避な件について。

あれだ、受験シーズン中に、やたらと昔のゲームとマンガとかに熱中しちゃうヤツ。

ハッと我に返るたびに、頭かきむしって死にたくなるわー、マジで。





▲ ▽ ▲ ▽



そんな悶々とした気持ちのまま、2週間ほど経ったか。

俺も、このままじゃいかんな、という気持ちになった。


ジジイからも面倒みてやれ、と言われたし。

現実逃避で目をそらすのは止めないと、とも思ったし。



── ともかく、今日こそは、ちゃんと話をしよう。

そう心に決めて、朝一番で妹弟子に声をかける。


しかし、俺の口から出てきた言葉は、ぎこちない。



「なあ、最近どうよ……?」


「あ、はい。今日も、健康ですの……?」



銀髪女児からは、不審な表情で半疑問形の答えを貰った。


ちがう、そうじゃない。

アホか、家庭で会話のない仕事人間のパパか、俺は。



「えっと……そう言えば、妹弟子ちゃん、何歳?」


「あ、はい。今月で10歳になりましたの」


「俺と、同じ歳かよ……」



── 体育会系なら、成果主義じゃなくて年功序列式!

そんな浅はかな考えで、マウント取ろうとしていた俺の目論見が、あっさり崩れた。


いやいや、まだいけるって!

いわゆる業界経験年数的なアレで、『たとえ同級生でも、こっちは先に入社した先輩だから』論法で、なんとか!



「お、同い歳でも、俺の方が先輩弟子で、兄貴なんだからな……っ

 新入りちゃんは、あくまで妹ポジションなんで、そこんとこ夜露死苦ヨロシク!」



そんな、無能パイセンな俺の精一杯なイキリ。

すると、なんかハートにブッ刺さったみたいで、妹ちゃんが顔を紅潮させる。



「── い、妹……っ

 わたくし、アゼリアが妹なのですかっ?

 で、では……妹の反対は ── あ、兄ぃ!?」



そんなに反応する所か、そこ。

俺の内心の突っ込みはともかく、妹弟子はチラチラとこちらを伺う。



「あ、あの……お、『お兄様』とかお呼びしても、その……よろしいので?」


「あ、うん、別に。どうぞ?」



兄弟子も、義理兄貴も、大して変わらんだろう。

そういう俺の淡泊な返事に、妹弟子ちゃんは大喜び!



「お、お兄様!」


「お、おう」


「お兄様と呼んで、よろしいのですよね!?」


「あ、うん」


「アゼリアに、アゼリアに、お兄様がぁ~~~!」



なんかこの子、クルクル回ってるーっ



「── ああ、お兄様、お兄様!

 なんてステキな響き!

 今日は、どうしてどうして、こんな素晴らしい日なんでしょう!」


「お、おう……いい、天気だな?」



俺が呆然としていると、銀髪ッ子はハッとして、髪とか服装を正す。

そしてスカートの端をちょこんとする、貴族的ハイソなあいさつ。



「アゼリアがお兄様に、朝のご挨拶を申し上げますっ

 お早うございます、お兄様っ」


「あ、うん……おはよう、妹ちゃんっ」


「── わたくしが、妹ちゃんですのぉおおおおおっ!?」



顔を真っ赤にした妹弟子は、ワァーとかキャーとか叫びながら、どっかにダッシュして行った。



「あ、アレが、伝説の『おそと走ってくるー』か……

 初めてリアルで見たわー……」



しばらく帰ってこなかったので、心配したジジイが探して連れて帰ってきた。

なにやってんだ、妹弟子ちゃんよ。



この時の俺は、その訳・・・も知らず、ただただ呆れかえっていた。

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