03:安心安全!無能は感染りません

俺、前世はニッポン人、名前はロック!(転生者あいさつ)



ジジイの「教えてやれる事はなにもない」という遠回しな弟子育成放棄宣言から、約2週間。

育児放置ネグレクトな弟子の俺は、勝手気ままに自主訓練らしき事をやってる。


魔剣士の訓練ではない。


前世ニッポンのゲームやマンガで見た、カッコイイ剣術のモノマネ訓練だ。

いわば、中二病的なあこがれの発露、必殺技の再現である。



具体的には

── 『ふ、残像だ』

── 『何、貴様いつの間に背後に!?』

みたいなカッコイイ技がやりたい訳である。


ただし、カッコイイだけで実用性は、皆無。

『敵の後ろに回るひまがあるなら、その間に攻撃しろよ』って事が道理だとは、もちろん解っている。



(── 『実用性』とか『実効性』とかぁ……?

 もうイイんだよ、そういうの別に、ねぇ。

 師匠にも魔剣士の才能ないって、遠回しに言われたしぃ?

 もう魔剣士失格な俺なんかには、まったく必要性ゼロなんだよねぇ……っ

 ── ケッ……!)



と、まあ、ちょっと腐ってた。



(── 俺、訓練は真面目にやってたじゃんっ!?)



という、ジジイ ── 師匠への不満がいっぱいだった。当時。



それは、いったん脇に置くとして。


魔法の術式を我流でいじくりまわしたら、なんとか斬撃の遠距離攻撃(ただし射程は数m)が再現できたんだ。


この調子で、

『ボタン連打系』

H.A.ハイパーアーマー付き突進系』

『無敵アッパー系』

この3種を再現したい。


なんとか形になってきた『飛び道具系』と合わせて、格闘ゲームの基本的4必殺技だと思うし。


こればっかりは、ジジイに呆れ果てられ「ダメだコイツ」と見限られたとしても、止められない。

いつまでも少年の心を秘めたニッポン男児の『サガ』である



そんなこんなで、毎日毎日朝から晩まで、舞い散る木の葉を相手に、あーでもないこーでもない、とやっている訳だ。


お腹が鳴り、そろそろお昼かと住居の山小屋の方に向かうと、何やら騒がしい。



── 『老師、なにとぞ! なにとぞ!』



山小屋の方から、必死な中年オッサンの声。



「またかい……」



それだけで俺は、来客が誰か解った。

ここ1年で何回かやって来た、ある意味、常連さんだ。


山小屋の出入り口ではオッサンの連れの女児が、所在なさげに立ち尽くしている。

銀髪ロングに緑瞳の美人な子で、ヌイグルミ代わりに剣を抱き抱えていた



「君も大変だな……」


「あら、老師のお弟子さんですわ。

 ごきげんようですわ」



なんか、ちょっと間違っている感じの貴族的ハイソなご挨拶してくる。



「ああ、うん……こんにちわ」


「………………」



緑の目で、じっと見られる。

うん、気まずい。



さらに、山小屋の中から、この子のオッサンから


『老師のような高名な剣士が、あのような才能の欠片もない凡骨ぼんこつに、いつまでも構っているとは!

 これは帝国、いや人類すべてに対する、大いなる損失です!

 もちろん、老後の手遊てあそびを否定する訳ではありませんが、それにしてもあんまりでしょう。

 後継を育てるおつもりなら、ぜひ一度だけでも、わたしのめいをみてください!

 あの子は、わが一門でも屈指の天才児なんですよ!

 あんな、どこの馬の骨かわからん少年とは、まるで比べ物になりません!』


とか、ちょこちょこ俺、貶さディスられてる。



「………………」


「………………」



なので、いよいよ気まずい。



(この子きっと、

 『うわコイツ才能ねーのかよ。馴れ合いたくないなあ、無視しておこう』

 とか思ってんだろうなぁ……)



幼少期の故郷の時から、『剣とかムダ』『役立たず』『チビ』『貧弱』とディスられっぱなし俺である。

若干だが、被害妄想っぽい思考になってきている。


── だから近い将来、この美人な女児さんが、まさかまさか妹弟子に収まるとか。

さらには、『お兄様、お兄様』言いながらカルガモのヒナみたいに俺について回るなんて、思ってもみなかった訳である。


人生、何が起こるか解りませんねぇ(しみじみ)。



まあ、この時の俺は、居たたまれず、なんかウロウロしてた。

風に飛ばされてきた木の葉を剣で切ったり、刈り残しの庭草を飛ぶ斬撃で斬ったり。


今思い出して考えれば、道草くってる男児そのものの行動。

男というヤツは、いつまでもガキなんだなあ、と感じ入ってしまう。



── あ、そういや、この時。



「……その剣、見せていただけません?」



とか、(未来の)妹弟子に言われたなあ。



「あ、うん。いいけど……」



愛剣を手渡すと、やけにしげしげ見られた。


ジジイからもらった、素振り用の鈍剣ナマクラだ。

刃引きの模造剣なので、お子様でもケガする心配のない、安心安全な訓練グッズである。


しかし、素振りの訓練グッズだけあって、重量は大人の使う刃渡り1m級の剣と同じくらい。

刃渡り40センチの<小剣ショート>のくせに、2kg強あるので、分厚く頑丈だ。


普通はこんなに短い剣・・・なんて使わないらしいし。

(まあ、俺の場合、チビだから仕方ないけど)



── そういう意味では、ちょっと珍しかったのだろう。



そんなこんなで、ヒマを潰していると、ジジイとオッサンが山小屋から出てきた。



「それと馴れ合うなと言っておいたはずだ! 無能がうつる!」



いや感染うつらねーよ!

オッサン、子ども相手なのに態度最悪だな!


俺は文句を言おうとする。

だが、その口を開く前に、ジジイに言いつけをもらう。



「ロック、今夜は客人が泊まっていく。

 少し食料が足りんので、調達してこい」


「はいはい、師匠。

 種類は何でもいい?」


「なるべく大物がよい」


「はいよ」



そんな訳で、俺はきっ腹のままなのに、そのまま狩り行かされた。

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