第2話  馬さんが師匠ですってぇ?

 この連中が雁くび揃えて考えたこと、それは町内で落語研究会を作ろうということでありました。言い出しべえがヤングさんこと床屋の佐川さん、直ちに同調したのが焼き鳥屋の大将広原さん。 そのことがすぐに町内中に知らされると俺も私もと、あっという間に十人以上の仲間が集まりました。

  

 いったい何故、落語研究会をということになったのでしょうか。

それにはちょいとした訳があったようでありまして。

馬さんこと藤戸さんの話す口調が、何だか噺家さんみたいだと囁かれておりまして、それが皆にはとても羨ましく思えることのようで。

 

 何といっても目立ちたがり屋で、その上めっぽうおだてに弱い馬さんのこと。皆によいしょで担ぎあげられまして、この研究会の師匠として迎えられることになりました。

 勿論、大喜びでございます。 「ええぇ、俺なんかでいいのぉ・・」なんて、いちおう白々しくも謙虚なところを見せる振りをして、内心わくわく眠れない夜を過ごしていました、ようですよ。


 この町には工場が沢山ありまして、昔から職人さん達のいきのいい話し言葉が町の中を飛び交っておりました。そんな中で学生時代に落研(落語研究会のことです)にいた馬さんは、時おり噺家さん達の使う符丁を交えて話して得意気になっておりました。

「するってぇと、ごちになれるってんですかい。残念ですなぁ、いえね、こちとらあいにく、今ちょいとわきでのせてきちまったもんですからね・・・」

 などと言って佐川さんの食事の誘いを断ったり致します。

一言「もう済んだから残念だったなぁ」で済むところを、ですよ。ですからこんな言い方をされたんでは、皆にとってはちょっぴり珍しい言い回しでありましょう。

その上やつは、ちょっと歯切れもいい方なので小粋な感じがしないでもない、らしいのです。


 で、皆のいいなぁっていう気持ちがちょいと分かると尚のこと、「扇子の事はかぜ、手拭いの事はまんだらといい、一二三・・は、へい、びき、やま・・などと数えるし、そんでもってね、あっしなんざぁ・・」 などと得意そうに話す、嫌味な馬さんなのでありました。







 

 



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