Plain

 同じ服、同じ髪型髪色、薄化粧、今日何人目のお客さんだっけ。


「ハイ、撮りますよー。いち、に、さん。」


 パシャリ、とシャッター音が鳴り、ストラボが眩い光を放ってすぐさま消える。

 

 写真屋さん―と言っても履歴書専門の写真屋だが、僕は、同じような写真を、お客さんの気が済むまで撮ってから、その写真を自然に見える程度に手を加えていく。


 だが決して、プリクラのようにならないようにしなくてはいけない。


 写真屋を初めてすぐのとき、お客さんの言う通りハイハイと写真を直したら、その後日就活に失敗したと目が飛び出んばかりの剣幕で店に言い寄ってきた人がいた。

 そのときの目は写真の目より随分小さく、知ってるお客さんだと気づくのに時間を有した。

 俺はただ、要望を全部聞き、その容貌に仕上げただけだ。

 目は出目金、顔はなすびになってる写真を見て、”イケてる”と満足気で店を去っていった姿を僕は鮮明に覚えていたが、そんなことを言っても仕方がない。

 平謝りと返金でとりあえずその場は収まり、どうにかなった。おかげで今日も自分の屋号を掲げることができている。


 今日はすでに7件の撮影を終えていた。

 これが8件目。

 下手な間違い探しよりもそっくりな写真を3枚並べて、お客さんに選んでもらう。

 今2連チャンで真中が選ばれているが、さてはて。

 

「じゃあ…真中で。」


 ビンゴだ。なぜか俺はほくそ笑んでいた。


「では、真ん中を使わせていただきます。肌加減など、どうなさいますか?」


 一応お客さんの要望を聞くのが習わしなのだ。


「そうですね、おまかせで…、でもちょっとでも賢く見えるようにお願いします。」


 そんなのできるわけねーだろと心の中で毒づきつつ、なんとかできないからお客はここに来ていて、それで自分が飯が食えていることを思い起こし、承知しました、と愛想よく返事をした。


 俺の仕事はわかりやすい。

 適齢期になったら、同じ手法でみんなが仕事を探すおかげで、この写真屋はとりあえず潰れる心配はない。今ではプリント機も主流になったが、うちは値段をプリント機と変わらない設定にしているからか、お客さんが多い。

 俺の店がつぶれるときは、仕事をしなくていい世界になったときかなあ、なんてぼんやり思う。


 仕事を探さなくてもいい世界なら、俺も仕事をしなくていいもんな。

 写真の修正の休憩時間、「はたらくクルマ」がプリントされたチョコビスケットと、ホットのアールグレイに牛乳を混ぜた自家製ミルクティーをすすりながら、空想する。

 お客さんの写真を撮る。

 写真を修整する。

 その繰り返し。

 安定した収入の中で、のんべんだらりと生きている己の姿。


 飴を口に放り込んで、作業に戻ることにした。


 大きなモニタに写真を並べる。

 黒いリクルートスーツを着た写真からは生気が感じられない。

 ハニワかこけしか、もう少しよく言って人形か、一言でいうなら個性がない。

 お客さんは、お勘定や写真の修正でコミュニケーションを取るときはきちんと血の通った人間なのにな。

 だけどもカメラを向けその瞬間を切り取ると、皆置物のようになってしまう。


 今日撮影した学生の写真をぼんやりと眺めていた。

 番号がないと何番目に撮影したものかわからない。

 長年この仕事を続けても、俺は何の変哲もない写真をつくっている。

 金太郎飴を切っていくようなものだ。

 味も見た目も同じ金太郎飴を俺は作り続ける。

 仕事というものがある限り。

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