マネキン
大学に入学して以降、他人を勝手に○○系と括るタイプの人種が存在することを知った。
彼らは、基本的に人を見た目や振舞いだけで判断をする傾向がある。あの子は地雷系、あの子は清楚系、このような具合に勝手に分類して頭の中でファイリングしていく。
2年になって専攻が一緒になった尾形エリカちゃんもその一人。
「サナちゃんは量産型だよね。特徴のなさすぎ。ミニマリスト系のインスタ見てそー。私、ああいうタイプの気持ちわからないんだよね。」
私は、イエスともノーとも取れない返事をして、別の話題に変えた。
講義が始まるまでの5分間って、どうしてこんなに長いんだろう。
はっきり言って、エリカちゃんの身の回りの話に私は全く興味を持てない。
他の同級生も同じようで、1年のときから彼女を知っている人は、愛想をするだけで、お話ができる”射程距離”には決して足を踏み入れない。
同じことを勉強したいから専攻が被ったはずなのに、なぜ面白い話し合いができないのだろう。
講義が始まっても、ずっとエリカちゃんの推しの先輩の話を聞くことになりそうだ。
「私、ちょっと昨日夜更かししちゃったから授業まで寝るね。」
どうでもいい話から解放された私は、目を開けながら顔を机に伏せた。
私も誰かに、量産型だとか好き勝手に言われているのだろうか。
量産型、それは大抵服装や振舞いで使われれる。
よく見る格好、というものはみんなどこで手に入れるのだろう。
マネキンの服を一式買っても、どこか主張の激しいことになるように私は思う。
マネキンはどこかのデザイナーか何かがモデル体型を意識して発注して、工場でそれが作られて、店頭に並び思い思いの格好をさせられる。
それはショップ店員の思惑とトレンドの境目を綱渡りしているようなものだ。
嫌悪感と理解不能がぐるぐると頭の中を回ってバターになって耳の中から漏れ出て、焦げたトーストよりも熱い鉄板に落ちる。
違う、バターになったのは回ったからではない、熱いからだ。
苦しい、脳みそが耳から垂れ流れている。
灼熱のベルトコンベヤーに乗せられながら、私は様々に加工されていく。
肌は滑らかに、四肢はしなやかに、適度に乳房がつけられる。
目鼻立ちは美術室の石膏のごとく、黄金比に近づくように。
熱い、顔が体が溶けてゆく。
―
エリカちゃんに肩をゆすられて、私はようやく眠りから覚めた。
「すごいうなされてたけど…、大丈夫?」
どうやら目を開けて伏せているつもりが、本当に眠りこけてしまい、西日の当たる講義室にただ1人取り残されていたらしい。
エリカちゃんが気にかけてくれて助かった。
「授業終わったのに、どうしてここにいるの?」
講義が終わってから30分以上経っていた。
冷房は切られ、日当りが良すぎるこの講義室は、サウナのようになっていた。
エリカちゃんは、さらりと、普通に日傘忘れたから、と答えた。
「𠮷永さんって、他人と距離取る系だから、私が来なかったら熱中症になってたかもね~。…あ、ごめん呑気なこと言って。私適当なタイプだから、気にしないで…!」
エリカちゃんも自分自身をタイプで括ることが意外だった。こういう人は、自分が類型化されることを極端に嫌うために、他人をラベル付けしているのだと考えていたからだ。
私も人を○○系で分類している。
簡単に他人を把握するために。
私も量産型。
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