第8話 生命属性~即死魔法~命の繭

第8話 生命属性~即死魔法~命の繭



 アルビスは三つ目の属性を感得した。それはクロノが、レベルⅢの精霊になったということだ。

 第三の属性は生命属性。

 回復属性ではなく生命属性。


 きっかけは無属性魔法の練習にあった。


「とりあえず、隠者の手でサイコキネシスみたいなのはできるわけだよね。

 あとバリアも張れるし」


 つまり魔力というエネルギーで発生する力場を制御する魔法、それが無属性魔法だと定義づける。

 自分でも理屈っぽいのは分かっているのだが、奇妙なものがあると調べて定義したくなるのは性分なのだ。


 なのでちょっと試してみたらバリアよろしく盾のように使うこともできたし、棒に薄く纏わせて刃物として使うこともできた。

 さらには自分からワイヤーのような力場を作りそれを伸ばしてロープアクションも可能だった。 

 こちらは完全な趣味。

 蜘蛛ヒーローみたいでかっこいいのだ。


 バリアに関してはもともと使えたので素養はもとからあったのだろう。


「あと、魔力制御の精度が格段に上がったよね」


 そう、これが原因。

 今まで自分を中心に10メートルぐらいが知覚範囲だった。その範囲ならかなり正確に、しかもタイムラグ無しで認識できる状態だった。

 その外側は精度が落ちるがなんとなく知覚できるうっすら知覚空間。


 これがエネルギー属性を獲得したことでパワーアップして50mほどが完全知覚範囲になった。

 その外側は精度は落ちるがかなり広範囲を探査できるようになった。


 そして逆の精度も上がった。近距離ならば精密探査もできるようになったのだ。

 つまりミクロの世界も見えるようになった。


 これが面白かった。


 意識を集中すると自前の顕微鏡状態だ。

 いろんなものを拡大してみていたある日、とんでもないものを見てしまったのだ。

 それは野菜についていた。

 小さい粒だった。

 そして生きていた。


 つまり虫の卵。


「あきゃーーーーーーっ」


 見た瞬間におぞけが走った。全力疾走だった。

 寄生虫なのかはたまた芋虫なのか、それはわからなかった。だが虫の卵。生きている卵。


「むりむりむりむりむりむりむりむりむ~?」


 洗われて皿に乗っていた野菜だからなお恐怖。

 昔は虫下しが欠かせなかったというのはこういうことかと理解した。してしまった。

 そして全力の拒絶。


 その瞬間、強烈な意志に突き動かされて魔力が動いた。

 それは虫の卵を排除しようというものすごく強靭な思念だった。


 黒い魔力が一瞬それを席巻した。

 その瞬間何かが変わった。


 目を凝らすとそれから生命の息吹が感じられなくなっていた。そう、それは即死魔法。生命の命を根こそぎ奪う魔法だった。


 だが形骸とはいえまだされは残っている。

 それに対する拒絶。


 次の瞬間それは風化し、罅割れ、崩れて拭い去れる。それは崩壊を導く魔法。

 くしてサラダから虫の卵は跡形もなく消し去られた。


 直後にバランスを崩してサラダボールをひっくり返したのはグッジョブ。

 お野菜はもう一度洗われることになった。


 その後、アルビスはクロノから。


『おめでとうであります。第三の属性、生命属性を取得したであります』


 と告げられたのだった。


◇・◇・◇・◇


 生命属性。回復属性ではなく生命属性である。


 じつの所、回復属性の魔法使いというのはいる。

 特に神殿とかの宗教勢力に多いのだ。

 年がら年中回復を使っているうちに回復魔法を使える属性の精霊が生まれたりするわけだ。


 だがそれは回復属性と呼ばれるものだ。


『回復属性というのは生命属性の一面なのであります。

 死滅属性というのは隠された裏属性で、この属性の魔法を発動させることができないと回復魔法は完全なものにはならないであります』


 とクロノは説明する。

 回復属性を取得するとその人は回復魔法が使えるようになる。

 ヒールとかそんなのだ。


 だが回復を極めるには死も感得しないといけない。

 隠し属性無しでは魔法の効果も限定的になってしまう。

 アルビスが裏属性を獲得したのは偶然だったが結果オーライではあるのだ。


 ちなみに使える権能も違う。


『回復属性の権能は『生命のエリクサー』というものであります。すさまじい回復能力のある霊薬を作る権能でありますよ』


 それはそれですごいような気がする。


『生命属性の権能は『生命の繭』と呼ばれるものであります』


 名前を聞いた瞬間基本情報が浮かんでくる。

 繭のようなもので包まれた対象をいやすこと。それがその権能の力。


 浮かんでくるイメージでは部位欠損も治せる感じだ。


「文字通り繭なんだね」


 アルビスは昆虫の変態を思い出した。なんで変態と変態は同じ字を書くのだろう。

 分からないがここで言う変態は『紳士』のことではなく昆虫が繭や蛹で姿を変える現象のことだ。


 これはすごいもので、幼虫の時に体の半分を失っていても繭から出ると完全に五体満足で生まれてくる。

 それが昆虫の力。


 アルビスは【生命の繭】をそういうものだと理解した。


「案外繭の中でドロドロに溶けて…いやいや、ダメっしょ。それは考えちゃダメっしょ」


 さすがにそれはちょっと怖いかな。

 だがアルビスはこうしてまた新しい力を手に入れた。

 趣味に邁進している感があって楽しい。


 思わず『にゅふふっ』と笑ってしまう。

 すると屋敷の女性たちが『かわいーーっ』と言ってほっぺをつつきに来る。

 モテる男はつらいのである。


『さて、いきなり二つ属性が増えたでありますから他の権能の使い方も説明するでありますよ』


「他の権能ですか? 他にもあるですか?」


『あるであります、権能には属性ごとの権能と、精霊レベルごとの権能があるであります』


 ほほう、それはすごい。


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