第6話 冬の日~魔法修業~魔力修業
第1章 第6話 冬の日~魔法修業~魔力修業
「はい、そうよ、上手。魔法はイメージだからね、よく見てイメージを掴むのが大事なの。
よし、せっかくだからドコドコやっちゃえ」
言われた子供が雪の壁に手を突っ込んでその冷たさを実感している。
アルビスはもこもこに着ぶくれて、家の縁側で庭の風景を見ていた。
そう、この庭ではいま、村の子供達の魔法訓練が行われているのだ。
と言っても教えているのはベアトリスで、聞いているのは5人ほどだ。
この村は小さい村なので、子供はこのぐらいしかいない。
その子供たちに生活魔法を使えるようにと訓練中なのである。
生活魔法の人気は水を作れる水魔法。火をつけられる火魔法だ。
魔力で作った水はすぐに魔力になって消えてしまうのに、生活魔法の水は少量である為か消えずに水として残る。
飲み水が作れて火を起こせればとても便利なのである。
なのでベアトリスは村の子供たちにこの二つは習得させる方針なのである。
この子供たちの中に才能のある子どもがいればいつか魔力を感得し、精霊を得て、一人前の魔法士になるものが出るかもしれない。
が、今はまだ生活魔法。
でもなかなか訓練方法が渋い。
ちなみに今は二月。
この地方は雪の深い豪雪地帯で、この時期は村中雪だらけ。領主館の庭を雪かきしてそこで魔法教室である。
(出産して大して時間もたっていないのによくやるなあ…)
なんてアルビスは思う。あとでハイ・ヒーリングをかけてあげようとかも思う。
さて、このクソ寒い時期になんで外で魔法訓練なんかやっているかというとイメージのためだ。
魔法はイメージ。
イメージには本物を知ることが大事。
世間一般でそうなっている。それは間違っていないのだが…
イメージを明確にするには本物に触れるのが一番良い訓練だ。というのが常識としてあって、そして雪国であるこの地方では雪や氷に触れることができる機会が冬にはいっぱいあって、そしてその冷たさを実感し、イメージするにはやはり現物がいいということになる。
アルビスの水のイメージというのは酸素1個、水素2個、分子模型がこんな形。というものだがこの世界にはそういう知識はない。
ないのでイメージを作るのには実際に水を傍らに置いて、それに触れ、時に浴びたりするのが良い、とされる。
氷や雪も同じ。それも水の一部とみなされていて、水を感得するうえで重要なファクターである。と考えられている。
実際に触れてその冷たさ、寒さを実感すれば魔法もいい感じになると信じられているのだ。まあ、実際その通りの効果はあったりする。
イメージが大事な世界において砂漠の人間に雪の恐ろしさは理解できない。というのは当然の事。
この時期に雪や氷を身近に感じるのは水魔法にとって、とても大事なこととされているのだ。
というわけで子供たちは雪の中薄着で頑張っているわけだよ。
やっぱりあいつらにも後でハイ・ヒーリングをかけてやろうと思うアルビスだったりする。
ただやっぱりその修業方法はアルビスにとっては吃驚ものだ。
『この世界はみんなあんな感じでありますよ、火属性の魔法なんてわざわざ火傷したりするでありますよ』
焚火に手を突っ込んだり、土に埋まってみたり、暴風の中裸でかけまわったり。そんな感じ。
大変だなあ…
「アル様、寒いですね、お部屋はいりましょう?」
メイドの人が聞いてくる。
一番若い12歳の女の子だ。名前はエミルちゃん。
(あー、興味深いけど、ちいさい女の子を外に付き合わせるのはかわいそうだよね)
アルビスはコクリと頷いた。何度も言うがこいつは二歳児。
部屋の中は意外と明るい。
この世界は化学がない代わりに魔法があり、魔道具がある。
照明などは普及している魔道具だ。
上水は井戸だが魔力で動くポンプがあって、水くみはかなり楽。ただ水道はない。
竈は薪だが場所によっては火力調整の魔道具が付いていて、火力なんかは安定している。これは料理を作るうえで大事なのだ。
半面自動車のようなものはほとんどなく、魔法文明は大規模なエネルギーを使って巨大な仕事をするのには向いていないのではないかとアルビスは考える。
科学の代わりに魔法で文明は進歩しつつあるが大規模には向かないので産業革命はなし。そんなところだろう。
機械類は消耗品ではなく工芸品なのだ。
アルビスは暖炉のある部屋に運び込まれた。
節約のために暖炉の部屋でみんなが過ごす感じになる。
双子もここにベビーベッドを設置してここで寝ている。
常に人がいる。
母親が床についている時は寝室で過ごしていたのだが、母親が元気に動けると分かると節約のために使う部屋が限定されてしまったのだ。
(困ったものだ)
である。
「さあ、アル様。お昼寝しましょうね~」
エミルがアルを寝床に横たえ、おなかをポンポンしながら小さく子守唄を歌う。
アルはとろーんとして眠くなって…きたようなふりをして魔力訓練を始めた。
じつは昔からやってはいたのだ。
(魔力ってぎりぎりまで使えば増えるよね)
とか言って。
当時は使えるのがバリアだけだったので、まあ、あれは見た目じゃわからんし、使いまくって魔力を消費した。
結果魔力量は育ち、それだけではないのだが精霊がやってくるまでに成長した。と思われる。しかし…
『ダメダメであります。それは良くない訓練法であります。下手をすると命に係わるであります』
試しにとその話をしたらクロノにひどくダメ出しをされた。
それもそのはずクロノが言うには魔力も筋肉と同じなのだそうだ。
イジメればそれに負けじと成長する。
だが加減は必要だ。
筋肉もいじめ過ぎれば故障につながる。
ひどいときは戻らなくなる。
魔力の訓練も同じことだった。
魔力回復不全症とか、再生不良性貧魔力とか、魔力漏洩症とかいろいろ危ない病気もあったりする。
(やべー、ラノベと違うじゃん、当たり前か、現実だし…)
とか思って肝を冷やした。うん、とっても冷えておもらしするぐらいね。まだオムツでよかったね。
『魔力を鍛えるには無理の無い負荷と栄養補給と休養が必要であります。負荷をかける方法は良いとして、栄養補給と休養(調整)を教えるであります』
ということで寝たふりしながら訓練する。
まずは栄養補給と栄養をいきわたらせること。
これはマナのこと。
『呼吸はゆっくりと規則正しく、そして吸うときよりも吐くときを長くするであります。それによって世界に満ちるマナを取り込むであります』
この世界はマナという力が満ちている。万物の根源。あらゆる力の源泉。魔力の素だ。
だがマナはそのままでは活用できない、言ってみればそれは世界の生命力なのだ。
『マナというのは世界に満ちる力であります。この世界に存在するものはすべてマナを呼吸しているでありますよ。
生き物はもちろん、石や砂もであります。
マナはすべての存在の中を循環している力であります。
しかし生き物は呼吸という形でマナを取り入れるので有利なのであります。
息を吸えばマナは体に染み入るであります。そして魔力となるであります。吐くときには古い魔力が吐き出され、それは分解されてマナに戻るであります』
(ほへー、ほんとに空気みたいだね)
『ただ、このままではのんべんだらりとマナが出入りしているだけであります。せっかく魔力という形に変換されるのでありますから、これを正しく活用するであります。
魔力なので意志の力で動かせるであります』
そう、これが魔力とマナの決定的な違い。
『まず自分の胸の中心に柔らかい光の玉をイメージするであります、魔力の玉であります』
『これは息を吸うと明るく膨らみ、吐くときに圧縮されて強くなるであります』
とクロノは簡単に言うがこれは魔力を動かせること、魔力と感応できることが前提の話なのだ。アルビスは生後間もないときにバリアという形で魔法を発動させ、その時に魔力とのパスが確立している。
これが魔法の才能と呼ばれるものだ。
『そこから全身に魔力が送られていくであります。血液の流れをイメージするであります。
頭、手、足、その先まで魔力が流れ、ポカポカしてくるであります』
うん、なんかそんなような気がしてきた。
『今はイメージでなんとなく魔力が流れているであります。ですがこれを続けるうちに自然と魔力の流れる経脈が確立するであります。
経脈が確立されると魔力がいつでも自然と全身に流れるようになるであります。魔力量も増えるであります。鍛えられて魔力強度も上がるであります。
なので魔力の流れるラインのイメージはとっても大事であります。血管のイメージがいいであります』
『あとは筋肉と同じで、時間をかけて、じっくりと、そして一生かけて鍛えていくであります。
魔力は裏切らないであります』
どっかで聞いたようなセリフだが、たとえて言えば水道管のようなものだと思えばいい。
人体を町に例えていうと、魔力の経路とは水道管のような物だ。隅々まで張り巡らせれば管の総延長は長くなり、それに比して水道管の中をめぐる水量も多くなる。
良い管を使えば(訓練で鍛えれば)管は丈夫になり、圧力に強くなり、それは魔力の質の向上につながる。
澱むことなく隅々まで水道管が張り巡らされた町は住みやすいいい町なのだ。
『あとポイントとして魔力点を意識するといいであります。魔力を行使するうえで重要となるポイントであります。
まず頭のてっぺん。額の真ん中。喉。胸の中央。みぞおち。丹田。会陰であります』
言いながらクロノが場所を指し示してくれる。いやん。
(あっ、これ知ってる)
アルビスは気が付いた。
そう、これはチャクラのあるとされる位置だ。
『まずは魔力の流れを作るのが先であります。ですがこの七つのポイントはとても重要なので最初から意識しておく方がいいであります。
そうすれば魔力の流れが安定したときに役に立つでありますよ』
(なるほど)
とアルビスは思う。
これは地球で重要とされているものが、この世界でも重要だということであり、どうつながるのかわからないし、地球には魔法もなかったのだけど、人間としての本質は変わらないのだという、その証であった。
アルビスはほっこりした気分で横になったまま魔力修業をしつつ、しかしいつしか眠ってしまいましたとさ。
まだ二歳児だからね。
□ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □
アルビス2歳5か月。
双子2か月。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます