第47話 竜を論破して力をゲットします

世界の命運を左右するヴェレスの問いかけを──、






「いやだ!」

「ちょ……」


 あっさりと断った。

 ヴェレスは玉座から転げ落ち、床に頭をぶつける。


「も、もうちょっと悩んでもいいじゃないか!我も思わずずっこけちゃったよ!1000年の威厳が台無しだよっ!」

「お断りします!」

「絶大な力をこの手に出来るんだよ!?その力で第二次ヴラス帝国も──」

「絶大な力は貸してもらう。だが、その条件は飲めないな」

「そんなご都合主義な……理由を話してくれ!じゃないと納得できないよっ!」

「簡単なことだ」


 俺は竜が作り出した精神世界の品々──色とりどりの絵や財宝を指さして指摘する。

 彼が生前に手に入れたものを持ち込んだのだろう。

 よく見るとワインや食料のようなものもあり、日ごろは割と快適に過ごしているらしい。


「そもそも、『永遠の眠り』とか偉そうに言ってるが、自分が一番現世に未練たらたらじゃないか」

「ぎくっ……」

「とっくに亡くなってるのにも関わらず、人間に憑依して、豪華な精神世界の中で平穏に暮らしている。そもそも本気で『竜の遺骸』を潰したいなら、ヴォロディ家の誰かを無理やり洗脳でもしてやらせればよかった。違うか?」

「ぎくぎくぎくっ……」

「竜が滅んだのは凶暴な身内同士殺し合って繁殖不可能なほど数を減らしたからだし、同胞に対する愛情も本当は薄い。つまり……『永遠の眠り』は自分が未練がましく生きていることを誤魔化すための後付けだ!」

「がぁぁぁぁぁん……」


 論破されたヴェレスは床に転がりながらガックリと頭を垂れた。



 ****



 ここからは作中の話。

 

 レゼン・ヴォロディ戦後、ヴェレスは無事天国に……行かなかった。

 負けイベント『キーウィ防衛戦』から始まる第2部の終盤、とある条件を満たすと挑戦できるクエスト『謎の喋る鳥』にて、1匹の鳥に憑依していたことが判明する。


 なんだかんだ死ぬのが怖かったらしい。


 鳥になったヴェレスを問い詰めると、辿々しい口調で真実を話し始めた。


 ──本当はその……『永遠の眠り』の話を聞いて我に絶大な力があると知ったレゼンに寝込みを襲われちゃってねぇ……『ヴェレスの間』にあったAランク武器『竜殺しの剣』を奪われて脅されたんだよ……死にたくなければもっと力を寄越せってさぁ……寝込みを襲うなんてひどいよね!ねっ!?


 この小物ぶりである。


 レゼン死亡後に語ったことも、プライドの高い竜が失態を隠すためのホラ。

 原作のレゼンには本気で『永遠の眠り』を果たすつもりがないと看破されており、こう煽られたらしい。


 ──まどろっこしいことをしなくても、この世界をまるごと滅ぼして『永遠の眠り』をもたらせばいいよなぁ?


 彼が何故そこまで世界を憎んだか作中で明確にされなかったが、はた迷惑な話である。


 ちなみに、人間ですらない鳥に憑依したヴェレスの魔力は弱体化しており、ゲーム中で新たな契約をかわすことも、他の対象に再度憑依することもできない。

 ゲーム内のペトロはいらだちと失望を覚えながらヴェレスを逃がし、クエストは終了する。


 

 ****



「……ったく、俺が本気で世界の敵になると言ったらどうするつもりだったんだ?」

「力はどのみちは貸すつもりだったんだ。ただ、『ヒューマンジー』を倒した後は都合よく君の記憶を操作しようかなーって……ほら、竜って威厳が大事だから!建前だけでもかっこよくしなきゃって本能が働くんだ!」

「威厳はもう吹っ飛んだぞ」

「……はい」


 虚飾を暴かれたヴェレスと本音ベースで話し合うことにする。

 ヴェレスは先ほどのような威厳をなくし、気弱な女性となっていた。


「本当はねぇ、たまたま竜に生まれたってだけで争うことは好きじゃないんだ。人間も、獣人も、力を持った者はなんで凶暴なんだろうね……」

「最初から鳥に憑依して平穏にくらせば良かったのでは?」

「それだと、『竜の遺骸』がこの王国に放たれた時が怖くってねぇ。あいつら、生物兵器にされてもまだまだ暴れ足りないらしいんだ。なんだかんだ生まれ故郷であるスラヴァの地を我は気に入っているから、あいつらにここを荒らされるのだけは止めたい」

「それが、いまだこの世界にとどまる未練の正体か。だからヴォロディ家の男と代々契約を結んでいた。消極的ではあるが、俺と利害が一致する」


 俺はヴェレスに手を差し伸べた。

 そろそろこの直談判を終わらせよう。

 ミラが助けを待ってる。


「俺に力を貸せ始祖竜。スラヴァの地と第二次ヴラス帝国の魔の手から『竜の遺骸』から守ってやる。昔のレゼンのように何もかもを滅ぼしたりはしない。ただ、この国を侵略しようとするやつにはそれ相応の対価を支払わせる。いわゆる専守防衛ってやつだ。ハルマゲドンはごめんだからな」

「……なぜそこまでするのかい?」

「決まってるだろ」


 悪役顔で伝わっているかは分からないが、俺はにっこりと笑った。


「ハッピーエンドのためだ」


 それを見たヴェレスは口角をわずかに釣り上げる。


「……まずは血統継承度10%からだ。急激な強化は寿命を縮めるからね。『ヒューマンジー』を倒すには十分だろう。彼女に対する情報も授けておく」


 互いに手のひらを差出し、ぴたりと合わせた。

 ヴェレスの手のひらは暖かい。

 急速に力が流れ込んでいくのを感じる。




「本当に強い存在というのは、君のような人間なのかもしれないね……」


 再び意識が暗転し、俺の精神は『ヴェレスの間』を離れていった。


 

 ****


 

 ミラside


「ミラは……慈悲は乞いません!」


 全身を震わせながら、ミラは『ヒューマンジー』に向けて叫びました。


 本当は泣きだしそうになるぐらい怖いです。

 でも、命乞いするのは絶対嫌でした。


 お父さんやレゼンさんに失望されるような存在に、なりたくなかったから。

 

「なんじゃと?お前、父親に似て強情じゃのう。ならば、生まれたことを後悔するまでいたぶってやる!」


 ペトロさんを飲み込んだ『ヒューマンジー』の触手がこちらに迫ります。


「……っ!」


 恐怖のあまり目を閉じた時──、






「待たせたな、ミラ」


 優しい声が、ミラの耳に飛び込んできました。

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