第46話 新主人公が直談判するようです
「『
自分に向けて無属性魔法を放とうとした時、それは起こった。
──アビリティ強制停止。
──『ヴェレスの間』への転移開始。
全身から力が抜け、視界が暗転する。
意識を失ってはいない。
魂が体の中から抜け出して、どこか別の場所へ向かうような、はるか上へと昇っていくような感覚。
このまま天国へと行くのだろうか。
漠然とした不安を感じ始めた時──、
「参ったねぇ。まさか自殺を図って我を呼び出そうとするなんて。まぁ、仕方ない。レゼン・ヴォロディは我が憑依できるヴォロディ一族の最後の1人。君が死んだら、我は現世に干渉できなくなる。考えたねぇ」
真っ白な大理石に覆われた部屋にいた。
壁面に色とりどりの絵や財宝が飾られた、貴族の応接間のような部屋。
奥には金細工の施された玉座が据えられている。
玉座には、床まで届く真っ白な髪が特徴的な、20代ぐらいの女性が腰を落ち着かせていた。
整いすぎて彫刻か絵画と見間違うほどの端正な顔つき。
エメラルドの瞳には知性と威厳が感じられ、自然とひざまづいてしまいそうな神秘性があった。
「以前のレゼン・ヴォロディとは別人‥‥‥いや、魂ごと入れ替わっているのか?面白い。1000年生きてきたけど、こんなことは初めてだよ」
男性のごとく引き締まった肢体をゆったりとした白い布で覆い、愉快そうな笑みを浮かべている。
「あんたがヴェレスか?」
「ああ」
ヴェレスは自分の名前をあっさりと認め、自己紹介を始めた。
「我はスラヴァ王国原初にして最初の竜、始祖竜ヴェレスだ。もっとも、肉体はとうに滅びてるけどね」
このゲームにおいて竜は滅びた設定だが、魂までは滅びていなかった。
ここは、レゼン・ヴォロディの肉体に憑依したヴェレスが作り上げた精神世界である。
****
──限界だと……?まだだ、まだ、『永遠の眠り』、を……俺は、人間を、世界を滅ぼすまでは……!
『始祖竜』と呼ばれるヴェレスは本来、レゼン・ヴォロディ戦で勝利したプレイヤーの前に現れるキャラクターだ。
レゼンの竜の力、すなわち『竜の血脈』は本来ヴェレスのもの。
死してなお魂を現世に留めるヴェレスが、自らと契約したヴォロディ家の長男に代々憑依することで行使できる。
──ペトロくん、だっけ。すまないねぇ。世界中に囚われた『竜の遺骸』を解放する条件でレゼンに力を貸したけど、やはり邪悪な心を持っていたようだ。
ヴェレスは意識を失い崩れ落ちるレゼンの肉体から抜け出し、主人公勢に自らの目的を語りかける。
それは、亡き後も世界中で兵器として使われる『竜の遺骸』の解放。
──第二次ヴラス帝国以外の国も、世界を1体で破滅させられる『竜の遺骸』を数千体保有し、兵器としてこき使っている。いつ始まるかもわからないハルマゲドンのためにね。同胞のそんな姿を見るのは、気分が悪いだろ?
『竜の遺骸』を全て破壊し、中で眠る竜の魂を解放して天国へと導く『永遠の眠り』の実現だ。
だが、ゲーム内でそれが叶うことはない。
──やっぱり、『永遠の眠り』は実現できないだろうねぇ。今日でヴォロディ一族の男子も全滅したし、契約も解除だ。せめてハルマゲドンが来ないよう、天国で祈りを捧げるとしよう。
力を使い果たして亡くなったレゼンの肉体と悲観的な言葉を残してヴェレスは去っていき、竜の力を巡る騒動はひと段落する。
その直後、第二次ヴラス帝国軍による『キーウィ攻防戦』が幕を開けるのだ。
「で、君は我を強制的に呼び出して何がしたいのかな?」
ゲームの展開を思い出してると、ヴェレスに声をかけられる。
「簡単なことだ」
俺は淡々と言葉を返す。
「俺に力を貸してくれ、ヴェレス。『竜の遺骸』の1匹『ヒューマンジー』が目覚めた。そいつを倒すために、あんたの力がいる。『永遠の眠り』、つまり『竜の遺骸』の消滅を望むあんたにとっても悪い話ではないはずだ」
『竜の血脈』を強化するには、強き者を倒すか、竜と新たな契約を結ぶしかない。
ゲーム中のレゼンが『竜の血脈』を1時間近く行使できたのは、ヴェレスと新たな契約を結んだからだろう。
だから、俺も新たな契約を結べばいい。
「ふむ。『ヒューマンジー』ねぇ。あいつと直接面識はないが、我より俗世への未練が強い小物。確かに、あいつに暴れられると厄介だなぁ」
「ならば……」
「まあまあ落ち着いて。まだ現実世界じゃ1秒も経過しちゃいないさ。さて、我の力を借りたいなら1つだけ条件がある。以前の君は心に闇を抱えていて信用ならなかったが、今の君には頼めそうだ」
ヴェレスの眼が怪しく光る。
「我の願いである『永遠の眠り』に協力し、世界中に封印された『竜の遺骸』の破壊に協力する。すなわち……『竜の遺骸』がもたらす恐怖を前提に作られた世界の、敵になることだ」
スラヴァ王国だけでなく、世界の命運を握る重大な問いかけであった。
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