第45話 元主人公の最期
ミラside
「う、嘘だ……!僕がスキルを持ってない能なしだなんて……!嘘だそんなことおおおおっ!」
「ならば使ってみるが良い。武器がなくてもアビリティを発現することは可能だ。才能があれば、だが」
「そ、そんなはずは……『
ペトロさんは掌をかざし、『ヒューマンジー』に対しアビリティを行使しましたが、何も発現しませんでした。
体内に魔力が流れている気配が全くありません。
おそらく事実なのでしょう。
……皮肉としか言いようがありません。
──獣人は変異しかできない出来損ないだ!人間だけがこの王国を救える!無能女は出ていけ!
入学初日からミラを散々いじめてきた銀髪の少年。
獣人嫌いのペトロさんに、スキルの才能が全くなかったなんて……
「お、お願いだ!言うことをなんでも聞く!だから殺さないでくれ!」
「おやおや、人間のオスも大したことないのぉ。わらわは今からスラヴァ王国を滅ぼすのじゃぞ?」
「そんなの命があってこそだ!生き残れるならなんだっていい!」
かつて世界を破壊し、世界中の人間に恐れられる竜。
竜を前にしたペトロさんは心が折れ、『ヒューマンジー』に土下座しました。
この王国を救うと意気込んでいた入学当初の姿はどこにもありません。
まさに堕ちた英雄でした。
「待ってくださいペトロさん!」
『石の棺』の中に入り、2人の前に姿を現します。
今ならまだ間に合うかもしれない。
「な!ミラ・クリスがなんでこんなところに!」
「わらわが連れてきたのじゃ。そいつには用があるからのぉ」
「竜は危険です!彼女の言うことを聞けばきっと災いに巻き込まれます。今からでもレゼンさんのところへ逃げて……」
「うるさぁあああああい!レゼンレゼンレゼンレゼン!あの悪役顔のクソ野郎の何がいんだ!こうなったら、竜と手を組んであいつを殺してやる!そして、僕と竜でこの王国を支配するんだぁあああああっ!」
「なんてことを……!」
命がけの最後の警告も、ペトロさんには意味がありません。
怒りで顔を歪ませた青年は竜にひざまづき、媚びた笑顔を浮かべます。
「ぼ、僕を使ってくれ『ヒューマンジー』!『セマルグルの杖』さえあれば僕はアビリティを使えるんだ!そうすれば、きっとあなたの役に立てる!僕と2人でこの世界の支配者になろう!」
「……そのためにはなんでもするか?」
「ああ!殺されないならなんでもする!靴も舐めるぞ!犬の真似だってできる!ワンワンワン!」
「アッハハハ!面白い忠犬じゃのう」
「面白いだろ?手始めにあの獣人を殺そう!な、楽しいだろ?」
必死に命乞いをするペトロさんの姿を見て、『ヒューマンジー』はニヤリと笑いました。
「そこまで頼むならいいだろう。殺さずにわらわの力になってもらう!」
女に変異した竜の体内から触手が伸び、ペトロさんの全身に巻き付きます。
「な……!?約束が違うぞ!!」
「嘘ではない。わらわの肉体は復活したばかりで多少傷んでいての……貴様には肉体の一部として生まれ変わってほしいのじゃ。もちろん、ちゃーんと肉体の中で貴様の肉は新鮮さを保って生き続けるぞ?」
「ひいっ!や、やめてくれ……!ミラ・クリス助けてええええええっ!」
哀願も虚しく、ペトロさんの体は『ヒューマンジー』の肉体へと吸い込まれ、徐々に姿を消していきます。
「あひょおおおおおおおおおおおおおおおおっ……!」
そして、あっという間にいなくなりました。
「次はお前だ。ミラ・クリス」
立ち尽くす私の前に、『ヒューマンジー』立ち塞がります。
「言わずとも匂いでわかる。お前は、わらわを封印した獣人の娘じゃ。慈悲を乞えば楽に殺してやるが、どうする?」
****
「これが『
俺は目に見えない壁が張り巡らされたエリアにたどり着いた。
自分でも発動した『
確かに今のままでは突破が難しいかもしれない。
俺は竜の血が少しだけ混ざった人間、『竜の遺骸』と本気で渡り合えば部が悪いかもしれない。
今のまま、ならば。
「……ナビ。俺は少し賭けに出るぞ」
俺は『ペルーン』を取り出し、目標に突きつける。
少し分の悪い賭けかもしれない。
でも、ミラやみんなを助けられないんじゃ、この世界に転生した意味なんてない。
覚悟はできてる。
「『
俺は軍人の銃にアビリティ発動を命じた。
殲滅対象は──、
俺自身。
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