第44話 元主人公が衝撃の真実を突き付けられます

「『石の棺』に封じられた『竜の遺骸』が目覚めた‥‥‥‥?」


 俺は突如起こった事態の原因をそのように分析した。

 ヒントがないわけではない。


 特別クエスト『キーウィ防衛戦』の結末の1つに、第二次ヴラス帝国軍が『石の棺』の封印を解くバッドエンドルート738『竜の怒り』が存在するからだ。


 ──『キーウィ防衛線』で思わぬ苦戦を強いられたヴラス帝国軍は、『腐素』をばらまく『石の棺』を占拠してスラヴァ王国に揺さぶりをかける。


 ──しかし、その過程で『石の棺』に封印されていた『竜の遺骸』が復活してしまい、暴走してしまう。


 ──復活した『竜の遺骸』はヴラス帝国軍ごと王国全土を汚染し、世界は再び竜の恐怖に苛まれるのであった‥‥‥


 だが、このイベントが発生するのは早くても来年のはず。

 

 俺の行動によってシナリオが変わったからか?

 とにかくこの場にいるみんなを避難させないと──、


「ほあぁああああああはあああああっ!?」


 今後とるべき行動を必死に考えていると、素っ頓狂な声が聞こえて来る。

 すぐそばにいたはずのペトロの悲鳴だ。


 振り返ってみると、爆発があった方面から伸びてきた灰色の触手に、ペトロの全身が絡め取られていく。

 『セマルグルの杖』も一緒だ。


「おたっ、たっ、ぱっ、おたすけえええええええええええっ!レゼンさま助けてえぇぇええええええっ‥‥‥!」


 触手は止める間もなく元主人公を連れ去り、あっという間に姿を消した。

 間髪を入れず、別の人間の悲鳴も聞こえてくる。


「レゼンさんっ!」


 ミラだ。

 ペトロと同じく、全身を触手で拘束されて身動きが取れないようだ。

 

「ミラ!」

「お逃げくださいレゼンさん!この触手は普通じゃ‥‥‥ああっ!」


 触手がミラの全身を絞り上げ、悲鳴を上げさせる。


 俺は頭に血が上った。

 ペトロは触手で粉微塵にされようと構わないが、ミラを傷つけるやつは許せない。


「『殲滅アナイアレイション』!」


 『ペルーン』の引き金に手をかけ、無属性魔法を発動させる。


 ====================


 殲滅対象:ミラを傷つけるもの

 射程:全て

 使用後の魔力残量:温存する必要なし

 備考:ミラを保護しつつ敵を必ず抹殺する


====================

 

 銃口から膨大なエネルギーが放出。

 この武器を手に入れてはじめての全力全開。


 あらゆるものを消滅させる魔力が触手に伸びて──、




 命中する寸前で弾かれた。

 ミラにも触手にも傷ひとつついてない。


 驚く間も無く触手はスピードをあげ、森の奥へと姿を消す。


 逃すか。


 全力で追いかけようとするも、脳内に響く声に足を止められる。

 久々に聞く声だ。


 ──お待ちくださいレゼンさま。

 ──ナビか。後にしろ。今はお前を相手している暇はない。

 ──お気持ちはわかりますが、それ以上接近できません。


 殺気を込めた声に脅されても、ナビは怯まなかった。


 ──その先に『竜の遺骸』による『無効インバリッド』の結界が展開が張り巡らせています。突破は不可能です。



 ****



 side:ミラ


「ここは‥‥‥?」


 意識を取り戻した時、ミラは自分がどこにいるかすぐに気づきました。

 

 廃墟となった家々。

 赤くなった土。

 大地に降り注ぐ白い灰。

 うなり声をあげて徘徊する『腐染獣』。


 そして、街の中心にそびえ立つ四角形の白い石壁『石の棺』。

 『エーテル計画』の拠点となった街リビチョブです。

  

 10年前に離れなければならなかった故郷。

 お父さんが命がけで『竜の遺骸』を封印した場所。


 歳月の経過で汚染度は下がったとはいえ、長時間滞在するのは危険です。


「『石の棺』に、穴が空いてる‥‥‥!?」


 感傷にひたる間も無く、ミラは異常事態に気づきました。


 『石の棺』に大穴が空いていたのです。


 このままでは『腐素』が外部に流出するでしょう。

 また、内部に封印された『竜の遺骸』が目覚めれば、王国の滅亡は免れません。


 早く誰かに知らせないと。


「あひゃぁぁぁ!?くくく来るなぁぁぁぁぁぁっ!命だけは、命だけはお助けくだされえええええっ!!!」


 聞き覚えのある人間の声がミラの足を止めます。

 大穴の空いた『石の棺』の内部からです。


 恐る恐る内部を覗き込んでみると──、




 1匹のモンスターがペトロさんを追い詰めていました。


 全身から強烈な異臭を漂わせる、鱗に覆われ腐敗した巨体。

 怒りで血走った真紅の眼。

 片方が欠けた細長い翼。

 蛇のように枝分かれした舌。




 間違いありません。

 お父さんが封印した『ヒューマンジー』です。


「『四重奏カルテット』!『四重奏カルテット』!ななななんで効かない!?『四重奏カルテット』!!!」


 ペトロさんは半狂乱でアビリティを放ちますが、『ヒューマンジー』にはまるで効果がなく、醜い竜はズシン、ズシンと音を立てて前進します。


「あっ‥‥‥」


 そして、口から太い触手を伸ばしてペトロさんの手から『セマルグルの杖』を奪い、ゴクリと飲み込んでしまいました。


「ヴォォォォオオオオオ‥‥‥!」


 ひときわ大きな叫び声をあげた『ヒューマンジー』は、体を黒いオーラで包み込んで姿を消し──、




「フフフフフフ‥‥‥!流石は竜の骨を素材に作られた『セマルグルの杖』。傷ついたわらわの全身によく馴染むのぉ」


 黒い服に包まれた長身の女性に変異しました。

 おそらく『ヒューマンジー』の人間態。

 ぞっとするほどの美貌を持っていますが、怒りに満ちた赤い目は竜と同じです。


「り、竜の骨、だと?」

「なんだ知らないのか?愚かで、哀れで、心の汚れた無能なるオスよ」


『ヒューマンジー』の言葉にペトロさんが動揺します。


「この杖は、竜の骨に流れる魔力を転用した武器。体に魔力を帯びていなくても、『万能魔力』のユニークスキルを授かる希少な杖じゃ」

「え?それって‥‥‥」

「本当に何も知らないのか!フフフフフフ、哀れなオスよ」


 『ヒューマンジー』は心底人を馬鹿にしたような笑顔を浮かべました。






「ペトロ・オレクシー。お前にはスキルの才能は一欠片もない」


 

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