第41話 動くときは一瞬(前編)

「これより、『決闘の掟』に基づいた正々堂々たる勝負を開催する!見届け人は、マリア・シェレスト含む教師陣5名!」


 訓練に明け暮れた数日間が終わり、俺とペトロが決着をつける時がやってくる。

 場所はリビチョブ隔離地域の程近くにある名もなき平原と森。


 ここでとある特殊ルールのもとスコアを競い合い、勝った方が学校の将来を左右する。


「レゼンさま、頑張って〜〜〜!」

「ペトロをぶっ倒したら祝杯をあげようぜ!」

「レゼン師匠が勝ちますように……」

「……ロジーナを泣かせたら承知しないんだから」


 学校復活以来の大事件とあって、生徒や教師が多数観戦に訪れていた。


 レーフ、ルース、ロジーナ、タチアナ。

 仲間にした面々含む多数の生徒たちが俺たちを応援してくれる。


 負けるわけにはいかないな。


「くそくそくそおっ!あいつらレゼン・ヴォロディはだがり応援しやがって……お前たち!!僕たち『ペトロ聖騎士団』は絶対に勝てなければならない!人間が獣人に負けるなんて、あってはいけないんだっ!!!!」

「「「……はい」」」


 敵はペトロ・オレクシーが率いる獣人嫌いのグループ9名。


 負けると学校を追放されてしまうペトロ以外やる気に満ち溢れているとは言えないが、全員それなりの使い手だ。

 俺たちのために勝ちを譲ったりはしないだろう。


「準備はいいか?ミラ」

「はい。いつでもいけます!」


 対するのは俺とミラのたった2人。


 敵勢力を考えれば過剰過ぎるほどの戦力だ。

 訓練の成果を、みんなに見せつけてやろう。

 

「さて、両チームが揃ったことだしルールの説明に入ろう。今回行うのは我が校の訓練でも用いられる競技の1つ……『鬼ごっこ』だ!」


 マリア先生が指をパチンと鳴らすと、原っぱに並べた人工物が一斉に飛び上がる。

 

 翼の生えた金属の球が約100個。


 サッカーボール大の大きさで、羽音をブンブン鳴らしながら空中に静止している。

 色は青、銅、銀、金と様々。

 1つだけプラチナ色の球が存在しており、他のものよりも忙しなく羽を動かしていた。


「この金属球、すなわち『鬼』を制限時間内に多く破壊したものが勝者だ!ボールは青、銅、銀、金の順で点数が上がる。プラチナはたった1つで1000点だが、特に素早い球だから注意が必要だ。相手チームに対する妨害は許可されているので、レゼン・ヴォロディ候補生のチームは特に注意するように!何か質問はあるか?」


 マリア先生の問いかけに応じるものはいなかった。

 俺もとっくに知ってるし聞くことはない。


「それでは両チーム位置について……」


 100個ある『鬼』が移動を開始し、平原と森に散らばっていく。

 一瞬だけ無音状態になった後──、




「はじめっ!!」


 ペトロのチームが一斉に走り出した。

 それぞれ武器を構え臨戦体制をとっている。


 目を血走らせながら先頭を行くペトロが叫んだ。


「分かってるな!!!お前たちが鬼を足止めし、僕がトドメを刺す!余計なことはするなよっ!!!」


 特に作戦というものはないらしい。


 というより、作戦を実行する余裕がないといった方が正しいか。


──お前たちの頭が悪いせいで……今日まで何一つフォーメーションが完成しなかったじゃないかこの役立たず!

──もうあんたの横暴には我慢できない!獣人も嫌いだがそれよりもあんたが嫌いだっ!抜けさせてもらう!

──なにいっ!?


 昨日、ついに喧嘩になって1人抜けてるしな。

 本来ペトロ+女性9人で10人のはずのチームが9人なのはそのせいである。


「『炎弓ファイアアロー』!

「『超加速スーパーアクセラレーション』!

「『氷結フローズン』!」


 各自が作戦もなくアビリティを駆使して『鬼』を止めようとするが、そこは訓練用の教材、そう簡単に生徒に捕まったりはしない。


 ぶぅん……!と羽音を立てながら魔法や弓による攻撃を紙一重でかわし、切り掛かってきた1人の生徒から逃れるために急上昇。


 そのまま大多数が森の中へと逃げていく。


「だめです!思ったより早い!」

「うるさぁぁぁぁぁい!口を動かす暇があったら手を動かすんだよぉぉぉぉぉぉ!『四重奏カルテット』!」


 ペトロも攻撃に加わるが結果は同じ。


「待てぇぇぇぇぇぇ!」


 9人はそのまま駆け足で森の中へと入り、姿が見えなくなった。




「……行ってしまわれましたね」

「あぁ。もう初夏だってのにご苦労なことだ」


 そんな茶番劇を、俺とミラは後方でのんびりと眺めている。

 まだスタートラインから出ていないし、ミラは狼にもなっていない。


 『ペルーン』も懐にしまったままだ。


「どういうことだ?レゼンとミラのチーム、ずっと立っているだけだぞ」

「勝負を捨てたのか!?」

「どういうつもりなんだろう……」


 見守っている学生たちがざわざわと騒ぎ始める。


 徐々に不安の声が大きくなっていくが、気にすることはない。


 俺とミラは平原に寝そべり、ゆっくりと流れていく白い雲を一緒に眺める。


「今のところは、作戦通りですね」

「後10分はのんびりできるだろう。それまで休憩だな」

「ふふふ。きっとみなさん、驚きますよ」


 


 この勝負、俺が働くのは一瞬だけでいいのだ。

 

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