第39話 ヒロインとペアになります
「せ、『セマルグルの杖』だと!?」
ペトロは驚愕した。
「俺はあの杖に興味があってな。あれは持ち主、つまりお前の許可がなければ力づくで奪い取っても機能しない。だからこそ、お前の進退を賭けたギャンブルの掛け金として成立する」
「あれはオレクシー家に伝わる家宝なんだぞ!?そんなことをしたら僕の名誉が……!」
「じゃあもろもろの犯罪行為を含め通報するしかないな。いずれにせよ、オレクシー家の名誉は終わりだ」
「卑怯者め!」
「お前に言われたくはない。さぁどうする?」
『セマルグルの杖』は『戦場のスラヴァ』のストーリー解放に欠かせない必須アイテムだ。
1000年の歴史を持つ武器と設定されており、自分のものとして扱うには元の主人の許可がいる。
『ペルーン』がある以上戦闘では使わないだろうが、要所要所で使わせてもらおう。
ペトロにハッピーエンドをもたらす能力ないし、その資格もないのだから。
「こ、このスパイ野郎め……!僕は絶対お前を──」
「嫌か?じゃあ通報して……」
「分かりました!いうことは聞きますから、つつつ通報だけはやめて下さい!」
「よろしい。では杖の前で宣言しろ。俺との勝負に負けたら『セマルグルの杖』を譲ると」
「は、はいぃぃぃぃいいい……」
もちろん、勝負の勝敗は事前に決まっている。
ペトロを許すつもりはない。
──ミラ・クリスだって、本当に第二次ヴラス帝国との戦争になれば逃げ出すか降伏するに決まってる!だから、人間だけでいいんだぁぁぁぁ!!!
ミラを馬鹿にした罪は重い。
俺は、けっこう昔のことを根に持つタイプなんだ。
****
「というわけで、俺とペトロは最後の決闘を行うことになった。向こうは学校裁判でペトロに投票した9人とペトロで10人。こちらは、俺とミラの2人。決闘と言っても、以前と同じような特殊ルールだ。互いに傷つけあうことはない」
「ミラとレゼンさんが、ですか?」
「ああ」
その夜。
寮内で出迎えてくれたミラに事情を説明すると、目を丸くした
「向こうは10人。こちらの5倍はいる。獣人嫌いが中心だし、俺たちに何かしてくるかもしれないぞ。怖いか?」
「怖くありません。レゼンさんと一緒に戦えるなら、ヴラス帝国軍だってへっちゃらです。ペトロさんたちをぎゃふんと言わせてやりましょう!」
いつものようにミラは俺に笑いかけてくれる。
全幅の信頼を置いてくれる。
だからこそ、言っておかなければならないことがあった。
「ミラ。……第二次ヴラス帝国軍との戦争が再びおこる可能性は高い。おそらく来年の初めだ」
「……レゼンさんはいつも不思議な力で未来を見通しているように感じます。でも、本当なのですか?」
「俺も起きないことを願っている。だが、万が一起きた時に備えて、これからも色々なことをしなければならない。だから……俺と『エレメント』を組んで一緒に戦ってくれないか?」
「……」
ミラは沈黙し、考え込むような表情を浮かべる。
モフモフとした耳が落ち着きなく動き、尻尾も揺れていた。
さすがに早すぎたか……?
「レゼンさんと『エレメント』……ミラとペアを組むってことですか?」
「難しいか?」
「いえ!とっても嬉しいです!でも……ミラがお役に立てるかどうか分からないし……それに!」
やや狭い寮の室内に、ミラの凛とした声が響く。
「レゼンさんは……ハーレム派じゃないですか!ミラとだけなんてもったいないですよ!みんなと一緒に、ハーレムを築きましょう!」
……
何か誤解が生じているようだ。
****
「つまり……レゼンさんは、ハーレム派じゃない!?」
「えーと。どちらかというと好きな女性は一人のほうがいいかなと」
「えええええええっ!?」
数分後。
幾度かの説得を経て、ミラは状況を理解した。
この王国は古い風習が残っている地域もあり、多くの妻を抱える資産家も何人かいる。
ミラの育った地域もやや特殊な風習が残っていたようだ。
「そ、そんな……レゼンさんはいつも人間や獣人の女の子を助けてるし、マリア先生だって食事に誘ってたし、レーフさんやルースさんも慕ってますし、ロジーナさんやタチアナさんも……」
「それは仲間としてだ。ハーレムを築きたいわけじゃないぞ」
「あぅぅぅ……つまりはミラの勘違い……は、はずかしい……穴があったら、入りたい……です」
ミラは顔を真っ赤にしてがっくりとうなだれた。
そんな彼女の頭を、そっと撫でる。
「レゼンさん……?」
彼女の純粋さを示す鮮やかな青色の瞳が見開かれた。
「もちろん、仲間のみんなも大切だ。でも……俺にとって一番大切なのはミラなんだ」
「ミラが、一番大切……」
「あぁ。だから、俺のそばにいつもいてくれ。絶対にミラを傷つけさせたりなんてしない。命をかけて守ると誓う」
「本当、ですか?」
「ああ。本当だ」
10000時間続いたゲームの中でも、ミラと共に過ごした時間は特に長い。
この世界線では、絶対に守りきってみせる。
「ふふふ……くすぐったいです、レゼンさん」
「あ。すまない」
無意識にミラの頭をずっと撫でてしまったようだ。
反射的に彼女の頭から手を離そうとしたが、ミラは俺の手を掴み、絡めとった。
距離がぐいっと縮まり、互いの顔が触れてしまいそうになる。
硬直している俺を見て、ミラは微笑んだ。
「私ミラ・クリスは、喜んでレゼンさんの『エレメント』となり、生死を共にします。だから……今日はミラの頭をずっと撫でてくれませんか?それだけで、ミラは幸せです……」
結局、その日は朝までミラの頭を撫で続けた。
こうして俺たちは『エレメント』となり──、
「さぁレゼンさま!今日は学校から100キロの地点を目指しますよ♪」
「きょ、今日も100キロ!?昨日もそれぐらい走って正直ヘトヘト──」
「行きます!」
「わああああああああああああ!?」
慌ただしい訓練が幕を開ける。
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