第37話 元主人公に災いが降りかかりはじめます

「が、学校裁判だと……!」

「復帰したら罪が帳消しになると思っていたのか?例の決闘騒ぎの処分は保留のまま。当事者2人の謹慎が解けた以上、改めてやり直すのが妥当だろう」


 学校裁判。


 学生の自治を重んじる『メリホスト騎士団訓練校』の伝統的な行事で、学校の存続に関わる事態が発生した時に開催される。

 ペトロのミラに対する暴行は『人間と獣人が共に学び、スラヴァの栄光を守り抜く』と定められた学校の理念に背くので開催は当然だ。


 ──俺レゼン・ヴォロディ候補生も暴力をふるった!だが、それには正統なる理由があるからだ!今こそ学校裁判を開き、正義がどちらにあるか学生たちに問いたい!


 『メリホスト祭』が開催される数日前、俺は全校生徒に向けた演説を行い、裁判の開催が大多数の支持を得て決定される。  

 過激派の取り込みをルースとレーフが、穏健派の取り込みをロジーナとタチアナが担当し、すでに俺を支持する学生が大多数な以上当然の流れだった。


 人間と獣人。


 今でこそ対立しているが、それは3年前の戦争で疑心暗鬼になったからだ。

 本気で排斥したいと願う者はほんのわずかしかいなかったのである。


「ぼ、僕を裁こうというのか?青く清浄なる世界をもたらそうとしたこの僕を!」


 ペトロは暴れだし、両脇を抑える学生2人の拘束から逃れようとした。


「離せ!僕を誰だと思っている!Aランクユニークスキル『万能魔力』を持つペトロ・オレクシーだぞ!スラヴァ王国の救世主になれる男なんだぞぉぉぉぉぉぉ!」

「こら、暴れるんじゃない『いじわるペトロ』!」

「その独りよがりの考え方がみんなに嫌われると分からないのか!」

「嫌だ!嫌だぁぁぁぁ!」


 完全に正気を失っているペトロを見て俺はため息をつく。

 そして──、




「……いい加減にしろ」


 闇落ちした主人公の胸ぐらをつかんだ。

 『竜の血脈』が生み出す無色透明のオーラを纏いながら。


 あらゆる鑑定アビリティをかいくぐる『竜の血脈』だが、ペトロも体内に流れる魔力だけは一流、俺のすぐ傍まで近寄れば本能的に理解するだろう。


 圧倒的な力の差を。


「ひっ!」


 銀髪の美少年の顔が恐怖に歪み、体がカタカタと震えだす。


「裁判が不服なら、もう一度再戦してやってもいい。だが……その時は命をかけてもらう。学校の校則とは無関係の場所でな……」

「ぼ、僕を殺そうというのか!?」

「別に殺されると決まったわけじゃない。勇敢に戦って俺を返り討ちにすればいいじゃないか」

「そ、そんなこと……」

「この前の決闘騒ぎの時も、お前は俺に大けがを負わせるか殺すつもりだった。お前に攻撃された俺が良く知っているぞ?」

「そんなことをしたら学校どころじゃない!捕まるぞ!法律違反だ!警察に訴えて……」


 俺はペトロに『ペルーン』を突きつけて有無を言わさず黙らせる。

 目に見えない銃でも、脳天に硬いものが押し付けられる感触は伝わったはずだ。 

 

「確かに、お前を殺すのはリスクの高い行為だ。だが、俺はのが得意でね……」

「ひぃいいいいいいい……た、助けてくれ……裁判でもなんでもする……だから、命だけは取らないでくれぇ……」


 ペトロ・オレクシーは反抗する気力をなくし、その場にへたり込んだ。

 俺が顎で合図を出すと、両脇にいた学生2人がペトロを連れていく。


「ふぅ……結局なんであいつは闇落ちしてるんだろうか。ま、なんでもいいさ」


 闇落ちした小物でしかないペトロを殺す価値など微塵もない。

 だが、生贄となってもらう必要はある。


 俺が目指すハッピーエンドに欠かせない悪役として。

 

「レゼンさま!休憩時間なので遊びに来ちゃいました!」


 教室をミラが訪ねてきた。


 白と黒のメイド服に身を包んでいる。

 胸の布面積がやや小さく、彼女のふくよかな胸が強調される形となっている。


 頬をやや赤くしながら、俺にカップを差し出した。

 

「カフェで好評だったコーヒーをレゼンさまにも味見してほしくて……どう、ですか?」

「ミラが淹れてくれるなら大歓迎さ」


 暖かいコーヒーをゆっくりと含むと、芳醇な風味と香りが口いっぱいに広がる。


「おいしい……もう一杯もらえるか?」

「レゼンさんがご希望でしたら」


 ミラがにっこりと微笑んだ瞬間、追加の来客もやってくる。


「レゼンさま遊びに来たぜ~~!今なら無料で背中に載せてやるよ!なぁレーフ」

「ええルース。今ならわたくしの『突風』も合わせるとスリル満点ですわよ」

「レゼン師匠!いまからその……わたすと『人魚の生け簀』に行けませんか?」

「か、勘違いしないでよね。わたしは、ロジーナがどうしてもあんたと回りたいっていうから……」

「レゼン・ヴォロディ候補生。先生もクワスの屋台を出してみたのだがどうにも不評でな……ポイントを教えてくれないか?」


 今日は忙しくなりそうだ。


「やれやれ。俺の身は一つしかないので、順番ずつですよ?」

「「「は~~~い!」」」


 独りぼっちのペトロとは違い俺にはみんながいる。


 学園の乗っ取りも、いよいよ大詰めだ。


 

 ****

 


『メリホスト祭』から数日後。

 1つに纏まりつつある『メリホスト騎士団訓練校』内で学校裁判が始まる。


 校内中の注目を集めた裁判がはじまった数分後──、






「ご、ごめんなさいぃぃぃぃいいいいいい……!」


 ペトロに新たな災難が降りかかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る