第34話 すりすりくんかくんかすーはーぺろぺろ

「決闘?」

「そうよ!どちらがロジーナにふさわしい強い存在か、柔肌やわはだをすりすりくんかくんかすーはーぺろぺろする権利があるかを賭けてね!わたしに勝てなければ、ロジーナに対する洗脳をやめてもらうわ!」


 タチアナは鋭い歯をむき出しにしながら唸った。


 ロジーナと血はつながっていない。

 3年前の第二次ヴラス帝国との戦争で発生した避難民の一人で、受け入れ先となったロジーナの家で養女として育てられている。

 その過程で、ロジーナに愛情を抱くようになったとデータベースに記載されていた。


 ……一応仲間になるNPCの一人です。

 

「洗脳ねぇ。そんなことをした覚えはないが?」

「嘘をつかないで!最近のロジーナは『わたすにも戦場でできることがあっていがった~』とか『レゼン師匠の下で戦うべ!』とか戦争の話ばっかり!わたしの知ってるロジーナは平和を愛する心優しくて可愛い女の子なのに……あなたが洗脳魔法をかけたに決まってる!」

「そんなものはない。そもそもここは騎士団の育成校だぞ?多少戦争に興味を持ったって──」

「よくないよくないよくない!戦争になってもロジーナはわたしが守るから戦わなくていいの~~~!」


 この通り、タチアナは穏健派の中でもかなりのひねくれ者だ。

 優秀なスキルを持っているが、その力はロジーナを守ること以外には使うつもりがない。

 この学校にもロジーナが入学を希望したからついてきただけ。


 ロジーナが自分には適性がないと悩むのは、タチアナにとって都合が良かったわけだ。


 その意味では『どろぼう猫』の評価も一理あるが……いずれ俺の部下になるにあたってこの性格は治してもらう必要がある。

 ヴラス帝国の奴らはどろぼうで済まないからな。


「どうせならわたしにも洗脳魔法のかけ方を教えなさい!一度ロジーナに罵ってほしいの!きっと悶絶するほど可愛いに違いないわ!好きな子に冷たい目線を送られながら罵られるって、誰もが一度は憧れるものね!」

「業の深い性癖を抱えやがって……で、俺が勝てば洗脳とやらを続けてもいいんだな?」

「勝てれば、ね。でも、そう簡単には行かないわよ!」


 タチアナは一歩も引く気はないらしい。

 水色のオーラを纏わせ、早くも臨戦態勢だ。

 ヒレや鱗が全身に現れ、動物形態へと変化していく。


「わたしはレーフやルースのような脳筋単細胞とは違うわ。あなたを負かす作戦はすでに完成している!かかってきなさい!」

「そういうのは言わないほうがいいと思うが……面倒なやつだ」


 悩んでいるふりをしていると、クラスメイト数人が教室に入ってくる。


「どうやら、ここで決着をつける時間はなさそうだな」

「ちっ……ならばここで『決闘の掟』に従い決闘を受けるかどうか──」

相手になってやろう。そんなにロジーナを奪われたくないなら、俺の魔の手から守ってみせろ」

「言ったわね!」

「ただし条件が2つある。1つは、俺が考案した特殊ルールを採用してもらう。心配するな、お前にとって有利なルールだ」

「ふぅん。悪役顔にしては潔いわね。もう一つは?」

「もう1つは……」


 何もない両手の手のひらを広げ、ロジーナに見せつける。




「俺はスキルもアビリティも使わない。生身で十分だ」



 ****



 その夜。


「ここ、ですか?」

「うむ。そこだ。痛くないから遠慮なくやってくれ」

「分かりました。では、入れますね……」


 サクッ…


 ミラが俺の耳にたまった耳垢を器用に取っていく。


 狼ケモ耳娘の膝枕による耳掃除だ。

 綺麗に折り畳まれたミラの膝は、プニプニとしていて最高だった。


「ここかな?……ふふふ、レゼンさんの耳垢、すごく大きい」


 ちょっと顔を赤らめながらも楽しそうなミラの表情も楽しめる。


「明日はタチアナさんと決闘ですし、お耳も綺麗にしませんとね♪」

「決闘ってほどでもないさ。スキルもアビリティも使わないし、もしかしたらタチアナが勝つかもしれんぞ?」

「そんなことありません。レゼンさんはミラとの約束を守って、ちゃんと戻ってきてくれました。だから、今回も絶対お勝ちになります」


 ミラはどんな時でも俺を信じてくれる。

 明日も恥ずかしいところは見せられないな。


「ごほん。ところで、明日はミラにも少し手伝って欲しいことがあるんだ」

「はい。なんでも言ってください」

「実はな……」


 モフモフとした大きな耳にそっと耳打ちする。




「……ミラと一つになりたいんだ」

「……!」


 ミラはピーンと尻尾を伸ばす。

 青い目を大きく見開き、頬をかあっと赤く染めた。



「……分かり、ました」


 衣擦れの音。


 ミラが白い制服を手をかけ、ゆっくりと脱ぎ始める。

 

「その……優しく、してください」




 夜は始まったばかりだ。

 


 ****



 次の日。


 早朝から俺、ミラ、マリア先生は演習場に向かった。


「また決闘か。レゼン・ヴォロディ候補生はかなりの人気者と見える。先生も羨ましくなってくるぞ?」

「拳で分かり合うって奴です。スラヴァ王国の人間も獣人も血の気が多いですから」

「違いない。ところで、新しく試作した料理があるのだが……」

「朝飯はすでに食ってきましたっ!」

「そうか?残念」



 

 マリア先生と軽口を叩きながら演習場の中ほどまで来ると、寝ぼけ顔のロジーナと鋭い目つきのタチアナが見えてくる。


「タチアナ……なんでわたす、こんなところにいるの?」

「待っててねロジーナ。あいつを倒して、目を覚まさせてあげるから!」


 タチアナは俺の姿を確認すると、叫んだ。


「ルールは覚えてるわね?」

「ああ!俺にロジーナを奪われたくないなら、最後まで守りきってみるといい!俺はロジーナにタッチを試みる!お前はそれを防ぐ!俺がロジーナにタッチできたらお前の負けだ!スキルもアビリティも一切使わずにタッチしてやる!」

「そんなことさせないわっ!わたしは泥棒猫からロジーナを守り切り、すりすりくんかくんかすーはーぺろぺろしてみせる!」




 こうして、特殊ルール&ハンデ条件での特殊決闘が幕を開けた。

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