第30話 悪役は2人を仲良くさせたいようです(後編)

 手紙の筆跡は、全てルースによるものだった。

 ややたどたどしいが温かみのある文字。

 

 全部で数十通ある。


「その手紙は……オレがレーフ姉に送った手紙……!」

「獣人ルース・ヴォイコよ。お前の姉レーフ・コヴァルは、送ってもらった手紙を大切に保管していた。3年分全てな。本当はお前を想っていたからこそ、先ほどの決闘でもお前を支援したんだ。妹が傷つかないように……」

「そ、そんな……返事も送ってくれなかったし、捨てたと思ってたのに……どういうことだよレーフ姉!」

「……」


 レーフは目を閉じて肩を落としていたが、やがてぽつりぽつりと真実を話し出した。


「お父様に……全て隠されていたのです。ルースの送ってくれた手紙の全てを」

「……!ほ、本当なのか?」

「わたくしがあなたに送った手紙も、全てお父様に途中で捨てられていました。全てを知ったのは、お父様が亡くなってからしばらく経ってからです」




 真実はこうである。


 3年前、戦争の影響で離れ離れで暮らすことになったルースとレーフは互いの接触を禁じられた。


 それでも2人は互いの身を案じて手紙を送っていたものの、それらは届くことなく姿を消し、一切のやり取りが不可能となる。


 ローマン・コヴァルが、コヴァル家の人間に獣人との関係が残るのを恐れ、2人の文通を妨害していたからである。


 ──ルースはお前のことを嫌って返事を返さないし、自分から手紙を送ることもないのだろう。無理に仲良くする必要はない。会っても追い返されるだけだ。


 人間の娘レーフに嘘を吹き込んで疑心暗鬼にさせ、姉妹を接近させないように取り計らった。

 レーフ自身も『妹は自分を嫌いになったかもしれない』と思い、手紙の送付をやめ、そのまま2年の月日が流れることになる。


 自分が嘘を言い聞かされていたとレーフが気づいたのは、父ローマンが亡くなってから半年後。

 ローマンの執事がレーフに真実を明かし、ルースからの手紙を彼女に返したのだ。


 執事は手紙を廃棄するよう命じられたにも関わらず、こっそりと保管していたのである。


「そ、そんなことが……でも、どうして言ってくれなかったんだよ!てっきり獣人のオレはもう嫌いになったと思って、メリホストでも冷たく当たってたのに……」

「……本当にごめんなさい。3年ぶりに再会したあなたを見て、心が揺らぎました。でも、お父様の差し金とはいえ、わたくしがあなたを疑ったのは事実。謝ったところで、許されることではありません……」

「ルース姉……」

「このまま、あなたに憎まれ続けたほうがいいのではと思ったこともありました。でも、ダメですね。レゼンさまも、それを見抜いていらっしゃったのですわ……」


 レーフはルースに深々と頭を下げる。


「本当にごめんなさい!わたくしはあなたの心を疑い、何年もそのままにしていました。謝ってもすむことではないと分かっています。それでも、わたくしに謝らせてください!」

 

 その姿を見たルースは瞳を潤ませた。

 

「いや、オレも……悪かった。本当はレーフ姉と仲よくしたかったのに、素直にその気持ちを出せなかった。ずっと反発ばかりしてて……本当にごめん!」

「ルース……わたくしを許してくれるのですか?」

「あぁ。オレのことも許してくれるか?また、元通りの姉妹に戻りたいんだ……」

「えぇ……!」

 

 夕陽が落ちてきた演習場で、2人の姉妹はしっかりと抱き合う。

 人間や獣人の垣根を超え、より強い絆で結ばれた関係は、決して壊れることはないだろう。


 もちろん、戦争が起こっても。


 俺がそうさせはしない。




「いいですね。血の繋がりって。ミラも、心が暖かくなりました」

 

 いつのまにかミラがこちらのそばに立っていた。


 彼女はすでに両親を亡くしており、兄弟もいない。

 思うところがあるのだろう。


「寂しいのか。ミラ」

「昔は、寂しく思うこともありました。でも、今は大丈夫です」


 ミラはにっこりと笑顔を浮かべる。




「今は、レゼンさんがいてくれますから!」


 

 学園寝取り条件その2:人間のレーフ・コヴァルと鳥の獣人ルース・ヴォイコを和解させる 達成


 

 

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