第29話 悪役は2人を仲良くさせたいようです(前編)

「『決闘の掟』は絶対。敗者は俺の言うことを聞いてもらうぞ」

「く、くそう……」

「完敗ですわね……」


 戦いに勝てばいわゆるお待ちかねタイムだ。


 こちらにひざまづくレーフとルースを見て、俺は悪代官のごとく邪悪な笑顔を浮かべる。


「それでは、俺からの要求を伝える。お前ら2人は……退学してもらう!!」

「「ええっ!?」」

「文句があるのか?お前たちがいると、俺の目的の障害になりそうだからな」

「「い、いや……その……」


 鳥の獣人と金髪の人間。

 互いに顔を見合わせていたが、やがて獣人のルースが口を開く。


「それだけは勘弁してくれレゼンさま!まだこの学校を辞めるわけにはいかないんだ!土下座でもなんでもする!」

「ほう。理由を聞かせてもらおうか」

「3年前、第二次ヴラス帝国の侵略のせいで獣人の立場は悪くなっちまった……ルースたちがメリホストで立派な戦士になって、帝国の野蛮な奴らとは違うと証明しなくちゃいけないんだ!」

「立派な心がけだな。ならば、代わりの条件を考えてやってもいいぞ?」

「え……ひゃぁん!?」


 俺はルースの艶々とした羽に手を添える。

 

 うむ。

 ケモ耳は最高は至高。

 だが、しっとりとした羽毛の手触りもなかなかのものだ。


 羽の付け根が敏感らしく、背筋をぴくぴくと震えさせる。

 

「レゼンさま……く、くすぐったいよぉ」

「退学の代わりの条件……それは、俺の女になることだ」

「レゼンさまの……女?」

「あぁそうだとも。毎日俺の部屋にきて奉仕するなら、考えてやってもいい」


 短髪でボーイッシュな顔立ちのルースが顔を真っ赤に染める。


「うぅ……レゼンさま……オレはそういう経験がなくて……」

「ククク……問題ない。俺がじっくり教えてやる。さぁどうする?今ここで退学するか、それとも別の条件を呑むか」

「……分かった。分かったよ。レゼンさまの女になるから、退学だけは……」


 全てをあきらめた鳥の獣人が俺に身を委ねようとしたとき──、




「……おやめください、レゼンさま」


 沈黙を貫いていたレーフが口を開いた。


「なんだレーフ。まだお前には何も言ってないぞ?」

「失礼を承知で申し上げます。ルースの代わりに、わたくしレーフをレゼンさまの女にしてください」

「レーフ?一体何を……」

「あなたは少し黙っていてください」


 口を挟もうとしたルースを静かにさせ、俺の前に立ち塞がる。


「ルースを守ろうというのか?殊勝な心がけだな。だが、対立していた獣人をなぜかばう?」

「……」

「いや、こちらから教えてやろう。何故なら……」


 もちろんゲームをプレイした俺は最初から知っている。 

 最初から勝ちが決まっていた決闘に乗ったのも、2人の本音を引き出すため。

 





「お前たちが双子の姉妹だからだ」



 ****



「俺は何でも知っているからな。お前たち2人は、スラヴァ王国西部の大地主コヴァル家の生まれ。父親ローマンは人間で、母親エイビスは獣人」


 ミラとの駆け落ちエンドを見ても分かる通り、『戦場のスラヴァ』の世界では、人間と獣人で子をなすことが可能だ。

 

 生まれた子供がどちらの特徴を強く受け継ぐかは完全なる運ゲー。

 よって、人間と獣人が共存するスラヴァ王国では、人間と獣人の姉妹は珍しくなかった。


「だが3年前……獣人保護を大義名分とする第二次ヴラス帝国の侵略で、人間が代々当主だったコヴァル家は体面を守る必要に迫られた。お前たちの母親エイビスはローマンに離縁を申し入れ、獣人の娘ルースと共に家を出ていった」

「知ってましたのね……最初から全て」

「その後、お前たちは互いに交流することもなく数年間を過ごし、『メリホスト騎士団訓練校』でようやく再会した。父親のローマンも去年に亡くなったことだし、肉親同士もう少し親しくしてもいいじゃないか」

「……」


 沈黙したレーフの代わりに、ルースが口を開く。

 

「ふん。レーフ姉はオレやお母さんのことなんてどうでもいいんだ。手紙を送っても何度も無視された。父さんが亡くなった時だって、葬儀に呼んでもくれなかったじゃないか」


 いつものような強気な態度はない。

 声も心なしか震えている。


「それは……」

「3年前、『わたくしはあなたを離れたところでもずっと想ってます』なんて言っちゃってさ。全部嘘なんだろ?獣人の妹がいなくなって……」

「それは違うぞルース・ヴォイコ。レーフはこの3年間、お前のことを想っていたさ」

「な、なに?」


 俺は後ろを振り返る。


「ミラ、例のものを」

「はい!」


 背後で状況を見守っていたミラが、ポーチを抱えたままこちらにやってくる。


「あ!それはわたくしの部屋に置いてあったやつ!いつの間に!」

「悪いが、レーフがいない間に少し借りた」

「ええ!?」

「心配するな。中身には手をつけていない。ミラ、少し開けてみてくれ」

「分かりました」


 ミラがポーチを開けると──、



 そこには大量の手紙が入っていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る