第28話 ちょっとした裏技を披露します

「いよいよ時間だな。ミラ、頼んだものは手に入れたか?」

「はい!レゼンさんの言った通りの場所にありました。


 夕方。


 演習場に向かう前に、俺は校内でミラと合流する。

 ミラは右手に緑色のポーチを持っていた。


「誰もいない時間帯だったので、上手く持ち出せました」

「よくやった。流石は腕利きスパイだな」


 頭を軽く撫でると、ミラは照れながらも嬉しそうに尻尾を振る。


「えへへ……それほどでも〜」

「ことが済んだら、持ち主にすぐ返す。決闘が済むまで大事にもっててくれよ」

「分かりました。レゼンさんも気をつけてください」

「あぁ」 


 俺は日々頼もしくなっていくミラと共に、演習場へと向かった。


 

 ****



「マリア・シェレスト!本校の伝統ある『決闘の掟』の立会人として本日は同席する!」

「ミ、ミラ・クリス候補生!マリア・シェレスト先生の補佐として本日は同席します!」


 『決闘の掟』は元々立会人を用意して行うのがルールである。

 というわけで、本日は2人の立会人を用意させてもらった。


「朝に述べた通りだ。俺はお前たち2人をで制圧したら勝ち。お前たちは俺の体に傷1つでも付けたら勝ち」


 俺の決闘相手はレーフとルースの2人。


「俺に傷をつけた側の陣営についてやる。ただし……俺が勝ったら、1つだけなんでも言うことを聞いてもらうぞ」


 条件を述べると、仲良しコンビは顔を見合わせる。


「ほ、本気で1人でやるつもりなのかしら?」

「な、なんだよ。ビビってんのかレーフ」

「こここ怖がってなんかいませんことよルース。いくらあのペトロを倒したと言ってもたった1人。2人がかりなら、傷1つぐらいは付けられるはず……!」


 どうやらやる気のようだ。

 それでいい。


「話し合ってないでさっさとかかってきたらどうだ?遠慮は無用だ。本気でかかってこい」

「ちっ……こうなったらやるしかねぇ。足を引っ張るんじゃじゃねえぞレーフ!『玄鳥変異スワロー・バリエイション』!」

 

 風属性の魔力を持つ獣人ルースがアビリティを発動。

 緑色のオーラと共に全身が羽毛に覆われ、数メートルの巨大なツバメに変異する。


 翼の起こす風で土埃が舞い、こちらにも衝撃波が伝わった。


「ルースこそ、わたくしの邪魔をしたら承知しませんことよ!『突風ガスト』!」


 レーフは自らの魔力を使用武器『ヴァルプリスの杖』に集め、アビリティで突風を発生させる。

 こちらも風魔法の使い手だが、ペトロとどの程度差別化できているか……見ものだな。


 互いに数秒間睨み合ったあと──、

 

「「「決闘デュエル!!!」」」


 正式な掛け声と共に、エクストラモード2回目の対人戦が始まる。

 

「先手必勝!!!」


 最初に仕掛けたのはルースだった。


 翼をバサリと大きく広げて地面スレスレを飛行。

 何度か旋回した後、唸りを上げてこちらに突進してくる。


 「『速度強化エンハンスド・スピード』!」


 風の魔力で自らのスピードを上げるアビリティを発動し、そのまま体当たりで仕留める気だ。


 ──恐れを捨て、秘めたる力を解放せよ。


 俺は懐から『ペルーン』を取り出し、ツバメに変異したルースに狙いをつけた。

 向こうから来るなら当てるのは容易い。


 あとは引き金を──、


「『突風ガスト』!」


 ルースの姿が風と共に消える。


 いや。

 消えたのではない。

 

 レーフが発生させていた竜巻に巻き上げられて、ルースの巨体が上空に飛び上がったのだ。


 俺はアビリティの行使を中断する。

 

「おわっ!な、何しやがるレーフ!」

「……分かりませんこと?レゼンさまはあなたに狙いをつけていましたわ。そのままだったら手羽先になっていましてよ?」

「そ、そうなのか?」

「やっぱり……ルースはいつもそうやって向こう見ずなんですから」


 レーフは『ヴァルプリスの杖』を構え直し、表情を引き締める。


「一時休戦と行きましょう。恐らく、1人ではレゼンさまに勝てません」

「あぁ!?その場合はどっちがレゼンさまを手に入れるんだよ!」

「別にあなたが手に入れても構いませんわ。わたくしは……」

「あん?」

「な、なんでもありません!とにかく、レゼンさまとの決闘に勝つことが先決ですってよ!」

「ちっ……分かったよ!」


 ルースは渋々相方の言うことを聞き、再び上空に舞い上がった。

 足の爪をぎらりと光らせる。


「レゼンさまっ!悪いけど、こっちも本気で行くぜっ!」



 ****



 そこからのレーフ・ルースコンビの息はぴったりだった。


「そらっ!」

  

 ツバメとなったルースは空中から飛び降りるように接近し、足の爪でこちらを攻撃しては再び舞い上がる一撃離脱を繰り返す。


 狙いをつけようとしても、レーフが『突風ガスト』で素早く軌道を変えるため難しい。

 

「わたくしはペトロさんほどで万能ではありませんが、風魔法に関しては自信があります!『風弾ウィンドバレット』!」


 レーフはルースを『突風ガスト』で操りながら新たな風魔法を発動。

 大量の風の弾丸を発生させ、俺を遠距離から襲う。


「『無効インバリッド』!」


 いつもの防御魔法でダメージゼロ。

 レーフに反撃しようとするも──、

 

「背中がガラ空きだぜレゼンさまっ!『速度強化エンハンスド・スピード』!」

 

 次はルースが爪による一撃を加えてきた。

 ギリギリかわすが、制服の一部が切り裂かれる。


 レーフに狙いをつければルースが。

 ルースに狙いをつければレーフが。


 互いに援護しあい、俺に隙を与えない。




 ……そうそう。

 原作でもこの風属性のコンビ、使い勝手良かったんだよな。

 ゲームでも味方NPCに選んで一緒にクエスト攻略してたわ。


 エクストラモードでも仲良くしてもらわないとな。


 さて。




 実力も分かったし、そろそろ終わりにしよう。


「どうです?流石のレゼンさまも、なかなか攻略は難しいのではなくって?」

「そうだそうだ!諦めて獣人のヒーローになってもらうぜレゼンさま!」

「即席コンビにしてはなかなかだ。だが、まだまだだな。1人ずつ狙いを定めさせないなら……」


 俺は『ペルーン』を改めて構え、アビリティの準備を整える。


に攻撃するだけだ!」

「……っ!来るぞ!」

「ええ!」


 2人は狙われないよう距離を取ろうとする。


 無駄だ。


 ====================


 『ペルーン』照準


 無効化対象:人間×1、獣人×1

 射程:200メートル

 使用後の魔力残量:80%

 備考:物理法則や因果に関係なく100%命中


 ====================

 

 一度必中を命じれば、『ペルーン』からは絶対に逃れられない。


 俺は透明な銃から放つアビリティ名を叫んだ。





 


「『無効インバリッド』!」 


 ……『殲滅アナイアレイション』じゃないのかって?  

 そんなことしたら2人とも死んでしまう。


 ──無属性の魔力を弾丸とする無色透明の銃。『殲滅アナイアレイション制御の難しい無属性魔法に指向性を与え、連発を可能とする。ゲーム中最強の武器。


 無属性魔法であれば、『ペルーン』は弾丸を問わないのだ。

 対象を傷つけず確実に無力化する弾丸。


 教室でクラスメイト全員のアビリティを解除した魔法も『無効インバリッド』だった。


「えっ……おわぁぁあぁああああっ!?」 


 空中から叫び声。

 強制的にアビリティを無効にされたルースが人間に戻り、数メートルの高さから落下する。


 全力で走り、地面で叩きつけられる前にキャッチ。 

 鳥の獣人だけあって体重はかなり軽い。


「アビリティが……使えない!?」

「そこまでだ」

「……っ」


 ルースを片手で抱えながら、立ち尽くしているレーフに『ペルーン』を突きつける。




「そこまで!勝者!レゼン・ヴォロディ!」


 決闘の終わりを告げるマリア先生の声が演習場に響いた。



  ****



 本日は1話だけ更新します~

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