第27話 仲良しコンビをハモらせます

「担任昇格、おめでとうございます。マリア先生。『恭順派』もしばらくは大人しくなるでしょう」


 数日後。

 

 俺は寮の自室でマリア先生と会話した。

 ラムスの退任で副担任から担任へと昇格した。


 他にも人事異動があり、スキャンダルの余波で学校の担任や職員が複数人交代させられている。

 校内の勢力争いは『抗戦派』がやや優勢となった。


 ゲームでは8月まで『恭順派』と『抗戦派』の争いが続くが、今回はもう少し早くケリをつけたいところだ。


「……なるほど、君も『抵抗派』だったか。ユリヤ王女は有能な人物を見つけるのが上手いな。何か協力してほしいことがあったら言ってくれ」

「クククク。敵を騙すにはまず味方から。これからも仲良くやりましょう」


 もちろん今の俺が『抵抗派』なんてだが、今はこれでいいだろう。

 竜の血脈を隠すには森の中ってね。


「君の期待に応えられるよう、これから全力で第8クラスの教務に励むと誓おう。ところで……君はこれからどうする?」

「そうですねぇ……」


 俺は部屋の窓から見える第8クラスの教室を眺める。


   


「そろそろ、教室内の空気を入れ替えたいところですね」

「空気を、入れ替える?」

「ええ。任せてください。攻略法は頭に入っています」

「なるほど……君を信じよう」


 次にやるべきことはとっくに決まっている。

 エクストラモード異世界転生はサクサクと進めたいからな。


「ごほん。ところで、だな」

「はい?」

「実は……その……今日は担任の引継ぎ業務がようやく終わってだな。少し暇になったんだ」

「はぁ」

「君にはお世話になりっぱなしだし、色々今後について相談もしたいし……その……」


 背中に腕を回し、急に室内をうろうろしはじめるマリア先生。

 真っ白なクール系先生の肌が、ほんのりピンク色に染まる。


 ごくりと唾をのんだ後──、


「せ、先生と食事でもしないか!?ほら、君も先生を誘ってたし」

「え?ああ、いいですけど……いやいいんですか?」

「かかか勘違いするなよ!?こ、これはあくまで教務の一環だからな!?手をつなぐとか、き、きききキスとかそんなことはしないぞ!?そんなことをしたら、先生からお嫁さんになってしまうからな!」

「わ、分かりました!レゼン・ヴォロディ候補生!謹んでお受けします!」

「やったぁ!絶対だぞ?明日の夜、絶対だからな!場所はまた詳しく連絡する!」


 俺を自らの領域へと引き込んだ後、教室を去っていく。


 ……

 悪い。



 やっぱちょれえわこの先生。



 ****



「……んだよ。こっち見るなよ縦ロールが」

「……鳥人間の方こそ、見ないでくださるかしら?」


 第8クラスの教室内に入ると、数日前の騒ぎっぷりが嘘のように静かだった。

 ただし仲が良いとは言えない。

 過激派を率いる人間のレーフ・コヴァル、鳥の獣人ルース・ヴォイコも冷戦状態といったところか。


 獣人と人間。

 互いに一定の距離を取って集まり、会話を交わすことはなかった。


「今日もみんな元気ないねータチアナ……」

「静かならいいじゃないロジーナ。それより、授業が終わったらどこか行かない?キーウィの動物園にでも」

「うーん。どうしようかな。今日はマリア先生に自分の戦闘スタイルについて聞きたいことがあるし」

「……そんなこと明日でもいいじゃない。行きましょうよ」


 穏健派の人間でおっとりとした性格のタチアナ、タチアナに寄り添う魚の獣人ロジーナも事態を静観しているようだ。


 


 要するに、教室内の空気はよどんでいる。

 恐怖を与えるだけでは、クラスが真に団結するのは難しいってことだな。

 新しいアクションを起こす必要がある。


 俺が訪れたのは──、




「今日は随分と静かだな。レーフとルイスの仲良しコンビは」


 金持ちとヤンキーコンビの方だった。




「「はぁ!?」」


 間髪入れずに2種類の声がハモった。


「わたくしレーフ・コヴァルは!」

「誇り高き獣人ルース・ヴォイコは!」


 お互いににらみ付ける。

 舌打ちを打つ。

 顔をそむける。


「「こいつと仲良くなんかありません!絶対に!」」


 


 いやぜってー仲良いわこいつら。

 動作から言葉を発するタイミングまでシンクロしてやがる。


「だからこっちの真似ばかりするなって言ってるだろうがこの縦ロール!」

「そっちこそ、いつもいつもわたくしの真似ばかりしないでくださるかしら!?」

「ぐぬぬぬぬぬぬ……レゼンさまは絶対に獣人の味方だ……」

「うぬぬぬぬぬぬ……獣人勢力にレゼンさまは渡しませんことよ」


 まぁ言葉で言っても通じないか。

 お互いに意地を張り合っているし。


「……そんなに俺を味方につけたいのか?」

「「え???」」


 レーフとルイスが再びハモった。


「聞いてやらないでもない。ただし条件がある」

「ほ、本当かレゼンさま!」

「まぁ!やはりレゼンさまは人間の味方ですのね!」

「俺と決闘して勝て。勝ったほうの派閥についてやる。早い者勝ちだ。人数はいくらでも連れてきて構わない」

「「……んん???」」


 俺は懐の『ペルーン』の感触を確かめながら宣言する。




「人間種のレゼン・ヴォロディ。『決闘の掟』に従い、レーフ・コヴァルとルース・ヴォイコに決闘を申し入れる」



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