第26話 クエストを1つクリアしました

「こ、告発だと!?何を根拠に……」

「本日はわざわざご足労いただきありがとうございます。ラシム先生」

「き、貴様は……レゼン・ヴォロディ候補生!?」


 動揺するラシムの背後から声をかけると、無能教師はすでに脂汗をかいていた。

 嘘はつけないタイプらしい。


 だからこそ罠にはめる価値もあるのだが。


「こ、これはどういうことだ!」

「先ほどミラが言った通りです。あなたを、獣人学生に対する盗撮の件で告発します」

「証拠はあるのか!?」

「ええ、もちろん。昨日ミラと2人でこれを全て没収させていただきました。ゲーム通りの配置だったのでね……」


 俺は、ポケットからこぶし大のガラス球数個を取り出した。

 中は空洞。

 ピンク色の液体で満たされている。


 ガラス球の表面にそれぞれ映像が映し出されてた。


 更衣室で服を脱ぎ、下着姿となっているイヌ耳獣人娘。

 運動場で汗を流すウマ耳獣人娘のピンとした尻尾。

 屋内訓練場で訓練に励む獣人娘の汗で透けた服。


 獣人。

 獣人。

 獣人。


 映っているのは全て獣人の少女たちだった。

 今ここにいるラシム・グレンコが学校の各所に仕掛けた『盗撮玉』である。

 

 ゲームでマリア・シェレストを担任に昇格させるクエスト『エロ教師を追え!』をクリアするために収拾するアイテムだ。

 データベースでは以下の通り。


 ──クエスト『エロ教師を追え!』のクリアは特別クエスト『キーウィ防衛戦』を出現させるための必須条件である。

 ──4月中にクリアできなかった場合、盗撮の罪がペトロ・オレクシーになすりつけられ退学処分となるバッドエンドルート22『それでも僕はやっていない』に突入する。


 本来なら一時間ほどの推理パートとバトルパートを経てクリアするものだが、すっ飛ばしてもいいだろう。

 こいつに割いてる時間がもったいないし。


「い、いくつか防御結界を配置したのにどうして!」

「さぁ、『無効』にでもされたのでは。で、これはどういう類のものです?」

「こ、これはその……」

「水面に移ったものを映像として記録する水属性のユニークスキル『水面の記憶』。河川の戦いで役立ちそうなスキルですが、やることが盗撮では役に立ちませんな」 

「あの、なんだ。先生としては生徒の動向を確認する必要があってだな……」

「どんな動向をですか?」

「く……く……くそぉおおおおおおおおおっ!どけっ!」


 ラシムは俺を突き飛ばして教室から逃走を図ろうとする。

 戦闘力は皆無だが、あの贅肉たっぷりのお腹に突き飛ばされるのはごめんこうむりたい。




「……『殲滅』」


 というわけで、多少もったいないが『ペルーン』の引き金を引いた。


 目標はラシムの足下。

 やつの巨体がすっぽり入る程度の穴を空けた。


 建物の老朽化を装うためのヒビやギザギザを走らせながら。

 『ペルーン』はやはり使い勝手が良い。


「へ……?ほげええええええええっ!」


 突如床に開いた穴を運動神経皆無のラシムが回避できるわけもなくジャストミート。

 巨体が穴にすっぽりと収まり、1階と2階の間で足をぶらぶらとさせた。


「な、何故こんな大穴がっ……!」

「さぁ?どこかの派閥が建築費用を中抜きしましたからねぇ。そういった事故も起こるんじゃないんですか?」

「き、貴様っ!先生は『グレンコグループ』の一員なんだぞ!先生にこんなことをして、ただで済むと思うのか!」


 ラシムは往生際が悪い。

 小物はこうでなくっちゃな!


 メタ的なことを言えば、ゲームとして楽しめるように制作陣が作った過剰なキャラ付けでもある。


「『グレンコグループ』の一員だからこそ、あなたは切り捨てられますよ」

「何!?」

「考えても見てください。いくら傍系とはいえ、一族の獣人フェチが教育機関で盗撮なんて『グレンコグループ』にとっては恥。『恭順派』にとっても都合が悪いでしょう。醜聞は人間も獣人も大好きですから」


 ゲームの展開ではそうなるという話だが、おそらく変化しないだろう。


 今のところ、この世界のイレギュラーは俺とペトロ・オレクシーの2人だけだ。


「た……助けてくれミラ・クリス候補生!」


 進退極まったラシムはミラの方に振り向いた。


「君は確か優しい心の持ち主と聞いた!陰謀にはめられる可哀想な先生を見てなんとも思わないのか!」


 ミラは冷たい声で即答する。


「全く思いません」

「え」

「確かにこれは謀略かもしれません。ですが、ラシム先生がクラスメイトで欲望を満たそうとしたのは事実。同情する余地はありません」

「そ、そんなぁ……」


 流石のミラも青い瞳を怒りの炎で燃やしているようだ。

 これで話は終わり。


 俺は再び『ペルーン』を構える。


「や、やめてくれ……!こんなことをしたら、また戦争になるぞ!その時に責任を取れるのか『抵抗派』は!」

「それは違いますよ、先生」


 俺は悪役っぽくニヤリと笑って見せた。




「第二次ヴラス帝国軍が侵攻した3年前から、戦争はずっと続いてるんです。今この瞬間もね」


 床にさらに大穴が開く。



 悲鳴と共に巨体が見えなくなり、雷鳴のような音が下の階に響いた。


「きゃああああああっ!更衣室の上から変態が降ってきたわ!!!」

「えんがちょ!えんがちょ!」

「ちょ!こいつが持ってる玉に変な映像映ってるんですけど!」

「変態は死すべし!」


 ついでにラシムの悲鳴も。


「ぎゃああああああああっ!」


 下は女子更衣室となっている。

 そのまま法の裁きを受けるが良い。


「ど、どうでした?ミラはちゃんとスパイの役割を果たせたでしょうか?」

「ああ。100点満点だ」

「よかったぁ!これからも頑張りましょう!」


 学園寝取り条件その1:マリア・シェレスト先生を担任に昇格させる 達成

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