第24話 ヒロインといちゃいちゃします
「静かにしろ」
男性の声が響いた瞬間、第8クラスの学生は体に違和感を覚えた。
違和感の正体はすぐにわかった。
喧嘩に備えて体内に流していた魔力の流れが、止まったのだ。
アビリティも一切利用できない。
アビリティが使えなければ、人間も獣人も単なる女子学生でしかない。
入学前からスキルやアビリティの手解きを受けてきた生徒たちにとっても初めての経験。
「これ以上騒ぐな。争いをやめて、大人しく席につけ。でなければ……俺が貴様らにアビリティを行使する」
凶悪な悪役顔をした男に凄まれ、今にも喧嘩をはじめようとしていた学生たちは気圧されてしまった。
アビリティが使えない不可思議な状況に恐怖しながら、無言で彼の言うことに従う。
「……どうやら俺を巡って争っていたらしいが、何か勘違いしてないか?俺は人間か獣人か、どちらかを選ぶなんてみみっちいことに興味はない。お前たちに担がれる人形でもない」
完全に教室が静粛になったのを確認し、悪役顔の男、レゼン・ヴォロディは語り始めた。
「俺が望むのは……人間が獣人かに関わらず、この学校の生徒が団結すること。学業に励み、仲間を尊重し、スラヴァ王国を侵略する者には断固として立ち向かう。これだけだ」
本来であれば担任が立つはずの教壇に立ち、悪役顔の男は叫んだ。
「だが、今のお前たちがすぐに俺の理想を叶えるのは難しいように見える。ならば、根性を叩き直すまでは俺の言うことに従ってもらおう!従う者には力を貸してやる!」
呆気にとられる女学生たちなど気にもとめない。
それが自分の使命であるかのように。
「俺が第8クラスに求めるのは、お前たち全員の尊敬と服従……すなわち、ハーレムだ!!!まずは喧嘩をやめ、本日の授業を粛々と受けるように!」
****
「今日は何から何まで済まなかった。レゼン・ヴォロディ候補生」
「ガツンと言ってやったのでみんな懲りたでしょう。明日はもう少しおとなしいはずです」
夕方。
授業が終わり解散した後、俺は再びマリア先生に呼び出された。
眼帯をつけたキツネ耳の美人先生の表情はあくまでクールだが、朝よりは柔らかくなった気がする。
「ごほん……ま、ハーレム発言はさすがに大胆すぎると思ったがな」
「あはは、目標を分かりやすく話したってことで」
「ソーニャの言う通り君は面白い人物だ。君なら、この学校をユリヤ王女の願う姿に変えてくれるかもしれない」
「お褒めにあずかり光栄です」
「私も、ユリヤ王女からスカウトを受けた身として、もっと精進しよう。この国を守るために……」
「その意気です。ところでどうです?」
「ん?」
「今日の夜、もしよければどこかで食事でも」
「なっ……!」
かっこよく〆ようとしたマリア先生の表情が再び崩れる。
「せせせ先生をからかうなと言っただろ!?ま、まぁ……今後の進路や学業について相談したいというのであれば、特別に同席しても良いが……へ、変なことはダメだからな?」
やっぱ先生ちょろいっす。
****
「今日も大活躍でしたねレゼンさん!また新しいアビリティを使ったんですか?」
「いや、アビリティ自体は増えてない。ちょっとした工夫さ。いずれ分かる」
その日の夜。
俺はミラと共に学生寮の食堂へと向かった。
全寮制学校なので当然だが、本来なら食堂で食事をとる。
流石に毎日ミラの手料理ってわけにはいかないわけだ。
「はい、あーん。今日のジャガイモは大きいですよ」
「あーん」
……何故かこのあーんだけは無くならないが。
まぁあまり気にならなくなってきたしいいだろう。
これがきっと、バブ味というやつかもしれない。
「ふう。学校で授業を受けるなんて久しぶりだから流石に疲れたな」
「ふふふ、レゼンさんって時々不思議なことを言いますよね。メリホストに入る前は幼年学校に通ってたはずなのに」
「独り言だと思ってくれ。悪役は変なことを口走るものなのさ」
とりあえず教室の秩序は保ったものの、流石にわだかまりが消えたりはしないだろう。
ゲームでは心優しいペトロ・オレクシーが様々なクエストを通じて対立を解消するんだが、本来より対立が深まってるし得策じゃない。
なんせ、ゲーム通りなら第二次ヴラス帝国の侵攻は来年の2月。
残り10ヶ月ほどしかない。
手段を選んでる場合じゃないんだ。
「ふふふ……」
ミラがこちらをじっと見つめていたが、クスリと笑った。
笑い声や口を抑える仕草まで可愛いなんて反則だと思う。
「ん?どうかしたか?」
「いえ。きっと、みんなのことを真剣に考えていたんだろうなと。レゼンさんは優しいですから」
「そんなことはない。この顔の通り悪どいことを考えていたし、クラスの女子をハーレムに加えると言ったばかりだぞ」
「いつも寝言で言ってます。『俺はみんなを助けるんだ。破滅を回避するんだ』って」
う。
寝言と来たか。
こりゃ一本取られたな。
そういえば、結局エクストラモードのことはミラに話せてない。
話しても信じてくれるだろうが、どこまで巻き込んでいいか分からないし。
それに、もしかすれば戦争が起きないと言う可能性も……
「レゼンさん」
俺の気持ちを読んだのか、ミラはこちらの目を真っ直ぐと見つめた。
「ミラは、レゼンさんの味方です。何があっても。ずっと、ずーっと一緒です」
目を優しく細め、口を緩める青い髪の娘。
ミラはゲームよりも何倍も美しく見えた。
クソゲーをプレイしててずっと手に入れたかったもの。
そして、ゲームでは手に入らなかったもの。
「だから、ミラにも少し協力させてくれませんか?」
「協力?」
「はい。きっと、レゼンさんは私やみんなの為に一人で全力を尽くしています。でも、ミラは心苦しいんです。レゼンさんだけに責任を押し付けてる気がして」
「……」
「全ての真実を話す必要はありません。少しだけでいいから、レゼンさんの役に立ちたいんです」
ああちくしょう。
「いや、ですか?」
上目遣いで言われたら俺が断れねーって知ってるんじゃないか?
初めてこの世界に来てよかったと思ってしまったぜ。
クソゲーの制作陣に感謝なんて、絶対したくないってのによ……
「分かった。頼りにする。気にかけてくれてありがとうな」
「はい!なんでも言ってください」
「言っておくが、俺は結構悪どいことを考えてるぞ。あと、明日の夜は数時間肉体労働だ。それでもいいのか?」
「大丈夫です!子供の頃、お父さんが持ってた推理小説をよく読んでましたから」
「お、おう」
過程はともかく、こうして協力者が1人増えた。
明日からもどんどん学校寝取り計画を進めていこう。
まずは──、
無能の追放からだ。
****
本日の更新はここまで!
7月15日までサクサク更新します~~
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